肝・胆・膵

急性膵炎|症状・検査/診断・治療

急性膵炎の診断基準

  1. 上腹部に急性腹痛発作と圧痛がある
  2. 血中または尿中に膵酵素の上昇がある(※1)
  3. 超音波、CTまたはMRIで膵に急性膵炎に伴う異常所見がある。(※2)

上記、3項目中2項目以上を満たし、他の膵疾患および急性膵炎を除外したものを急性膵炎と診断する。
ただし慢性膵炎の急性増悪も急性膵炎に含める。

(※1)血中リパーゼと血中アミラーゼが推奨(特にリパーゼ。リパーゼが測定できない場合はアミラーゼを使用)。いずれも感度は80%弱なので上昇がなくても否定はできない。

(※2)膵臓の腫大・浮腫・周囲炎症など。

急性膵炎の原因

男性はアルコール性、女性は胆石性膵炎が多い。

特に胆石性膵炎はERCPを検討する必要があるため、CTで評価が必要。さらに、重症度判定のためにアレルギーなどなければ造影CTを行うこと。

急性膵炎の重症度判定

判定のタイミング

厚労省予後因子スコアが以前から頻用されるが、重症化診断の特異度は高いが、入院時の感度は低く(4~6割)、繰り返して評価が必要。

急性膵炎は経時的に悪化することも多く、診断時、24時間以内、24~48時間に繰り返し判定を行う。必要な時はさらに頻繁に行い、48時間以降も繰り返す。

厚労省予後因子スコア(2008年)

A.予後因子が3点以上、またはB.造影CT Grade 2以上の場合は重症とする。

自院で重症の治療が難しい場合は速やかに治療可能施設へ搬送する。

A.予後因子(各1点)

  • Base Excess ≦−3mEq/L. またはショック(収縮期血圧≦80mmHg)
  • PaO2≦60mmHg(room air)、または呼吸不全(人工呼吸管理が必要)
  • BUN≧40mg/dL(or Cre≧2mg/dL)、または乏尿(輸液後も1日尿量が400mL以下)
  • LDH≧基準値上限の2倍
  • 血小板数≦10万/mm3
  • 総Ca<7.5mg/dL
  • CRP≧15mg/dL
  • SIRS診断基準(※3)における陽性項目数≧3
  • 年齢≧70歳

(※3)SIRS診断基準項目:(1)体温>38℃または<36℃、(2)脈拍>90回/分、(3)呼吸数>20回/分またはPaCO2<32Torr、(4)白血球数>12000か<4000または10%以上幼若球出現

B.造影CT Grade

以下①+②の合計スコアで判定。
1点以下:Grade 1
2点:Grade 2
3点以上:Grade 3

  • 炎症の膵外進展度
     0点:前腎傍腔
     1点:結腸間膜根部
     2点:腎下極以遠
  • 膵の造影不良域
     膵頭部、膵体部、膵尾部の3区域にわけて判定。
     0点:各区域に限局している場合、または膵の周辺のみの場合
     1点:2つの区域にかかる場合
     2点:2つの区域前提を占める、またはそれ以上の場合

インターロイキンー6(ILー6)

入院時の血中IL−6>50pg/mLは重症化予測の感度が8~9割あり、厚労省のスコアの弱点を補うため測定が推奨される。

急性膵炎の致命率

上記の予後因子スコアと造影CTグレードを合わせた致命率が報告されている。

予後因子スコア
軽症重症
造影CTグレード軽症0.5%(11/2,2288)9.0%(17/188)1.1%(28/2476)
重症2.1%(9/429)19.1%(17/89)5.0%(26/518)
0.7%(20/2,717)12.3%(34/277)
Masamune A, metal: Japan Pancreas Society. Clinical practice of acute pancreatitis in Japan: An analysis of nationwide epidemiological survey in 2016. Pancreatology 2020; 20: 629-636.

急性膵炎の治療

積極的輸液療法

初期4時間以内に1L以上積極的に初期輸液を行うと、以降の集中治療介入の必要性が低くなり、24時間以上(4.3L以上)初期輸液を行うと局所合併症が高くなることが示されている(United European Gastroenterol J 2017; 5:491-498)。

また、初期輸液には緩衝液(ソルラクト®︎、ラクテック®︎、ヴィーンF®︎、ビカーボン®︎など)が推奨されている(急性膵炎診療ガイドライン2021)。

初期4時間:250mL/時間
4時間~24時間:150mL/時間

※ただし、過剰輸液とならないよう、高齢・心不全・腎不全の患者では細かくモニタリングすること。

2022年発表の論文も"適量輸液"も参考になるため一部改変して引用しておく。
積極的輸液群(20ml/kg/2時間で投与後、3ml/kg/h)と適量輸液群(血液量減少群は10mL/kg/2時間で投与後、血液量正常群はボーラスなしで、全例1.5mL/kg/h)で、効果に差はないが、積極的輸液群で輸液過剰が多すぎて試験中断 (N Engl J Med 2022; 387:989-1000:http://nejm.jp/abstract/vol387)

鎮痛薬

アセトアミノフェンの点滴や、ペンタゾシンの投与などを行う。疼痛の程度に応じてオピオイドの使用も検討する。

例)アセトアミノフェン(アセリオ®︎)300~1000mg15分かけて
(4~6時間以上あけて、4000mg/日まで)
(体重50kg未満:15mg/kg/回を上限に4~6時間以上あけて、60mg/kg/日まで)

例)ペンタゾシン(ソセゴン®︎、ペンタジン®︎)15mg筋注・皮下注、3~4時間あけて

蛋白分解酵素阻害薬

 最近は軽症~重症いずれの症例でも致命率や在院日数、膵合併症発生率を減らさず、有効性はないとされており、あえて投与の必要性はない。

他の薬剤

・抗菌薬:
胆石性膵炎で胆管炎を併発しているなど感染を有する場合は投与する。(胆管炎を参照)
軽症に対する予防的抗菌薬投与に有効性はなく、投与しない。
重症や壊死性の場合も優位な改善効果は認めていない。

・PPI:
以前は胃酸分泌を抑制すると膵の外分泌もへり疼痛抑制になると考えられていたが、今は否定的であり投与しない。

栄養療法

重症膵炎の栄養療法

早期から経腸栄養を開始すると腸管機能を保持でき、合併症発生率・死亡率をへらすため、腸穿孔や壊死等がなければ入院後48時間以内に少量でも経腸栄養を開始する。

投与経路も以前はチューブで空腸から投与していたが胃管で胃からの投与も同等とされている。

栄養剤の形態は下痢などの状態から選択でよい。

20~30mL/hで開始し、数日かけて100mL/h(25~35kcal/kg/日)をめざす。

重症膵炎では通常時の1.5倍のカロリーを要することも考えつつ点滴栄養も補う。

軽症膵炎の栄養療法

腸蠕動音が回復すれば通常食の経口食を開始することが推奨されており、できるだけ早めに食事を開始する。

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