N-アセチルシステイン:非アセトアミノフェン中毒の急性肝不全にも強い推奨【米国ACGガイドライン2023】
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目次
急性肝不全の定義
まず、急性肝不全の定義を明示しておく。
“正常肝ないし肝予備能が正常と考えられる肝に肝障害が生じ,初発症状出現から 8 週以内に,高度の肝機能障害に基づいてプロトロンビン時間が 40%以下ないしは INR 値 1.5 以上を示すものを「急性肝不全」と診断する。”
厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する研究」班:急性肝不全の診断基準(2011年)から引用
急性肝不全は、慢性肝炎や肝硬変の増悪を含まないことに注意が必要。
<急性肝不全に含まれるもの>
- B型肝炎ウイルスの無症候性キャリアからの急性増悪
- 自己免疫性で、先行する慢性肝疾患の有無が不明だが、肝機能障害を発症する前の肝機能に明らかな低下が認められない場合
- 先行する慢性肝疾患が肥満やアルコールによる脂肪肝で、肝機能障害の原因がアルコール摂取ではなく、発症前の肝予備能に明らかな低下がない場合
- 薬物中毒、循環不全、妊娠脂肪肝、代謝異常など、肝臓の炎症を伴わない肝不全
<急性肝不全に含まれないもの>
- アルコール性肝炎(原則として慢性肝疾患を基盤として発症する病態のため)
急性肝不全の分類
- 非昏睡型:肝性脳症がない~昏睡度I度
- 昏睡型:昏睡II度以上の肝性脳症
さらに、「昏睡型」は初発症状出現から昏睡II度以上の肝性脳症が出現するまでの期間が 10 日以内の「急性型」と、11 日以降 56 日以内の「亜急性型」に分類される。
遅発性肝不全
プロトロンビン時間が 40%以下ないしは INR 値 1.5 以上で、初発症状出現から 8 週以降 24 週以内に昏睡II度以上の脳症を発現する症例は「遅発性肝不全」と診断し、「急性肝不全」の類縁疾患として扱う。
非アセトアミノフェン中毒の急性肝不全とN-アセチルシステイン(NAC)
N-アセチルシステイン(NAC)は、アセトアミノフェン中毒に対しての解毒作用があり、以前からアセトアミノフェン中毒の急性肝不全に対して使用されてきた。
ほかにも、NACには、抗酸化作用や抗炎症作用も指摘されている。
非アセトアミノフェン性の急性肝不全では、米国の多施設二重盲検RCT(静注NAC 72時間 vs プラセボ、173例)で、3週間の全生存率は改善しなかった(70% vs 66%)が、移植を必要としない生存率は改善した(40% vs 27%)。この改善は昏睡度I~II度の症例に限られ(52% vs 30%)、昏睡度III~IV度では効果を認めなかった。(Gastroenterology. 2009;137(3):856-64.)
その後、前向き研究5件のメタアナリシスでも、移植を必要としない生存率の改善が示された。(Prz Gastroenterol. 2022;17(1):9-16. doi: 10.5114/pg.2021.107797.)
この報告では、NAC治療は移植を必要としない生存率を有意に改善し(55.1%対28.1%;リスク比= 0.56;95%CI:0.33-0.94)、入院期間が短縮されたが(標準化平均差(SMD)= -1.62;95%CI:-1.84~-1.40、p < 0.001)、全体的な生存率は改善しなかった(71%対59.8%;リスク比= 0.73;95%CI:0.48-1.09)。
なお、小児の非アセトアミノフェン性急性肝不全では、NACの有益性は示されていない(EASL 2017ガイドラインでの記載)。
アメリカの急性肝不全ガイドラインでNACは強い推奨に
2023年には米国消化器病学会(American College of Gastroenterology:ACG)の急性肝不全ガイドラインで、
“In patients with non-APAP ALF, we suggest the initiation of IV NAC. GRADE recommendation: strong, moderate quality of evidence.”
Shingina A, et al. Acute Liver Failure Guidelines. The American Journal of Gastroenterology 118(7):p 1128-1153, July 2023.
(非アセトアミノフェン中毒の急性肝不全の患者に対して、静注NACの開始を提案する。強い推奨、中等度のエビデンス)と示された。
本文の表現は “suggest” だが、GRADEの推奨度は “strong” とされている。また、同ガイドラインの本文でも、根拠は昏睡度I~II度の早期例で移植を必要としない生存率が改善したデータとして紹介されている。
一方、米国消化器学会(American Gastroenterological Association:AGA)の2017年ガイドラインでは、非アセトアミノフェン性急性肝不全へのNACは「臨床試験の枠内でのみ使用」とされ、推奨は出されていない。欧州肝臓学会(EASL)の2017年ガイドラインは、非アセトアミノフェン性の症例でも早期(軽度の肝性脳症)のNAC投与を標準治療の一つに挙げている。
アセトアミノフェン中毒による急性肝不全にはNAC早期投与
もちろん、アセトアミノフェン中毒による急性肝不全に対してのNACは変わらず有効であり、ACGガイドラインでも、アセトアミノフェン中毒が疑われる患者へのNACの早期投与が推奨されている(強い推奨、低いエビデンス)。
急性肝不全とNAC
日本でNACを使用する場合は、国内で使える内服製剤(アセチルシステイン内用液17.6%)の効能・効果が”アセトアミノフェン過量摂取時の解毒”のみであり、それ以外の急性肝不全への使用は適応外使用になることには注意が必要である。
また、ACGガイドラインが推奨するのは静注NACだが、国内の医療用医薬品として収載されているアセチルシステイン製剤(内用液・吸入液など)に静注製剤は見当たらない(2026年10月、KEGG MEDICUSで検索)。
なお、今回の内容は急性肝不全についてである。
慢性肝炎の急性増悪などは病態が違うため、記事冒頭の急性肝不全の定義にしっかりと照らし合わせた上で今回の記事を参考にしていただきたい。
参考文献
- 持田 智, ほか. 我が国における「急性肝不全」の概念,診断基準の確立:厚生労働省科学研究費補助金(難治性疾患克服研究事業)「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班,ワーキンググループ-1,研究報告. 肝臓. 2011;52(6):393-398.(J-STAGE)
- 持田 智. 急性肝不全:わが国における課題. 肝臓. 2015;56(9):453-460.(J-STAGE)
- Shingina A, et al. Acute Liver Failure Guidelines. Am J Gastroenterol. 2023;118(7):1128-1153.(doi:10.14309/ajg.0000000000002340)
- Flamm SL, et al. American Gastroenterological Association Institute Guidelines for the Diagnosis and Management of Acute Liver Failure. Gastroenterology. 2017;152(3):644-647.(PubMed)
- European Association for the Study of the Liver. EASL Clinical Practical Guidelines on the management of acute (fulminant) liver failure. J Hepatol. 2017;66(5):1047-1081.(PubMed)
- Lee WM, et al. Intravenous N-acetylcysteine improves transplant-free survival in early stage non-acetaminophen acute liver failure. Gastroenterology. 2009;137(3):856-864.(PubMed)
- Amjad W, et al. N-acetylcysteine in non-acetaminophen-induced acute liver failure: a systematic review and meta-analysis of prospective studies. Prz Gastroenterol. 2022;17(1):9-16.(PubMed)
- アセチルシステイン内用液17.6%「あゆみ」 電子添文(KEGG MEDICUS)
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