ぶどう膜炎|症状・検査/診断・治療
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目次
10秒サマリー
- まず「感染か、非感染か」:ぶどう膜炎は単一の病名ではなく、感染症から全身性の自己免疫疾患、腫瘍まで、多くの原因疾患をまとめた呼び名である。治療の方向が正反対になるため、原因が感染症かどうかの見極めが最初の分かれ道になる。
- 非眼科医の役割:診断と局所治療は眼科医が担う。内科・救急・病棟医に求められるのは、内因性・術後眼内炎、急性網膜壊死、サイトメガロウイルス網膜炎、Vogt-小柳-原田病の初発、急な眼圧上昇を疑ったら当日中に眼科へつなぐこと、梅毒や眼内リンパ腫(仮面症候群)を疑えば全身検索と並行して早めに眼科へ紹介すること、そして全身検索と全身治療の安全管理である。
- ステロイドを先に出さない:原因がわからない充血・霧視に、眼科診察なしでステロイド点眼や全身ステロイドを始めない。ヘルペス性ではステロイド単独が効かず、感染性ぶどう膜炎にトリアムシノロンの後部テノン嚢下注射を行うと、炎症が急に悪化するおそれがある。
- 全身治療の前に感染症を確認:ステロイド全身投与・シクロスポリン・TNF阻害薬の前には、結核(IGRA・胸部画像)、B型肝炎(HBs抗原、HBc抗体、HBs抗体)、C型肝炎、梅毒などを確認する。
- 保険適応の範囲:ぶどう膜炎で保険適用のある免疫抑制薬はシクロスポリンのみ。TNF阻害薬はインフリキシマブがベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎、アダリムマブが非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分な場合。用法・用量は成人で規定)に限られる。
概要・疫学
ぶどう膜(虹彩・毛様体・脈絡膜)を中心とする眼内の炎症の総称で、網膜・硝子体・視神経にも炎症が及ぶ。一度発症すると再発をくり返し、慢性化しやすい。
日本での原因疾患の内訳
日本眼炎症学会の2009年の調査では、多い順に次のとおりだった。
| 順位 | 疾患 | 割合 |
|---|---|---|
| 1 | サルコイドーシス | 10.7% |
| 2 | Vogt-小柳-原田病(VKH) | 7.0% |
| 3 | 急性前部ぶどう膜炎 | 6.6% |
| 4 | 強膜炎 | 6.2% |
| 5 | ヘルペス性虹彩炎 | 4.2% |
| 6 | ベーチェット病 | 3.9% |
- 2002年の調査ではベーチェット病は3番目(6.2%)で、減少と軽症化が報告されている。逆にサルコイドーシスは増加傾向にある。
- 2002年の調査では、全体の16%が感染性、38.9%が原因を特定できない「分類不能」だった。
- 感染性では眼トキソプラズマ症が減り、単純ヘルペスウイルス・水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)・サイトメガロウイルス(CMV)など、ヘルペスウイルス属によるものが目立って増えている。
- HTLV-1関連ぶどう膜炎と眼トキソプラズマ症は九州で頻度が高い(2002年調査)。
- 全体では40〜50代に多く、女性がやや多い。ベーチェット病は20〜30代、サルコイドーシスは20〜30代と50歳前後の二峰性を示す。
分類の軸
- 部位:前部(虹彩・毛様体)/中間部/後部(網膜・脈絡膜)/汎ぶどう膜炎。薬の保険適応もこの区分で書かれている(後述)。
- 経過:国際基準(SUN)では、3か月を境に「限定性」と「持続性」を分ける。「慢性」は治療をやめると3か月以内に再燃するもの、「再発性」は発作と発作の間に3か月以上の非活動期をはさむものを指す。
- 病因:感染性(ウイルス、細菌、真菌、梅毒、結核、原虫・寄生虫など)と非感染性(全身疾患に伴うもの、眼局所の疾患)。
症状・所見
患者が訴える症状
ガイドラインの症例に多いのは、充血、霧視(かすみ)、視力低下、眼痛、飛蚊症、変視である。片眼か両眼か、急に始まったか、くり返しているかを必ず聞く。
一方、若年性特発性関節炎(JIA)に伴う小児の慢性虹彩毛様体炎は、充血も痛みもない(white uveitis)。自覚症状が出ないまま、角膜の混濁や白内障で視力が落ちてから見つかることがある。
眼科医が見ている所見(紹介状を読むための用語)
- 前房細胞・フレア:細隙灯顕微鏡で前房内の炎症細胞と蛋白の濁りを見る。SUNでは1mm×1mmのスリット光の範囲にある細胞数で0〜4+に段階づける。
- 角膜後面沈着物:大きく脂っぽい「豚脂様」は肉芽腫性の炎症(サルコイドーシス、ヘルペスなど)を示唆する。
- 前房蓄膿:前房の下方に白血球がたまったもの。体位で容易に動き、水平面(ニボー)をつくればベーチェット病、粘り気があり中央が盛り上がればHLA-B27関連を考える手がかりになる。
- 虹彩結節・隅角結節、虹彩後癒着:結節は肉芽腫性炎症の所見。後癒着は虹彩が水晶体に貼りつく状態で、全周に及ぶと眼圧が急上昇しうる。
- 硝子体混濁:雪玉状・数珠状の混濁はサルコイドーシスに典型的。ヴェール状・オーロラ様の濃淡のある混濁は眼内リンパ腫を疑う。
- 眼底病変:網膜血管炎、網膜滲出斑、網膜出血、滲出性網膜剝離、視神経乳頭の発赤・腫脹など。
検査・鑑別
原因検索のための全身検査(内科で協力できる部分)
眼所見から候補を絞ったうえで、次の検査を組み合わせる。
| 目的 | 検査 | 主に考える疾患 |
|---|---|---|
| 肉芽腫性疾患 | 胸部X線・胸部CT(両側肺門リンパ節腫脹)、血清ACE、リゾチーム、可溶性IL-2受容体 | サルコイドーシス |
| 結核 | IGRA(QFT、Tスポット)、ツベルクリン反応、胸部画像、喀痰検査 | 結核性ぶどう膜炎 |
| 梅毒 | RPR、TPHA | 梅毒性ぶどう膜炎 |
| 地域性ウイルス | 抗HTLV-1抗体 | HTLV-1関連ぶどう膜炎 |
| HLA | HLA-B27、HLA-B51・A26 | HLA-B27関連、ベーチェット病 |
| 腎尿細管 | 尿中β2ミクログロブリン、NAG、BUN・Cr | 間質性腎炎ぶどう膜炎(TINU)症候群 |
| 代謝 | 血糖、HbA1c | 糖尿病虹彩炎 |
| 血行性感染 | 血液培養、β-Dグルカン、感染巣の検索 | 内因性(転移性)眼内炎 |
| 神経・耳 | 髄液検査(細胞増多)、聴力検査(感音難聴) | VKH、交感性眼炎 |
眼科で行う検査
- 眼内液(前房水・硝子体液)のPCR:HSV、VZV、CMVなどのDNAを検出する。ヘルペス性かどうかの判定に欠かせない。
- 硝子体生検:細胞診、免疫グロブリン遺伝子再構成、サイトカイン測定(IL-10が高く、IL-10>IL-6)で眼内リンパ腫を診断する。眼内炎では培養・塗抹にも使う。
- 画像:フルオレセイン蛍光眼底造影(血管炎や漏出の評価)、光干渉断層計(OCT。黄斑浮腫、網膜下液、脈絡膜の肥厚)、超音波Bモード(中間透光体が濁って眼底が見えないとき)。
主な原因疾患と見分ける手がかり
| 疾患 | 手がかり |
|---|---|
| サルコイドーシス | 両眼性で中高年女性に多い。豚脂様沈着物、虹彩・隅角結節、雪玉状硝子体混濁、網膜静脈周囲炎。肺門リンパ節腫脹、心病変(高度房室ブロック、心室頻拍など)、皮膚病変を探す |
| VKH | 両眼の急な視力低下と滲出性網膜剝離。眼症状の1〜2週前に頭痛、耳鳴・難聴、頭髪の違和感、かぜ様症状が先行する。回復期に白斑・白髪・脱毛 |
| ベーチェット病 | 20〜40歳で発症し、眼炎症は男性に多い。発作的に起こり1〜2週で引く炎症をくり返す。口腔内アフタ、毛嚢炎様皮疹・結節性紅斑、外陰部潰瘍を確認する |
| HLA-B27関連 | 若年男性に多い片眼の激しい前部炎症。毛様充血、フィブリン、前房蓄膿。強直性脊椎炎、潰瘍性大腸炎・クローン病、乾癬などとの合併に注意 |
| ヘルペス性前部ぶどう膜炎 | 片眼性で高齢者に多い。豚脂様沈着物に眼圧上昇・角膜浮腫を伴う。晩期に虹彩萎縮。ステロイド点眼だけでは改善しない |
| Posner-Schlossman症候群 | 片眼の発作性高眼圧(30〜40mmHg以上、時に60mmHg超)に軽い前房炎症。CMV虹彩炎との区別には前房水PCRが必要 |
| 糖尿病虹彩炎 | 血糖コントロールが著しく悪い30〜40代に、フィブリンや前房蓄膿を伴う強い前部炎症 |
| TINU症候群 | 10〜30代の女性に多い。両眼の炎症に、尿細管障害の尿所見と腎機能低下を伴う |
専門医へのコンサル基準
ぶどう膜炎が疑われる時点で眼科紹介が原則である。そのうえで、次の状況は当日中の受診を確保する。
当日中に眼科へ(視力と生命予後にかかわる)
- 内因性(転移性)眼内炎を疑うとき:発熱、菌血症・敗血症、肝膿瘍、尿路感染症、心内膜炎の患者が視力低下や眼痛を訴えたとき。中心静脈栄養やカテーテル留置中、消化管手術後の患者では真菌性眼内炎も考える(β-Dグルカン、血液培養を提出)。高齢者や糖尿病患者では全身症状が乏しく、眼の症状が先に出て腎盂腎炎や肝膿瘍が見つかることがある。
- 内眼手術・眼外傷の後:白内障手術などの数日後に充血・眼痛・視力低下が出たら術後眼内炎を考える。細菌性眼内炎は進行が速く、早期の硝子体手術が必要になる。
- 急性網膜壊死を疑うとき:片眼の充血・霧視に眼圧上昇を伴い、眼底周辺部に黄白色病変が広がる。HSVやVZVが原因で、治療が遅れると反対眼にも起こりうる。網膜剝離に至る率が高い。ヘルペス脳炎・髄膜炎の経過中や治癒後に起こることもある(帯状疱疹、ウイルス性髄膜炎も参照)。
- 免疫不全患者の視力障害:AIDS、臓器移植後、悪性リンパ腫・白血病・成人T細胞白血病などでは、CMV網膜炎を考える。
- 両眼の急な視力低下+頭痛・耳鳴・難聴:VKHの初発例が多く、早期にステロイド大量療法が必要になる。
- 急な高眼圧:Posner-Schlossman症候群や、全周の虹彩後癒着による瞳孔ブロックなど。眼圧を下げる治療が必要になる。
「ぶどう膜炎らしくない」経過は仮面症候群を疑う
- 眼内リンパ腫:50〜70歳に多く、ステロイドを使っても硝子体混濁や網膜下病巣が改善しない。中枢神経系リンパ腫を発症することが多く、頭部造影MRIやPET/CTで全身を評価する。
- 成人T細胞白血病/リンパ腫(ATLL)の患者:HTLV-1関連ぶどう膜炎よりも、日和見感染や腫瘍細胞の眼内浸潤をまず考える。
- TNF阻害薬を使っている患者:眼内リンパ腫が疑われたら投与を中止し、硝子体生検を含めて診断する(日本眼炎症学会の使用指針)。
全身疾患の側から眼科へ
- 梅毒の患者:国内では2010年以降、梅毒性ぶどう膜炎が急増している。視神経炎があれば神経梅毒の合併を考える。HIV陽性者では重症化しやすい。
- サルコイドーシス、ベーチェット病、強直性脊椎炎、炎症性腸疾患の患者:眼の症状を訊ね、あれば眼科へ。JIA(特に少関節型)の小児は、眼症状がなくても定期的な眼科での経過観察が大切である。
- ステロイドを長く使っている患者:白内障、眼圧上昇(ステロイド緑内障)が起こりうる。
診断
- ぶどう膜炎そのものの診断は、細隙灯顕微鏡と眼底検査で眼内の炎症を確認することによる。
- 原因疾患の確定には、眼所見のパターン、全身症状、全身検査、必要に応じて眼内液の検査を組み合わせる。ガイドラインが各疾患に示す所見は典型像であり、診断基準ではない点に注意する。
- 疾患ごとの診断基準は別にある。ベーチェット病は厚生労働省の基準と国際基準、サルコイドーシスは日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会などの基準と国際眼サルコイドーシス診断基準、VKHは改訂診断基準(complete・incomplete・probableの3型)が用いられる。
- 手を尽くしても原因が特定できない例が多い(2002年調査で約4割)。分類不能のまま免疫抑制を強める場合も、TNF阻害薬の使用指針が求めるように、感染性ぶどう膜炎と眼内リンパ腫を鑑別しておく必要がある。
治療と処方例
治療の主体は眼科医である。ここでは、非眼科医が処方内容の意味を理解し、全身管理に関わるために必要な範囲を示す。
原則
- 感染性:病原体に対する治療を先に行う。炎症が強く視機能が危ういときは、抗微生物薬への反応を確かめてからステロイドを加えることがある(急性網膜壊死、結核性網膜血管炎、眼トキソプラズマ症など)。
- 非感染性:炎症の部位と強さで、点眼→眼周囲注射→全身投与と段階を上げる。VKHでは初めから全身投与を行う。
1. 局所治療(前部の炎症が中心)
- ベタメタゾン点眼(リンデロン点眼・点耳・点鼻液0.1%)
- 添付文書の眼科用量は1回1〜2滴、1日3〜4回(症状により適宜増減)。効能に「前眼部ブドウ膜炎」を含む。
- ガイドラインでは、前房細胞が1+以上なら1日4〜6回から始め、フィブリンや前房蓄膿があれば回数を増やす。改善に応じて回数を減らし、0.1%フルオロメトロン(フルメトロン点眼液0.1%、1回1〜2滴・1日2〜4回)などの弱い薬に替える。細胞が消えてから1〜2週は続け、再燃がなければ中止する。
- 散瞳薬(虹彩後癒着の予防・解除)
- ミドリンP点眼液:ガイドラインでは1日1〜6回。
- 日点アトロピン点眼液1%:ガイドラインでは1日1回(添付文書は1日1〜3回)。
- どちらも緑内障や浅前房など眼圧が上がりやすい患者には禁忌(急性閉塞隅角緑内障の発作を起こすおそれ)。点眼後は見えにくくなるため、運転を控えるよう伝える。
- ベタメタゾン結膜下注射(リンデロン注2mg〈0.4%〉)
- フィブリン、前房蓄膿、虹彩後癒着を伴う強い前部炎症に。添付文書の結膜下注射量は1回0.4〜2mg(液量0.2〜0.5mL)。眼科領域では原則として2週間以上の長期投与を避ける。
- 2〜3日たっても後癒着が残れば再度の注射を検討する。
- トリアムシノロン後部テノン嚢下注射(マキュエイド眼注用40mg)
- 1回20mg(懸濁液0.5mL)。添付文書上のテノン嚢下投与の効能は「非感染性ぶどう膜炎に伴う黄斑浮腫の軽減」(ほかに糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症)。再投与は3か月以上あけ、継続的な長期投与は避ける。
- ガイドラインは硝子体混濁や黄斑近くの滲出病変などにも用いるとしているが、黄斑浮腫以外の目的は添付文書の効能の範囲外となる。
- 感染性ぶどう膜炎に行うと炎症が急激に悪化するおそれがある。白内障の進行と眼圧上昇にも注意。
- なお、ケナコルト-A(筋注用関節腔内用水懸注)は添付文書で眼科用の使用をしないよう記載されている。
2. ステロイド全身投与
適応:黄斑浮腫や広い網脈絡膜炎・網膜血管炎、滲出性網膜剝離、視神経乳頭の浮腫・肉芽腫など、視機能をおびやかす後眼部の炎症。局所治療で抑えられない重い前部炎症も含む。
- プレドニゾロン(プレドニン錠5mg)
- ガイドラインの開始量は0.5mg/kg/日以上、重症なら1mg/kg/日。朝1回、または朝・昼の2回に分ける。例:体重60kgで1日30mg。
- 添付文書の通常量は1日5〜60mgで、効能に眼科領域の「ブドウ膜炎、網脈絡膜炎、網膜血管炎」を含む。
- 十分に炎症が引いたのを確かめてから減らし始める。減量中に再燃したら、開始量か直前の量に戻し、前回よりもゆっくり減らす。
- サルコイドーシスの眼病変では、0.5〜1.0mg/kg/日を2〜4週続け、4〜8週ごとに5〜10mg/日ずつ減らす。全体で半年〜1年以上かかる。
- 中止するときは、ACTHとコルチゾールで副腎機能の回復を確かめる。
- 点滴によるステロイド大量療法(VKH初発例など)
- ガイドラインでは、ベタメタゾンの初期大量投与とメチルプレドニゾロンのパルス療法が示されている。パルス療法中は不整脈や心不全が起こりうるため心電図モニターを付ける。
- ソル・メドロール静注用の添付文書の効能にぶどう膜炎は含まれていない(適応外使用になる)。
投与前に確認すること
- 肝・腎機能、空腹時血糖、血圧、脂質。糖尿病、消化性潰瘍、骨折歴、精神疾患の有無。
- 感染症:梅毒血清反応、ヘルペス抗体、HBV、HCV、胸部X線、IGRA(ツベルクリン反応が強陽性ならIGRAを追加)。
- B型肝炎:まずHBs抗原。陽性なら肝臓専門医へ。陰性ならHBc抗体・HBs抗体を測り、既往感染ならHBV DNAを測定する(慢性B型肝炎も参照)。
- 水痘:大量投与中に水痘に初めてかかると致命的になりうるため、抗体の有無を事前に確認する。投与中の生ワクチンは禁忌。
投与中の管理
- 1〜2か月ごとに血圧・体重・血液検査。
- 長期投与では骨粗鬆症の予防を検討する。ぶどう膜炎ガイドラインは2004年の基準(プレドニゾロン5mg/日以上を3か月以上など)を引用しているが、現在の判断は最新のステロイド性骨粗鬆症のガイドラインに従う(ステロイド性骨粗鬆症)。
- NSAIDs併用時はPPIやH2ブロッカーを併用する。
- 発熱や咳が続けば、結核を含む肺感染症を考えて速やかに呼吸器内科へ相談する。
- 小児では成長抑制があるため、小児科と連携する。
3. 免疫抑制薬:シクロスポリン
- シクロスポリン(ネオーラル)
- 効能:ベーチェット病(眼症状のある場合)と、その他の非感染性ぶどう膜炎(既存治療で効果不十分で、視力低下のおそれがある活動性の中間部または後部に限る)。ぶどう膜炎で保険適用のある免疫抑制薬はこれだけである。
- 用量:1日5mg/kgを2回に分けて開始し、以後1か月ごとに1日1〜2mg/kgずつ増減。維持量は1日3〜5mg/kgが標準。
- 効果が出るまで1〜2か月かかるため、開始後1か月はステロイドを減らさない。
- 注意:腎機能障害が多い。ベーチェット病では神経ベーチェット病症状の誘発・悪化が報告されている(ガイドラインでは約20%)。肝・腎障害があってコルヒチンを服用中の患者には禁忌。
4. TNF阻害薬
日本眼炎症学会の使用指針により、眼科的な適応と治療継続の可否を判断する眼科医は、眼科専門医かつ同学会会員でeラーニングを修了していること、導入施設・維持療法施設は学会に登録されていることが求められる(導入や管理は膠原病内科など他科が担ってもよい)。内科医との連携が前提となる。
| 薬剤 | 国内のぶどう膜炎での効能 | 用法・用量 |
|---|---|---|
| インフリキシマブ(レミケード) | 既存治療で効果不十分な、ベーチェット病による難治性網膜ぶどう膜炎(シクロスポリン等で効果不十分な場合) | 5mg/kgを点滴静注。初回、2週後、6週後、以後8週ごと |
| アダリムマブ(ヒュミラ) | 既存治療で効果不十分な、非感染性の中間部・後部・汎ぶどう膜炎(用法・用量は成人で規定。ベーチェット病ではシクロスポリン等、それ以外では経口ステロイド等で効果不十分な場合) | 初回80mg、1週後40mg、3週後以降は40mgを2週ごとに皮下注射 |
- インフリキシマブをベーチェット病以外のぶどう膜炎に使うこと、アダリムマブを前部ぶどう膜炎だけの患者に使うことは、いずれも添付文書の効能の範囲外である。
- 禁忌:活動性結核を含む重い感染症、うっ血性心不全(指針ではNYHA III度以上)、脱髄疾患とその既往、治療中の悪性腫瘍。
- 感染性ぶどう膜炎には使わない(結核、梅毒、トキソプラズマ、急性網膜壊死などのヘルペス性、CMV網膜炎、細菌性・真菌性眼内炎)。
- 潜在性結核:可能性が高ければ、開始3週前からイソニアジド(原則300mg/日)を6〜9か月内服する。結核は肺外に出ることも多い。
- HBV既往感染者では開始後少なくとも6か月は月1回HBV DNAを測る。治療中は生ワクチンを避け、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンなどの不活化ワクチンは積極的に接種する。
- サルコイドーシス患者では、アダリムマブ使用中の悪化が報告されている。TNF阻害薬で逆にサルコイドーシスが出たり悪化したりする現象(paradoxical reaction)は、エタネルセプトでの報告が多い。
5. 疾患別のポイント
- ベーチェット病:発作時はステロイドと散瞳薬の点眼、重ければ眼周囲注射。発作を減らす治療は、ガイドライン上はコルヒチン→シクロスポリン→TNF阻害薬の順(重症例では早めにTNF阻害薬)。ただしコルヒチンの添付文書の効能は痛風発作と家族性地中海熱のみで、ベーチェット病は適応外。また、日本ではステロイドの全身投与は一般的に行わない(減量・中止時に激しい発作が起こり、視力予後が悪くなるため)。
- VKH・交感性眼炎:初発例はステロイド大量療法で始め、眼所見を見ながら減らす。長期化しそうならシクロスポリンを併用する。交感性眼炎は、穿孔性眼外傷や内眼手術の後に両眼に起こる、VKHと同じ病態の疾患である。
- HLA-B27関連:ステロイド点眼・眼周囲注射、反応が乏しければ内服。後癒着が起こりやすいので散瞳薬が重要。脊椎炎や腸疾患は整形外科・消化器内科と連携する。
- 糖尿病虹彩炎:ステロイドと散瞳薬の点眼に加え、内科で血糖を改善させると比較的速やかに治まる(糖尿病)。
- ヘルペス性前部ぶどう膜炎:バラシクロビルやアシクロビルの内服が中心で、必要に応じてステロイド点眼や眼圧下降薬を併せる。
- 急性網膜壊死:アシクロビルやバルガンシクロビルの全身投与に、ステロイドの全身投与と点眼を併用する。閉塞性血管炎に低用量アスピリンを使うことがある(効果は定まっていない)。網膜剝離に対して硝子体手術が必要になることが多い。
- CMV網膜炎:バルガンシクロビル内服、またはガンシクロビルやホスカルネットの点滴を2〜3週間行い、その後は維持療法に移る。視神経乳頭や黄斑の近くの病変では硝子体内注射も使う。AIDSでは抗HIV療法で免疫を回復させないと必ず再燃する。
- 梅毒性ぶどう膜炎:国内では経口の合成ペニシリンが多く使われてきた。一方、眼梅毒の多くは神経梅毒を合併するため、米国CDCは神経梅毒に準じた治療を勧めている。神経梅毒合併例ではベンジルペニシリンカリウムまたはセフトリアキソンを点滴する。
- 結核性ぶどう膜炎:眼外に結核がなくても、耐性化を防ぐために多剤併用で6〜9か月治療する(イソニアジド・リファンピシン・エタンブトール・ピラジナミドの3〜4剤を2か月、その後イソニアジド・リファンピシンを4〜7か月)。活動性肺結核があれば呼吸器科の管理下で行う(肺結核)。ステロイドは抗結核薬単独の効果を見てから加える。
- 細菌性眼内炎:広域の抗菌薬を局所と全身にすぐ始める。眼底が見えないほど濁る、網膜下膿瘍がある場合は早期に硝子体手術を行う。
- 真菌性眼内炎:フルコナゾール、ホスフルコナゾール、ボリコナゾールの点滴・内服・硝子体内投与が基本で、重症例は硝子体手術を行う。
6. 合併症への手術
- 併発白内障:炎症が落ち着いた状態が一定期間続いてから手術を計画する。
- 続発緑内障:原因は後癒着による瞳孔ブロック、隅角の癒着、房水流出路の障害、ステロイドの副作用など。点眼で下がらなければレーザー虹彩切開や線維柱帯切除などを行う。
- 硝子体手術:薬で消えない硝子体混濁、黄斑上膜、治りにくい囊胞様黄斑浮腫、急性網膜壊死の網膜剝離、眼内炎、診断目的の生検(眼内リンパ腫など)が対象となる。
resi Dr.の眼(Pitfalls)
- 「片眼だけ・眼圧が高い・ステロイド点眼が効かない」はヘルペスを疑う:前房水PCRで確かめないまま、ステロイド点眼だけを続けると慢性化することがある。
- 病棟の発熱患者の「目がかすむ」を見逃さない:菌血症やカンジダ血症の患者では、眼内炎が眼の症状だけで見つかることがある。血液培養とβ-Dグルカンを出し、眼科の診察を依頼する。
- ステロイドが効かない高齢者のぶどう膜炎は、まず眼内リンパ腫を除外する:漫然とステロイドを続けると診断が遅れる。
- ベーチェット病に内科の感覚でステロイドを使わない:日本では眼病変へのステロイド全身投与は一般的でない。シクロスポリンを使う場合は、神経ベーチェット病症状の出現とコルヒチンとの併用禁忌(肝・腎障害時)に注意する。
- 散瞳薬の禁忌を確認する:浅前房や狭隅角の患者では、散瞳で急性閉塞隅角緑内障の発作が起こりうる。
- サルコイドーシスの眼病変を診たら全身を見る:房室ブロックや心室性不整脈などの心病変、中枢神経病変がないかを確認し、他科と連携する。
- 免疫抑制を始める前にB型肝炎を必ず確認:HBs抗原陰性でも、HBc抗体やHBs抗体が陽性の既往感染者は再活性化しうる。
予後・患者説明
- 多くは再発をくり返し、長い付き合いになる。治療が遅れたり不十分だったりすると、白内障、緑内障、囊胞様黄斑浮腫、黄斑上膜、網膜剝離、視神経萎縮などが残る。
- 予後は原因で大きく異なる。HLA-B27関連は一般に視力予後がよい。ベーチェット病は発作をくり返すと、網脈絡膜萎縮や視神経乳頭の蒼白化などが残り、重い視力障害につながる。急性網膜壊死は網膜が復位しても視力予後が悪いことが少なくない。眼内リンパ腫は経過中に中枢神経系リンパ腫を発症することが多い。
- 患者への説明例
- 「目の中の炎症ですが、原因はたくさんあります。原因を調べるために、目だけでなく全身の検査もさせてください」
- 「再発しやすい病気です。見え方が急に悪くなったり、充血や痛みが出たりしたら、予約日を待たずに受診してください」
- 「ステロイドは自己判断でやめないでください。急にやめると炎症がぶり返したり、体が必要なホルモンを作れなくなったりします」
- 「ステロイドの目薬を長く使うと、眼圧が上がったり白内障が進んだりすることがあるので、定期的に眼圧を測ります」
参考文献
- 日本眼炎症学会ぶどう膜炎診療ガイドライン作成委員会.ぶどう膜炎診療ガイドライン.日眼会誌 2019;123:635-696.(PDF)
- 日本眼炎症学会TNF阻害薬使用検討委員会.非感染性ぶどう膜炎に対するTNF阻害薬使用指針および安全対策マニュアル(改訂第2版,2019年版).日眼会誌 2019;123:697-705.(PDF)
- 日本眼炎症学会編.ぶどう膜炎診療ガイドライン 第2版.文光堂,2026.(本稿の内容は第1版に基づく。第2版では鑑別のフローチャートや免疫チェックポイント阻害薬に関連するぶどう膜炎などが追加されている)
- 添付文書(KEGG MEDICUS):リンデロン点眼・点耳・点鼻液0.1%、フルメトロン点眼液、ミドリンP点眼液、日点アトロピン点眼液1%、リンデロン注2mg(0.4%)、マキュエイド眼注用40mg、ケナコルト-A、プレドニン錠5mg、ソル・メドロール静注用、ネオーラル、コルヒチン錠0.5mg「タカタ」、ヒュミラ皮下注、レミケード点滴静注用100(2026年10月閲覧)
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