心筋梗塞|症状・検査/診断・治療
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目次
10秒サマリー
- 診断:持続する胸痛、12誘導心電図(ST上昇の有無)、心筋バイオマーカー(高感度トロポニン)の推移で確定診断を行う。
- 初期対応(MONA):酸素(低酸素時)、硝酸薬(禁忌注意)、モルヒネ、アスピリン早期投与。
- 再灌流療法:STEMIではprimary PCIが中心。Door-to-device時間90分以内は最低限の許容時間であり、STEMIの診断からワイヤー通過まで60分以内を目標とする。再灌流までの総虚血時間の短縮が予後に直結する。
- 合併症・予防:不整脈、心不全、機械的合併症に注意。二次予防としてDAPT、β遮断薬、RAA系阻害薬、厳格な脂質管理(LDL-C < 70mg/dL)を行う。
概要・疫学
心筋梗塞(AMI)は、冠動脈の急性閉塞により心筋が阻血性壊死に陥る疾患である。動脈硬化を基盤としたプラークの破綻とそれに続く血栓形成が主な原因(Type 1 MI)である。高齢者、糖尿病患者、女性では非典型的な症状がしばしばみられ、高齢者では息切れが虚血による症状のこともある(心不全との鑑別も要する)ため、症状の性状だけでACSを除外しないことが求められる。
症状・身体所見
- 前胸部症状:激しい圧迫感、絞扼感。20分以上持続し数時間に及ぶことが多い。随伴症状として、男性では冷汗、女性では嘔気・嘔吐・呼吸困難が多いとされる。症状の強さと重症度は必ずしも一致しないが、呼吸困難や意識消失を伴う場合は重症である。
- 放散痛:顎、頸部、肩、背部、腕、あるいは心窩部痛(消化器疾患との誤認に注意)。
- 高齢者・糖尿病患者:非典型的な症状が多い。息切れ、全身倦怠感、食欲不振、失神などが唯一の症状のこともあり、こうした主訴からも心電図を検討すべきである。
- 身体所見:Ⅲ音(重症左室機能障害を示唆)、肺野のラ音(心不全合併。Killip分類で評価)、新たな収縮期雑音(乳頭筋断裂による僧帽弁逆流や心室中隔穿孔を示唆)、末梢冷感・冷汗(ショック徴候)。下壁梗塞ではBezold-Jarisch反射による徐脈や迷走神経過緊張による低血圧を伴いやすい。
初期検査・鑑別診断
- 12誘導心電図:来院後10分以内に記録する。ST上昇があれば直ちに再灌流療法(PCI)を準備する。初回心電図で診断できない場合も5~10分おきの再検が極めて重要である。下壁梗塞では右側胸部誘導(V4R)を、初回心電図で診断できない場合は背側部誘導(V7-9)も記録する。
- バイオマーカー:
- 高感度心筋トロポニン(T/I)が第一選択。発症後2時間以内の超急性期の診断にも有用であり、心筋特異度も高い。ただし、心不全、腎不全、心筋炎、急性肺血栓塞栓症、敗血症など虚血以外の心筋障害でも上昇するため注意を要する。
- 初回のトロポニンが上昇していなくてもACSは否定できない。症状出現から6時間以内では判断が難しいため、初回検査から1~3時間後に再測定する(定性検査の場合は症状出現後6時間以降に再検)。なお、CK-MBはSTEMI発症後3~8時間で上昇し、10~24時間で最大となり、3~6日後に正常化するが、心筋トロポニンが測定できる条件下ではACSの診断にCK-MBは推奨されない。
- 心エコー:局所壁運動異常(asynergy)の有無を確認する。心室中隔穿孔や乳頭筋断裂などの機械的合併症の診断にも用いる。
- 鑑別疾患:大動脈解離、肺血栓塞栓症、緊張性気胸などの致命的胸痛疾患。
心電図の経時的変化
経過の順序の目安(再灌流療法の有無などで経過は変わる)。
- 超急性期:T波の尖鋭・増高(hyperacute T)がST上昇に先行することがある
- 急性期:ST上昇
- その後:異常Q波の出現、T波陰性化(冠性T波)
- 陳旧期:異常Q波・冠性T波が陳旧性心筋梗塞の代表的な所見として残る
専門医へのコンサル基準
- ACS疑い例:心電図変化やトロポニン上昇を認める場合、または臨床的に疑わしい場合は直ちに循環器専門医へコンサルし、緊急カテーテル検査の要否を判断する。
- 血行動態不安定:ショック状態、重症心不全、致死的不整脈を認める場合は、補助循環(IABP/ECMO)を考慮した高次施設への搬送を検討する。
診断基準・精査の詳細
診断は、心筋トロポニンが健常人の99パーセンタイル値を超える上昇・下降を示すことに加え、虚血症状や以下の所見をあわせて行う。
- 心電図変化(ST上昇、隣接する2つ以上の誘導。左室肥大や左脚ブロックがない場合に適用):
- V2-V3誘導:40歳以上男性 ≥2.0mm、40歳未満男性 ≥2.5mm、女性 ≥1.5mmのST上昇。
- その他の誘導:≥1.0mmのST上昇。
- 胸部症状を伴う新規の左脚ブロック、ST上昇を伴わない純後壁梗塞もSTEMIとして扱う。
- 画像所見:心エコーなどによる局所壁運動異常の証明。
- 異常Q波:異常Q波の存在は心筋梗塞の診断に役立つ(Ⅲ誘導の孤立性Q波やV1誘導のQSパターンは健常者でもみられる)。
治療法・具体的な処方例
1. 急性期対応(MONA)
- 酸素投与:低酸素血症(SpO2 90%未満)または心不全徴候がある場合に投与する。SpO2 90%以上の患者へのルーチン投与は推奨されない。
- 硝酸薬:心筋虚血による胸痛に投与する。※禁忌:収縮期血圧<90mmHgまたは通常より30mmHg以上の低下、高度徐脈(<50/分)、頻脈(>100/分)、右室梗塞を合併した下壁梗塞、PDE5阻害薬(シルデナフィル、バルデナフィル、タダラフィル。肺高血圧症・前立腺肥大症に用いる製剤を含む)またはリオシグアトを服用中(添付文書で併用禁忌。ガイドラインでは勃起不全治療薬の服用後24時間以内は投与すべきでないとされる)。
ニトログリセリン(ニトロペン®舌下錠0.3mg)
1錠を舌下投与
添付文書の用量は1回0.3~0.6mg(1~2錠)。効能に心筋梗塞を含むが、心筋梗塞の急性期の患者には血圧低下に注意
ニトログリセリン(ミオコール®スプレー0.3mg)
1回1噴霧を舌下(口腔内)に噴霧
添付文書の効能は「狭心症発作の寛解」で、心筋梗塞は効能に含まれない(ガイドラインでは虚血性胸痛にスプレーの口腔内噴霧も推奨されている)
- 鎮痛:硝酸薬投与後も胸痛が持続する場合に用いる。血圧低下や呼吸抑制、嘔吐に注意する(下壁梗塞では迷走神経緊張による血圧低下・嘔吐を起こしやすい)。
モルヒネ塩酸塩注射液
2~4mgを静注。効果不十分なら5~15分ごとに2~8mgずつ追加
用量はJCS 2018 ACSガイドラインによる。添付文書の用法は1回5~10mgの皮下注(静注は麻酔の補助として記載)であり、鎮痛目的の静注は添付文書の用法と異なる
- 抗血小板薬(ローディング):ACSが強く疑われる患者にアスピリンを咀嚼服用させる。P2Y12受容体拮抗薬は、PCIを前提とした緊急カテーテル検査の決定時点で負荷投与する。
アスピリン(バイアスピリン®錠100mg)
2~3錠(200~300mg)を噛み砕いて服用
ガイドラインの用量は162~200mg(primary PCI前は162~325mg)。添付文書では症状により1回300mgまで増量でき、急性心筋梗塞の初期治療で効果発現を急ぐ場合はかみ砕いて服用する
プラスグレル(エフィエント®OD錠20mg〈負荷〉/錠3.75mg〈維持〉)
初日20mgを1回、翌日から維持量3.75mg 1日1回
適応はPCIが適用される虚血性心疾患。冠動脈造影で保存的治療やCABGが選択され、PCIを行わない場合は以後の投与を控える
クロピドグレル(プラビックス®錠75mg)
初日4錠(300mg)を1回、翌日から維持量75mg 1日1回
適応はPCIが適用される虚血性心疾患。プラスグレルとどちらか一方を用いる
2. 再灌流療法と補助療法
PCI可能施設への搬送に時間を要する場合は血栓溶解療法を検討するが(発症12時間以内で、最初の医療従事者との接触から2時間以内にPCIを施行できないと予想される場合)、中心はPCIである。Door-to-device time(来院から再灌流デバイスによる治療開始までの時間)90分以内は最低限の許容時間であり、STEMIの診断から病変部位のワイヤー通過までを60分以内とすることを目標とすべきである。
心筋梗塞後の合併症
- 不整脈:心室細動(VF)・心室頻拍(VT)は発症早期に多く(VT/VFの約9割はSTEMI発症後48時間以内に生じたとの報告がある)、速やかな電気的除細動が必要である。房室ブロック(特に下壁梗塞)や心房細動にも注意し、モニター管理を徹底する。
- 心不全:広範な心筋壊死による収縮不全。急性心不全治療に準じて、利尿薬や変力作用薬を調整する。
- 機械的合併症:乳頭筋断裂(急激な僧帽弁閉鎖不全症)、心室中隔穿孔、心破裂(左室自由壁破裂)。これらは血行動態が急激に悪化し、薬物治療は無効で緊急手術を要する。
- その他:再梗塞、急性心膜炎(発症数日後に多い)、血栓症(左室内血栓による脳梗塞など)。
二次予防
再発防止のため、以下の薬物療法と生活習慣の修正を継続する。
- 抗血栓薬(DAPT):アスピリン+P2Y12阻害薬。ステント留置後は3~12ヶ月間が基本で、出血リスクが高い例では1~3ヶ月に短縮する(短期DAPT後の単剤はP2Y12阻害薬を考慮)。禁忌がなければアスピリンは無期限に継続する。具体的な期間は施行医と確認する。
- β遮断薬:心不全徴候を有する、またはLVEF≤40%の例では長期投与が推奨される(推奨クラスI)。心不全徴候がなく左室機能が正常な例では考慮してもよい(IIb)。
ビソプロロール(メインテート®錠0.625mg)
1日1回0.625mgから開始し、2週間以上で忍容性があれば1.25mgへ。以後4週間以上の間隔で段階的に漸増(維持量1.25~5mg、最大5mg)
この用法は添付文書の「虚血性心疾患又は拡張型心筋症に基づく慢性心不全」に対するもの。心不全を伴わない心筋梗塞後としては添付文書の効能に含まれない
- RAA系阻害薬:心不全徴候を有する、またはLVEF≤40%の例、左室機能低下がなくても高血圧や糖尿病などを有する高リスク例ではACE阻害薬を長期投与する。心不全徴候を有する、またはLVEF≤40%でACE阻害薬に不耐の場合はARBを用いる。
エナラプリル(レニベース®錠2.5)
1日1回2.5mgから開始し、5~10mgへ漸増
添付文書の効能は高血圧症と慢性心不全(軽症~中等症。ジギタリス製剤・利尿剤等と併用)。腎障害や利尿剤投与中は2.5mgから開始が望ましい。心筋梗塞後そのものは効能に含まれない
- 脂質管理:ストロングスタチンを忍容可能な最大用量で投与する。目標はLDL-C < 70mg/dL。最大用量のスタチンでも未達の高リスク例ではエゼチミブ(IIa)、PCSK9阻害薬(IIb)の追加を考慮する。
ロスバスタチン(クレストール®錠)
1日1回10~20mg
添付文書では2.5mg(早期にLDL-Cを下げる必要があれば5mg)から開始し、4週以降に10mgまで増量できる。20mgへの増量は10mgで効果不十分な家族性高コレステロール血症などの重症患者に限られる(日本の最大用量は20mg)。CCr<30では最大5mg
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
- 右室梗塞の落とし穴:下壁梗塞を認めたら、直ちに右側誘導(V4R)をとる(右室梗塞合併例の約半数で発症10時間以内にV4RのST上昇が消失したとの報告もあり、早めの記録が大切)。血圧低下に対して安易に硝酸薬を使うとショックを助長するため、まずは輸液負荷が優先される。
- トロポニンの上昇=虚血とは限らない:心不全、腎不全、敗血症でも上昇する。大事なのは「値そのもの」よりも「数時間後の変化(上昇・下降)」である。
- 患者説明:「血管が通れば終わり」ではなく、その後の「心室リモデリング(心臓の変形)」を防ぐための薬物継続が、長期の予後を左右することを強調する。
予後・患者説明のポイント
- 禁煙:すべての患者で達成すべき目標である。受動喫煙の弊害も説明し、家族への指導も行う。
- 心臓リハビリテーション:退院早期からの心臓リハビリテーションは、身体機能、危険因子の管理、精神社会的健康、再入院率を改善する。
- 受診勧奨:退院後も強い息切れや、以前と同様の胸痛が出現した際は、即座に救急受診するよう指導する。
参考文献
- 日本循環器学会. 急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版). https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
- 日本循環器学会. 2020年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法. https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/04/JCS2020_Kimura_Nakamura.pdf
- ニトロペン舌下錠0.3mg 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00052507
- ミオコールスプレー0.3mg 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00052560
- モルヒネ塩酸塩注射液10mg(1%製剤)添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00056695
- バイアスピリン錠100mg 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00047330
- エフィエント錠/OD錠 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00068335
- プラビックス錠 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00051398
- メインテート錠 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00060634
- レニベース錠 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00003979
- クレストール錠 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066114
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