自己免疫性肝炎の診断・治療
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目次
自己免疫性肝炎の概要
- 遺伝的要因:
日本ではHLA-DR4陽性症例が多い(約70%) - 発症の誘因:
ウイルス感染、薬剤等 - 病態:
自己免疫反応(T細胞)による肝細胞障害 - 組織学的特徴:
門脈域の線維性拡大、リンパ球や形質細胞の浸潤を伴う「interface hepatitis」や肝細胞ロゼット形成 - 血液検査の特徴:
トランスアミナーゼの上昇、IgGの高値、抗核抗体(ANA)、抗平滑筋抗体(ASMA)陽性、高γ-グロブリン血症 - 経過:
慢性進行性(または急性) - 治療:
中心は副腎皮質ステロイド
自己免疫性肝炎の疫学と予後
日本での男女比は1:4.3で女性に多い。
発症年齢は50〜70代が多い(小児から高齢者まで全年齢でみられる)。
2016年を調査年とした全国疫学調査では、推定患者数は約3万人(30,330人)、有病率は人口10万人あたり23.9で、患者数と男性患者の比率が増加している。
遺伝的背景としてHLA-DR4陽性の症例が多い(約70%)。
自己免疫性肝炎の分類は、1型(抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性)と、2型(抗肝腎ミクロソーム(LKM)-1抗体陽性)があり、日本では1型が大半で、2型はきわめて稀である。
ステロイド治療で肝酵素が正常化すれば予後は良好で生存期間も一般人口と差を認めないが、治療が遅れたり、再燃を繰り返す症例は予後が不良で肝硬変、肝不全と進行する。
肝細胞癌を1〜5%の割合で合併する。肝硬変例からの発癌が大半を占め、AIHの肝硬変における肝発癌は年1%とされる。
自己免疫性肝炎の症状
自他覚症状を全く伴わず、健康診断などで偶然に肝障害を指摘されることも少なくない。症状を呈する場合は、以下が多い。
- 倦怠感
- 黄疸
- 食思不振
- 関節痛
- 発熱
診断時から浮腫、腹水など肝硬変に伴う症状がみられることもある。
自己免疫性肝炎の検査
血液検査
ALT優位の血清トランスアミナーゼ(AST・ALT)の上昇。ALP・γ-GTPなど胆道系酵素の著明な上昇は通常みられず、著明に上昇している場合は原発性胆汁性胆管炎(PBC)や薬物性肝障害も疑う。
抗核抗体(ANA):陽性(全国調査で約90%)
抗平滑筋抗体(SMA):陽性率は約40%で、保険未収載(商業検査施設で測定可能)。
血清IgG:基準上限値の1.1倍を超える増加(ただし全国調査ではIgG 2,000mg/dL以下の症例も約4割を占め、急性発症例・重症例では低値のことが少なくない)
抗LKM-1抗体:日本での陽性頻度は極めて低い。抗核抗体・抗平滑筋抗体がともに陰性の場合に測定する。
画像検査
腹部超音波検査・CT:慢性肝疾患の所見(肝辺縁の鈍化や肝表面の凹凸、内部エコー粗雑など)
AIHに特異的な画像所見はないが、診断時の進行度の評価に有用である。急性肝不全様に発症するAIHでは、単純CTで不均一な低吸収域を呈することが多いとされる。
肝生検
interface hepatitis、門脈域の線維性拡大、リンパ球や形質細胞の浸潤、肝細胞ロゼット形成が特徴的。
ただし、急性発症例では門脈域の炎症細胞浸潤が見られない場合もあり、中心静脈域の壊死・炎症反応が診断に重要。
自己免疫性肝炎の診断基準
厚労省診断基準・改訂版国際診断基準・簡易型国際診断基準の使い分け
基本的には、厚労省の診断基準が難病指定の判定にも使用されるため同診断基準を使用する。
しかし、項目4の「副腎皮質ステロイドが著効する」は治療的診断となるため、ステロイド使用前にはこの項目を判定できない。
そのため、ステロイド使用前は他の診断基準も考慮することで、ステロイドを投与するかどうかを判断する。
改訂版国際診断基準は診断感受性が97~100%と優れるが検査項目が多く、実臨床での使用は難しい。
簡易型国際診断基準は診断特異性に優れるが感受性が劣る(急性発症例を含む非定型例を見落とす可能性がある)。
具体的には、簡易型国際診断基準で疑診以上であればステロイドの投与を検討することを考える。その上で、厚労省の診断基準も使用する。
厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班の診断指針(2021)
1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性
2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)
3.組織学的にinterface hepatitis や形質細胞浸潤がみられる
4.副腎皮質ステロイドが著効する
5.他の原因(※)による肝障害が否定される
※ 肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、及び他の自己免疫疾患に基づく肝障害など
<診断のカテゴリー>
典型例: 上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの。
非典型例: 上記項目で、1~4の所見のうち1項目以上を認め、5を満たすもの。
注
1.副腎皮質ステロイド著効所見は治療的診断となるので、典型例・非典型例ともに、治療開始前に肝生検を行い、その組織所見を含めて診断することが原則である。ただし、治療前に肝生検が施行できないときは診断後速やかに副腎皮質ステロイド治療を開始する。
2.国際診断スコアが計算できる場合にはその値を参考とし、疑診以上は自己免疫性肝炎と診断する。
3.診断時、既に肝硬変に進展している場合があることに留意する。
4.急性発症例では、上記項目1、2を認めない場合がある。また、組織学的に門脈域の炎症細胞を伴わず、中心静脈域の壊死、炎症反応と形質細胞を含む単核球の浸潤を認める症例が存在する。
5.診断が確定したら、必ず重症度評価を行い、重症の場合には遅滞なく、中等症では病態に応じ専門機関へ紹介する。なお、5のみを満たす症例で、重症度より急性肝不全が疑われる場合も同様の対応をとる。
6.簡易型スコアが疑診以上の場合は副腎皮質ステロイド治療を考慮する。
7.抗ミトコンドリア抗体が陽性であっても、簡易型スコアが疑診以上の場合には副腎皮質ステロイド治療を考慮する.自己免疫性肝炎での抗ミトコンドリア抗体陽性率は約10%である。
8.薬物性肝障害(Drug-induced liver injury:DILI)の鑑別にはDDW-J 2004 薬物性肝障害診断スコアリング及びマニュアルを参考にする。
9.既知の肝障害を認め、この診断指針に該当しない自己免疫性肝炎も存在する。
簡易型国際診断基準
Simplified Criteria for the Diagnosis of Autoimmune Hepatitis(IAIHG、2008年)
| 項目 | カットオフ | 点数 |
|---|---|---|
| 抗核抗体(ANA)or 抗平滑筋抗体(SMA) | 40倍以上 | 1点 |
| 抗核抗体(ANA)or 抗平滑筋抗体(SMA) | 80倍以上 | 2点※ |
| または 抗肝腎ミクロソーム抗体(LKM-1) | 40倍以上 | 2点※ |
| または 抗SLA抗体 | 陽性 | 2点※ |
| IgG | >基準値上限 | 1点 |
| IgG | >基準値上限×1.1倍 | 2点 |
| 肝組織 | AIHに矛盾しない | 1点 |
| 肝組織 | AIHに典型的 | 2点 |
| ウイルス性肝炎の否定 | 可能 | 2点 |
※自己抗体の点数は合計して最大2点まで。
6点以上:疑診
7点以上:確診
自己免疫性肝炎の重症度判定
自己免疫性肝炎の診断がついた場合は必ず重症度の判定を行うこと。
重症例は遅滞なく肝臓専門医のいる医療機関への紹介を考慮し、中等症でも黄疸高度や60歳以上の症例は専門機関への紹介を考慮する。
自己免疫性肝炎診療ガイドライン(2021年)重症度判定
| 臨床所見 | 臨床検査所見 |
|---|---|
| ① 肝性脳症あり | ① ASTまたはALT > 200 U/L |
| ② 肝萎縮あり | ② 総ビリルビン > 5 mg/dL |
| ③ プロトロンビン時間(PT-INR)≧1.3 |
- 重症:次のいずれかが見られる 1.臨床所見:①または② 2.臨床検査所見:③
- 中等症:臨床所見:①、②、臨床検査所見:③が見られず、臨床検査所見:①または②が見られる
- 軽症:臨床所見:①、②、臨床検査所見:①、②、③のいずれも見られない
註
1.重症と判断された場合、遅滞なく肝臓専門医のいる医療機関への紹介を考慮する。
2.重症の場合、劇症肝炎分科会の予後予測モデル、MELDも参考にする。
3.中等症の症例で、黄疸高度、60歳以上の高齢者の場合も専門機関への紹介を考慮する。
4.肝萎縮はCT volumetryが測定可能な場合は、肝容積対標準肝容積比を参考にする。
5.急性肝不全の診断は、厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する研究」班の診断基準(2011年版)を用いる。
自己免疫性肝炎の治療
治療目標
トランスアミナーゼとIgGの正常化、組織学的炎症と線維化の改善、持続した寛解状態を得ることを目標とする。わが国のガイドラインでは、血清トランスアミナーゼを持続的に基準値範囲内(ALT ≦30 U/L)でコントロールすることを治療目標としている。
肝線維化や肝発癌スクリーニングのため画像検査を行う。
自己免疫性肝炎に使用する薬剤
プレドニゾロン
プレドニゾロンの投与が治療の中心となる。
初期量は0.6mg/kg/日以上、中等症以上では0.8mg/kg/日以上が推奨。
初期投与量を2週間ほど続け、血清トランスアミナーゼの改善を確認したのち、5mg/1~2週のペースで減量する。
改善が乏しい場合は2~4週ごとにゆっくり漸減する。
プレドニゾロンが0.4mg/kg/日以下では、2~4週ごとに2.5mgを、維持量になるまで漸減する。
ただし、血清トランスアミナーゼが基準値内に改善するまでは0.2mg/kg/日以上の投与を続けること(それより早く減量すると再燃しやすい)。
維持量は5~7.5mg/日が多い(ほとんどの症例で10mg/日以下)。
2年間以上血清トランスアミナーゼとIgGが基準値内で推移すれば、プレドニゾロンの中止も検討可能。ただし、中止例のほとんどで3年以内に再燃がみられるため、中止後も十分な経過観察が必要。
プレドニゾロン漸減時や軽度の再燃時には、ウルソデオキシコール酸を併用することで血清トランスアミナーゼの持続正常化を得られる場合がある。
副腎皮質ステロイドの長期使用に伴う糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、易感染性に注意すること。
免疫抑制療法の開始前には、全例でHBs抗原・HBc抗体・HBs抗体によるHBV感染スクリーニングを行い、「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」に準拠して対応する。
アザチオプリン
ステロイド投与で効果が不十分な場合、再燃例、ステロイドの副作用が懸念される場合に使用する。
日本では自己免疫性肝炎に保険適用があり(イムラン®・アザニン®)、添付文書の用量は1日1〜2mg/kg相当量(通常、成人には50〜100mg)で、副腎皮質ステロイドとの併用を考慮する。治療効果が認められた際には、効果を維持できる最低用量まで減量を検討する。
肝硬変患者では血球減少や肝障害の副作用頻度が高いため慎重に投与する(添付文書上、肝機能障害のある患者では投与量を通常投与量の下限とすることが望ましいとされる)。
添付文書上の禁忌は、白血球数3,000/mm³以下、フェブキソスタット・トピロキソスタット投与中、生ワクチン接種など。アロプリノール併用時は通常量の1/3〜1/4に減量する。
投与前にNUDT15遺伝子型検査が推奨される(重度の急性白血球減少や全脱毛)。2019年11月からAIHで保険適用。Cys/Cys型では原則として使用を回避し、Arg/Cys・Cys/His型では低用量(通常の半量程度)からの使用を検討する。
血液障害(汎血球減少、貧血、無顆粒球症、血小板減少)、感染症、肝障害などに注意が必要。
ウルソデオキシコール酸
軽症例や副腎皮質ステロイドが使用できない場合に使用されることがある(一般的には600mg/日)。
副腎皮質ステロイドに比べて効果発現が遅く、肝硬変例など速やかな改善が必要な症例では単独治療は推奨されない。単独治療で基準値範囲内にコントロールされない場合は副腎皮質ステロイドを考慮する。
添付文書の「慢性肝疾患における肝機能の改善」の通常用量は1回50mg 1日3回(適宜増減)であり、600mg/日はこれを上回る。劇症肝炎、完全胆道閉塞には禁忌。
再燃例の治療
ステロイド増量や再開による対応が基本。
繰り返し再燃する例では、アザチオプリン(1〜2mg/kg/日)の併用または変更も検討する。
参考文献
- 厚生労働省難治性疾患政策研究事業「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班. 自己免疫性肝炎(AIH)診療ガイドライン(2021年). 2022年1月. https://minds.jcqhc.or.jp/summary/c00710/
- 厚生労働省. 指定難病95 自己免疫性肝炎(概要、診断基準等). https://www.mhlw.go.jp/content/10905000/001173516.pdf
- Hennes EM, Zeniya M, Czaja AJ, et al. Simplified criteria for the diagnosis of autoimmune hepatitis. Hepatology 2008;48:169-176.(表は Liberal R, Vergani D, Mieli-Vergani G. Update on Autoimmune Hepatitis. J Clin Transl Hepatol 2015;3:42-52. Table 2 の転載表を参照)
- イムラン錠50mg 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00054447
- アザニン錠50mg 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00051309
- プレドニン錠5mg 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00010794
- ウルソ錠 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00050265
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