概要
結核性髄膜炎は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)による髄膜の慢性炎症であり、主に肺結核からの血行性播種によって発症する。発症は亜急性の経過をたどることが多く、早期診断と治療が遅れると致死的な転帰をとることがある。特に免疫不全者では重篤化しやすいため、早期に抗結核薬を開始することが重要である。
疫学
- わが国では結核の新規登録患者は年間約1.8万人
- 結核性髄膜炎は新規結核患者の約0.9%、肺外結核の約2.7%を占める
- 免疫不全者(HIV感染、糖尿病、免疫抑制薬使用者)に多い
- 高齢者、低栄養、喫煙者、慢性腎不全患者でのリスクが高い
感染経路
- 肺結核などの感染巣から血行性に播種
- くも膜下腔に結核菌が侵入し、慢性的な髄膜炎を引き起こす
- 脳底部での炎症が強く、脳神経障害や水頭症を合併しやすい
身体所見・症状
- 亜急性の発熱、頭痛、倦怠感、食欲低下
- 髄膜刺激症状(項部硬直、Kernig徴候、Brudzinski徴候)は不明瞭なことがある
- 進行すると**意識障害、けいれん、片麻痺、脳神経麻痺(外転神経、動眼神経、顔面神経など)**が出現
- 視力・聴力障害、嚥下障害、尿閉を伴うことがある
検査・診断
髄液検査
- 初圧の上昇
- 細胞数増多(10~1,000/μL)、単核球優位または混合型
- 髄液蛋白の増加(50~300mg/dL)
- 髄液糖の低下(血糖値の1/2以下)
- 髄液アデノシンデアミナーゼ(ADA)高値(15U/L以上で強く示唆)
細菌検査
- 髄液の抗酸菌塗抹(Ziehl-Neelsen染色)は陽性率が低い
- 髄液培養(小川培地)での結核菌同定が確定診断
- PCR法(nested PCR)による結核菌DNA検出は迅速診断に有用
血液検査
- 血沈亢進
- 白血球数の正常~軽度増加
- IGRA(クォンティフェロンTB検査、T-SPOT)が陽性
画像検査
- 頭部CT・MRIで脳底部の髄膜の造影効果、水頭症、脳梗塞、結核腫を確認
- 造影MRIで髄膜の異常な増強効果を認める
合併症
- 水頭症(脳脊髄液の流出障害)
- 脳底部の髄膜炎による多発性脳神経障害
- 脳梗塞(中大脳動脈領域に多い)
- 結核腫(脳内の結節性病変)
- **抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)**による低ナトリウム血症
治療法
抗結核薬の併用療法(標準治療)
結核性髄膜炎の治療では、多剤併用による長期間の抗結核療法が必要。
初期治療(2か月間)
- イソニアジド(イスコチン®) 300~500mg/日
- リファンピシン(リファジン®) 450~600mg/日
- ピラジナミド(ピラマイド®) 1,500~2,000mg/日
- エタンブトール(エサンブトール®) 800~1,200mg/日
維持治療(9~12か月間)
- イソニアジド + リファンピシンを継続
- 治療期間は合計12か月間(状況に応じて延長)
副腎皮質ステロイドの併用
- デキサメタゾン(デカドロン®) 0.3~0.4mg/kg/日(6週間かけて漸減)
- ステロイドは炎症を抑え、脳浮腫や神経障害のリスクを低減
支持療法
- 水頭症の合併時は脳室ドレナージやVPシャント
- けいれん発作に対して抗てんかん薬を使用
- SIADHによる低ナトリウム血症に対し水制限と電解質補正
予後
- 治療開始が遅れると死亡率が30~50%と高い
- 脳神経障害、脳梗塞、水頭症などの後遺症が残ることが多い
- 早期診断と適切な治療により、予後は改善する