概要
ウイルス性髄膜炎は、ウイルス感染によって髄膜に炎症が生じる疾患である。細菌性髄膜炎と比較して軽症であることが多く、自然治癒することも多いが、病原体によっては重篤な経過をたどる場合もある。診断には髄液検査が重要であり、細菌感染との鑑別が求められる。
疫学
- 発症頻度:ウイルス性髄膜炎は無菌性髄膜炎の大部分を占める
- 季節性:エンテロウイルスによるものは初夏から秋にかけて多発
- 感染経路:糞口感染、飛沫感染、接触感染など
主な原因ウイルス
- エンテロウイルス属(エコーウイルス、コクサッキーウイルス):最も多い原因
- ムンプスウイルス(おたふくかぜウイルス)
- 単純ヘルペスウイルス(HSV-2型)
- 水痘・帯状疱疹ウイルス
- 麻疹ウイルス、風疹ウイルス
リスク因子
- 小児や若年成人(特にエンテロウイルス感染)
- 免疫抑制状態(HIV感染者、高齢者)
- 既往歴(性器ヘルペス、ワクチン未接種)
身体所見・症状
- 発熱、頭痛、悪心・嘔吐の急性発症
- 髄膜刺激徴候(項部硬直、羞明、Kernig徴候)
- 倦怠感、筋肉痛、皮疹などの全身症状を伴う場合もある
- 意識障害、精神症状、けいれんが出現した場合は髄膜脳炎(脳実質への炎症波及)を疑う
検査・診断
ウイルス性髄膜炎は、急性発症の発熱、頭痛、髄膜刺激症状がみられた場合に疑う。診断は以下の検査によって確定される。
髄液検査
- 初圧は正常〜軽度上昇(100〜300mmH₂O)
- 細胞数軽度増加(30〜300/μL)、単核球優位
- 髄液蛋白は軽度増加(50〜100mg/dL)
- 髄液糖は通常正常範囲(やや低下する例もある)
- グラム染色では微生物が検出されない
血液検査
- 白血球数は正常または軽度増加
- CRPは軽度上昇(細菌性髄膜炎ほど上昇しない)
画像検査
- 頭部CT・MRIでは通常異常なし(髄膜脳炎の場合は異常所見を認める)
ウイルスの同定
- 髄液PCR検査(エンテロウイルス、単純ヘルペスウイルスなど)
- ペア血清による抗体価測定(入院時と2週間後)
合併症
- 髄膜脳炎(脳実質への炎症が疑われる場合)
- 単純ヘルペスウイルス(HSV-2)による再発性無菌性髄膜炎(Mollaret髄膜炎)
- ムンプスウイルスによる難聴
治療法
ウイルス性髄膜炎の治療は主に支持療法が中心となる。
支持療法
- 安静、十分な水分・電解質補給
- 解熱鎮痛薬(アセトアミノフェンなど)
- 制吐薬(悪心・嘔吐が強い場合)
抗ウイルス薬の適応
- 単純ヘルペスウイルス(HSV-2)や水痘・帯状疱疹ウイルスが疑われる場合
- アシクロビル(ゾビラックス®) 10mg/kg 8時間ごと 静注(7日間)
- ムンプスウイルスによる難聴予防
- ステロイドの使用を検討(有効性については議論あり)
予後
- 多くは1か月以内に後遺症なく回復
- 髄液細胞数の増加は2か月程度持続することがある
- 単純ヘルペスウイルス、ムンプスウイルスが原因の場合は後遺症(神経障害、難聴)が残ることがあるため注意