食道アカラシアについて
下部食道括約筋(Lower Esophageal Sphincter:LES)の弛緩不全と食道の蠕動障害により、食物や液体の通過障害をきたす疾患。
性差はなく、好発年齢は20~60歳ほど。
発生頻度は人口10万人あたりに1人程度とされるが、疾患概念の広まりもあり増加傾向。
原因ははっきりしていない。
食道扁平上皮癌のリスクとなるため、定期的な内視鏡検査が必要。
食道アカラシアの症状
つかえ感、嚥下障害、胸痛、食物の逆流を認める。
食事摂取が少ないため、体重減少を伴う症例が多い。
食道アカラシアの検査・診断
内視鏡検査で疑い、食道内圧検査を行って確定診断となる。
食道内圧検査ができない場合は、食道造影検査と内視鏡検査などを組み合わせて総合的に診断する。
しかし、食道アカラシアの治療は侵襲度が高く、安易な診断はすべきでない。
胃カメラ・上部消化管内視鏡検査
内視鏡検査では以下の所見を認めた場合に疑う。
- 食道内の食物残渣
- 食道拡張(内視鏡では判断しにくい)
- 食道胃接合部は狭窄し、拡張しないが内視鏡の通過は比較的スムーズ
逆流性食道炎やESD後などの瘢痕性の狭窄や、食道の壁外圧排などを否定すること。
また、食道アカラシアは食道癌のリスク因子であり、アカラシアを疑うときは食道癌がないかを確認すること。診断後も年に1度は内視鏡検査を行うこと。
食道造影
食道下部のくちばし状のスムーズな狭窄と口側の拡張を認める。
食道内圧検査
下咽頭から胃まで連続して食道内圧測定を行い、以下の所見を確認する。
- 下部食道括約筋(lower esophageal sphincter:LES)圧の上昇
- 蠕動波の消失
- 嚥下性弛緩の欠如
- 同期性収縮波
CT
狭窄部の器質的疾患(癌、粘膜下腫瘍、壁外圧排など)の否定のためにCT検査も行うこと。
pHモニタリング
LES圧が上昇していて胃からの逆流はないため、胃酸や胆汁の成分は含まれず、pHの低下を認めない。
食道アカラシアの治療
薬物療法
カルシウム拮抗薬や亜硝酸薬を使用されることが多いが、いずれも食道アカラシアに対する保険適応はない。
軽症では有効なこともあるが、効果は弱い。
血圧低下に注意が必要。
亜硝酸薬例)
硝酸イソソルビド(ニトロール®︎)5mg3T3×毎食前 舌下投与
内視鏡的バルーン拡張術
内視鏡+X線透視で確認して狭窄部にバルーンをすすめ、バルーンで食道胃接合部を拡張させる。
合併症として、穿孔や出血があり、適切なバルーン径の選択、拡張圧の設定が必要。
穿孔した場合は縦隔気腫や縦隔膿瘍など来たすため、特に穿孔しないように無理をしないことが肝要である。
疼痛を伴うため鎮静・鎮痛を行うが、過度に鎮静すると穿孔したかがわかりにくくなるので注意が必要。
薬物療法より有効性は高いが、特に若年者で高率に再発しやすく、頻回の処置を要することがある。
経口内視鏡的筋層切開術(per-oral endoscopic myotomy:POEM)
内視鏡で狭窄部の口側から粘膜下トンネルを作成し、内輪筋を縦切開することで狭窄を解除する治療法。
外科手術に比べると低侵襲である割に、有効性もほぼ同等とされているため増えてきている処置であるが、施行可能な施設が少ない。
食道胃接合部がゆるくなるため、外科手術に比べると逆流性食道炎が起こりやすい。
外科手術
腹腔鏡下にHeller-Dor法(食道下部筋層切開術+噴門形成術)が行われる。
内輪筋とともに縦走筋も縦切開するため効果が高く、噴門形成を行うことで逆流性食道炎もPOEMに比べると起きにくいが、侵襲度も大きい。