原発性胆汁性胆管炎(PBC)診断と治療
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目次
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の概要
原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis:PBC)は、慢性に進行する胆汁うっ滞性肝疾患である。
自己免疫学的機序が関与していると考えられており、肝内の小型胆管(小葉間胆管ないし隔壁胆管)が破壊されることで胆汁がうっ滞し、進行すると肝線維化や肝硬変に至ることがある。
従来「原発性胆汁性肝硬変」と呼ばれていたが、診断時に肝硬変に至っていない例がほとんどとなったため、2016年に「原発性胆汁性胆管炎」へと名称が変更された。
主に中年以降の女性に多く見られるが、近年では相対的に男性患者が増加している。
PBCは、症候性と無症候性に分類され、症候性では皮膚瘙痒感で初発することが多く、黄疸は出現すると漸増することが多い。
進行例では食道胃静脈瘤や腹水、肝性脳症などの症状が現れる。
病態の特徴として、抗ミトコンドリア抗体(AMA)が約90%の症例で検出されることが挙げられる。
胆汁うっ滞による胆管や肝細胞の障害が進行し、適切な治療が行われない場合には肝硬変や肝不全に至る可能性があり、早期診断と治療が重要である。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の疫学
患者数
- 2018年の全国疫学調査では、国内の患者数は推定約37,000人、有病率は人口10万人あたり33.8であった。
- 2004年の調査(有病率11.6)から14年間でおよそ3倍に増加している。
発症年齢・性差
- 主に中高年女性に好発する。
- 好発年齢は女性50歳代、男性60歳代である。
- 男女比は2004年の約1:7から2018年には約1:4.3となり、相対的に男性患者が増加している。
遺伝的背景
- 家族内発症や、一卵性双生児で一方がPBCであれば他方もPBCである確率が高いとの報告があり、遺伝的背景に環境因子が加わって発症すると考えられている。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の身体所見・症状
現在診断されている患者の多く(70〜80%)は症状のない無症候性PBCだが、下記のような症状を有する症候性のPBCに進行することがある。
- 皮膚瘙痒感 :
本症に最も特徴的な症状で、初発症状として多い。黄疸が出現する前の時期から生じ、夜間に増悪することが多い。搔き疵が観察される場合がある。 - 疲労感・全身倦怠感 :
我が国ではあまり注目されてこなかったが、欧米ではPBCの最も一般的な症状とされ、20〜70%の症例にみられると報告されている。 - 黄疸 :
出現すると消退することなく漸増することが多く、黄疸期になると進行性で予後不良である。 - 皮膚黄色腫・骨粗鬆症 :
胆汁うっ滞の進行により、脂質異常症や脂溶性ビタミン(ビタミンDなど)の吸収障害が原因で出現することがある。眼瞼黄色腫がみられることもある。 - 門脈圧亢進症状 :
食道や胃の静脈瘤、脾腫が高頻度で出現する。これらは肝硬変に至る前の段階でも出現しうる。 - 乾燥症状・関節痛 :
合併する他の自己免疫性疾患(シェーグレン症候群、関節リウマチなど)に伴う症状として見られることが多い。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の検査・診断
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診断は、臨床像、血液検査、画像検査、病理所見を総合的に評価して行う。以下に詳細を記載する。
血液検査
胆道系酵素
- ALP(アルカリホスファターゼ)およびγ-GTP(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)優位の上昇を示す。慢性の胆汁うっ滞を反映した所見であり、PBCの特徴である。
- トランスアミナーゼ(ALT、AST)の上昇は胆道系酵素に比べ目立たないことが多い。ALTの著明な上昇がある場合はAIHのオーバーラップを考慮する(後述)。
免疫学的検査
- 抗ミトコンドリア抗体(AMA)は約90%の患者で陽性を示し、疾患特異性が極めて高い。対応抗原のうちM2抗原がPBCに特異性が高く、現在は主要対応抗原(PDC-E2、BCOADC-E2、OGDC-E2)を含む組み換え蛋白を用いたELISA法で測定される(抗ミトコンドリアM2抗体)。
- 抗核抗体(ANA)は約50〜60%で陽性を示す。抗セントロメア抗体(約20〜30%)や抗核膜孔抗体(抗gp210抗体、約20〜30%)が検出される。抗セントロメア抗体陽性例は黄疸出現前に門脈圧亢進症を呈しやすく、抗gp210抗体は疾患特異性が高く予後予測因子とされるが、国内では研究目的でのみ測定可能とされている(2023年ガイドライン時点)。
免疫グロブリン
- 血清IgMが上昇することが多く、PBCの特徴的な所見である。ただし診断における感度・特異度はさほど高くない。
その他の血液検査
- ビリルビン値は進行例で上昇するが、初期では基準範囲内であることが多い。
- 血清コレステロール値が上昇する場合もある。
画像検査
- 腹部超音波検査、CT、MRIにPBCに特異的な所見はなく、確定診断に画像検査は必要としない。
- ただし、胆管の拡張・狭窄がないこと、すなわち閉塞性黄疸を否定することが重要であり、診断前に必ず施行する。
病理所見
肝生検
- 肝組織では、慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)が特徴的である。この所見は小葉間胆管または隔壁胆管における炎症を伴う破壊や消失を示す。
- 障害された胆管周囲には、リンパ球や形質細胞を主体とする炎症細胞の浸潤がみられる。門脈域には非乾酪性類上皮肉芽腫がしばしばみられ、肉芽腫を伴う胆管障害はPBCに診断価値が高い。
病期分類
- 組織学的病期分類にはNakanuma分類が推奨されている。線維化・胆管消失(およびオルセイン陽性顆粒沈着)のスコアで病期(Stage 1〜4)を、胆管炎の活動度(CA)と肝炎の活動度(HA)で活動度を評価する。
- 初期では胆管障害が中心であるが、進行例では肝線維化、肝硬変の所見が現れる。
診断基準
国内では、厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班の「原発性胆汁性胆管炎の診断基準(平成27年度)」を用いる(指定難病の診断基準も同内容)。次のいずれか1つに該当するものをPBCと診断する。
- 組織学的にCNSDCを認め、検査所見がPBCとして矛盾しないもの(血液所見で慢性の胆汁うっ滞所見〔ALP、γ-GTPの上昇〕)。
- AMAが陽性で、組織学的にはCNSDCの所見を認めないが、PBCに矛盾しない(compatible)組織像(胆管消失、肉芽腫など)を示すもの。
- 組織学的検索の機会はないが、AMAが陽性で、しかも臨床像及び経過からPBCと考えられるもの。
すなわち、肝組織が得られない場合は「慢性の胆汁うっ滞所見(ALP、γ-GTPの上昇)」と「AMA陽性」の2項目が揃い、臨床像・経過からPBCと考えられることが必要である。いずれの場合も、画像検査で閉塞性黄疸を否定しておく。
PBCの診断に肝生検は必須ではないが、AMA陰性PBC(PBCの約10%)などの非定型例の診断や他疾患との鑑別には必要であり、Nakanuma分類による活動度・病期の評価と予後の推定にも有用である。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の合併症
原発性胆汁性胆管炎(PBC)では、胆汁うっ滞や免疫異常に起因する様々な合併症が認められる。以下に主なものを挙げる。
1. 骨粗鬆症
胆汁酸の分泌低下による脂溶性ビタミン(ビタミンDなど)の吸収障害に加え、閉経後の女性に多い疾患であることから、合併率が高い。
続発性骨粗鬆症が多くみられるため、定期的な骨密度測定が重要である。
2. 脂質異常症
胆汁うっ滞により高コレステロール血症を呈しやすい。
慢性胆汁うっ滞に伴い高率に出現し、持続すると皮膚黄色腫(眼瞼黄色腫など)を伴うことがある。
3. 自己免疫性疾患の合併
PBCは他の自己免疫性疾患をしばしば合併する。特に以下が多く見られる。
- シェーグレン症候群(必要に応じてSS-A抗体、SS-B抗体の測定や眼科的評価、口唇生検を行い診断する)
- 慢性甲状腺炎(橋本病)
- 関節リウマチ
4. 肝硬変に伴う合併症
肝硬変へ進展すると以下の合併症が生じることがある。
- 門脈圧亢進症(腹水、浮腫、静脈瘤など)
- 肝性脳症
- 肝細胞癌
5. PBC-AIH overlap
自己免疫性肝炎(AIH)とPBCが合併・併存した病態である。研究班の全国調査では、PBCの約7%がParis基準(PBC-AIH overlapの診断基準の一つ)を満たすとされる。
胆道系酵素の上昇に不釣り合いなALTの著明な上昇(5倍超など)が見られる場合にはAIHの合併を考慮する。研究班の「PBC-AIH overlap 診療ステートメント2024」では、ALT、IgG・抗核抗体(または抗平滑筋抗体)、肝組織の肝炎所見を組み合わせて診断し、診断には原則として肝生検による病理学的評価が必須とされている。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療法
原発性胆汁性胆管炎(PBC)には確立した根治的治療法はなく、病期や病態に応じた治療を行う。
UDCAによる進行抑制、症状・合併症に対する治療が中心となり、進行例では肝移植が考慮される。
薬物療法
ウルソデオキシコール酸(UDCA)
第一選択薬である。研究班のガイドラインでは、胆道系酵素(ALP、γ-GTP)が正常上限の1.5倍を超えたとき、AST・ALTが異常値を呈するとき、または肝組織で肝炎性の変化を確認した時点から投与を開始するとしている。それ以下の症例では3〜4か月ごとに経過観察し、基準を超えた時点で開始する。
UDCAは胆道系酵素の低下、肝組織の改善、死亡や肝移植までの期間を延長する効果が複数のランダム化試験で確認されている。ただし、病期が進み黄疸が高度になると効果は期待しがたい。
通常は1日600mgを3回に分割して投与し、効果不十分な場合は900mgまで増量できる(添付文書上の1日最大量は900mg)。原則として終生投与する。
ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)
100mg 6T3×毎食後
効果判定は、投与1年後の検査値と臨床背景を用いて生化学的治療反応を評価する(GLOBE score、UK-PBC risk scoreなど)。
ベザフィブラート(BZF)
UDCA(900mgへの増量を含む)で生化学的治療反応が得られず、効果判定基準により予後が良好でないと予想される症例には、脂質異常症治療薬であるベザフィブラートの併用を検討する。
併用により胆道系酵素の改善が期待され、長期予後の改善との関連も報告されている。
【適応外】 日本ではベザフィブラートの保険適用は高脂血症のみで、PBCには適用がない。研究班のガイドラインでは、高脂血症を合併しないPBCに対しては臨床研究として投与することが適切としている。
ベザフィブラート(ベザトール®SR錠)
200mg 2T2×朝夕食後
腎機能正常例
※人工透析患者、腎不全などの重篤な腎疾患のある患者、血清Cre 2.0mg/dL以上の患者は禁忌。Cre 1.5mg/dL超2.0mg/dL未満では1日200mgに減量する(高齢者はクレアチニンクリアランスに応じて調節)。
※妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与も禁忌。
※横紋筋融解症に注意する(腎機能障害、高齢者、スタチン併用で起こりやすい)。
なお海外では、UDCA効果不十分例に対するPPAR作動薬のelafibranor、seladelparが2024年に米国で迅速承認されているが、国内では未承認であり、両剤とも国内第III相試験が行われている段階である(2026年10月時点)。
掻痒感の治療
抗ヒスタミン薬、陰イオン交換樹脂(コレスチラミン、コレスチミド)、ナルフラフィンなどが用いられる。
掻痒感はPBCに特徴的な症状であり、QOLを大きく損なうため早期の対応が重要である。
コレスチラミン(クエストラン®)
1回4g(コレスチラミン無水物として)を水約100mLに懸濁し、1日2〜3回服用
※適応:高コレステロール血症(PBCの掻痒感には適応外)
※UDCAと結合してその吸収を妨げるため、UDCAとは服用時間を2〜4時間程度あける。ベザフィブラートを併用している場合も、クエストランの添付文書ではベザフィブラートを本剤の投与前4時間以上、または投与後4〜6時間以上あけて服用することとされている。
ナルフラフィン(レミッチ®OD錠)
2.5μg 1T1×夕食後または就寝前
効果不十分な場合は1日1回5μgまで
※適応:透析患者、慢性肝疾患患者のそう痒症の改善(既存治療で効果不十分な場合に限る)
※二重盲検試験の投与期間は12週(慢性肝疾患患者での52週の非盲検長期投与試験もある)。ガイドラインでは、PBC患者に対する長期効果は不明とされている。
PBC-AIH overlapの治療
「PBC-AIH overlap 診療ステートメント2024」では、PBCとして診断された症例にAIHのoverlapが診断された場合、UDCA(またはUDCA+ベザフィブラート)に加えて副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)を併用する。
プレドニゾロンの併用量はAIH診療ガイドラインに準じて0.6mg/kg/日以上(中等症以上では0.8mg/kg/日以上)が目安とされ、AST・ALT・IgGが正常化した場合は維持量を設定して継続する。
診断・治療方針の決定は肝臓専門医に相談することが望ましい。
合併症への対応
骨粗鬆症
脂溶性ビタミンDの吸収障害などが原因となるため、骨密度測定(2〜4年ごと)を行う。十分量のカルシウムとビタミンDの摂取、運動を勧めたうえで、ビスホスホネート製剤、活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK2製剤などで治療する。
脂質異常症
PBCに伴う脂質異常症に特異的な治療法はないが、ベザフィブラートはPBCに対する効果も同時に期待できる。
門脈圧亢進症
食道・胃静脈瘤は肝硬変に至る前にも出現しうるため、病期に応じて定期的(1〜2年ごと)に上部消化管内視鏡でスクリーニングを行い、必要に応じて治療する。腹水や肝性脳症が認められた場合も対症療法を行う。
肝移植
胆汁性肝硬変へ進展し内科的治療で進展を抑えられなくなった場合、肝移植が唯一の救命法となる。
研究班のガイドラインでは、総ビリルビン値が5mg/dL以上となった時点で肝移植を考慮し、肝移植専門医に相談することを推奨している(EASLのガイドラインでは6mg/dL)。肝移植の適応の指標としては、Child-Pugh分類8点以上に加えて総ビリルビン5mg/dL以上・肝性脳症・難治性腹水などを認める場合、Mayoリスクスコア7.8以上、日本肝移植適応研究会モデルで6か月後の死亡確率50%以上、MELDスコア15以上などが用いられる。
国内のPBCに対する生体肝移植の5年生存率は80%、10年生存率は74%、脳死肝移植では5年生存率96%、10年生存率87%と報告されている。
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の予後
原発性胆汁性胆管炎(PBC)の予後は、病態や治療反応に大きく依存する。
無症候性PBCでは、無症候性にとどまる限り予後は一般集団と変わらず、日常生活に特別な制限はない。
ただし無症候性PBCの一部(指定難病の概要では約10〜40%)は症候性PBCへ移行し、症候性に移行する場合や治療反応が不十分な場合には進行が見られる。
UDCA治療に反応しない例や、診断時にすでに黄疸や非代償性肝硬変症状(腹水、静脈瘤、肝性脳症など)がある場合、予後は悪化する。病態が進行した症例では肝移植が唯一の救命手段となる。
肝移植の成績は良好で、国内の生体肝移植で5年生存率約80%と報告されている。
血清総ビリルビン値による予後の指標
血清総ビリルビン(T-Bil)は最も重要な予後予測因子であり、値が上昇すると予後は悪化する。以下のような目安が報告されている。
- T-Bil 2.0mg/dL : 約10年の余命。
- T-Bil 3.0mg/dL : 約5年の余命。
- T-Bil 6.0mg/dL以上 : 約2年以下の余命。肝移植が考慮される(移植専門医への相談はT-Bil 5mg/dLの時点で行う)。
参考文献
- 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診療ガイドライン(2023年). 2023年3月. http://www.hepatobiliary.jp/modules/medical/index.php?content_id=14
- 厚生労働省. 指定難病93 原発性胆汁性胆管炎 概要・診断基準等. https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173514.pdf
- 厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. PBC-AIH overlap 診療ステートメント2024(第1版). 2024年4月. http://www.hepatobiliary.jp/modules/medical/index.php?content_id=15
- ウルソ錠 添付文書. https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00050265
- ベザトールSR錠 添付文書. https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00050277
- クエストラン粉末44.4% 添付文書. https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00057524
- レミッチOD錠2.5μg 添付文書. https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066867
- Gilead Sciences. Livdelzi (seladelpar) granted accelerated approval for primary biliary cholangitis by U.S. FDA(2024年8月14日). https://www.gilead.com/news-and-press/press-room/press-releases/2024/8/gileads-livdelzi-seladelpar-granted-accelerated-approval-for-primary-biliary-cholangitis-by-us-fda / Ipsen. Iqirvo (elafibranor) receives U.S. FDA accelerated approval(2024年6月). https://www.biospace.com/ipsen-s-iqirvo-receives-u-s-fda-accelerated-approval-as-a-first-in-class-ppar-treatment-for-primary-biliary-cholangitis
- jRCT2011240053. Elafibranor 80 mgの原発性胆汁性胆管炎患者における有効性及び安全性を調査する試験. https://jrct.mhlw.go.jp/latest-detail/jRCT2011240053
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