上腸間膜動脈閉塞症
最終更新日:
上腸間膜動脈閉塞症について
上腸間膜動脈閉塞症は上腸間膜動脈塞栓症と上腸間膜動脈血栓症をあわせた疾患である。
上腸間膜動脈は径が比較的太く、大動脈からの分岐角が鋭角なため、塞栓子が詰まりやすいとされている。
塞栓症の塞栓源は心房細動による左房内血栓などの心原性が主体であり、血栓症は上腸間膜動脈起始部の動脈硬化性狭窄が増悪して生じることが多い。
リスクとして、動脈硬化が強い症例や心房細動を有する高齢者に多い。塞栓性の急性腸間膜虚血の約半数に心房細動を認めるとされ、発症頻度は年齢とともに上昇する。
広範囲の腸管で虚血となり、急速に腸管壊死を起こし、致死率が高く(30〜70%と報告されている)、早期診断・早期治療が必要である。
上腸間膜動脈閉塞症の症状・身体所見
上腸間膜動脈が閉塞することで起きるため、「突然」の激しい腹痛で発症する。
悪心・嘔吐を伴うこともある。
発症初期はまだ腸管が壊死していないため、腹部身体所見に乏しく、腹膜刺激症状を認めないことも多いため、注意が必要である。身体所見に比べて強すぎる腹痛は、否定されるまで急性腸間膜虚血を疑うべきとされる。
腹部膨満や筋性防御などの腹膜刺激症状は発症後数時間で出現し、腹膜炎の所見があればすでに不可逆的な腸管壊死に至っている可能性が高い。
上腸間膜動脈閉塞症の検査・診断
血液検査
腸管虚血を確定・除外できる特異的な血液検査はないが、補助として有用なものがある。
白血球増多は9割以上の症例で認められる。
腸管虚血が進むと、血液ガスで代謝性アシドーシスや乳酸値上昇がみられる。ただし、脱水や経口摂取不良でも乳酸値は上昇しうるため、乳酸値だけで可逆的な虚血と腸管壊死を区別することはできない。
腸管の壊死が進んでくると、逸脱酵素であるCK、AST、LDHの上昇が出現してくる。血液ガスでは主に代謝性アシドーシスとなるが、頻回の嘔吐でアルカローシスになることもある。
D-dimerは特異度は低いものの感度が高く、本症が疑われる場合には測定を考慮する。
血清アミラーゼが約半数で上昇するとされ、急性膵炎と誤診しないよう注意する。
腹部造影CT
本症を疑ったら、ただちにthin sliceの造影CT(CTアンギオグラフィー)を行う。血管内評価を行うためには単純CTだけでは不十分で、造影が必要である(単純CTは血管の石灰化や高吸収の血栓の評価に役立つ)。
上腸間膜動脈に造影欠損を認める。塞栓症では中結腸動脈起始部付近の本幹(起始部から3〜10cm程度末梢)で閉塞することが多く、血栓症では起始部の閉塞が多い。
腸管虚血が進行してくると、腸管の拡張、腸管壁の肥厚や造影不良を認める。
さらに腸管壊死が進行してくると、腹腔内フリーエアーや門脈ガス、腸管気腫なども出現する。
血管造影検査
血管造影で血管の閉塞や狭小化が認められ、診断ができる。
ただし、現在は造影CTで血管造影に劣らない診断が速やかに得られ、腸管や腹腔内の状況もわかるため、診断目的としての血管造影の重要性は低下している。
一方で、発症早期であれば、診断に引き続いて血管内治療をそのまま行える利点がある。
上腸間膜動脈閉塞症の治療
上腸間膜動脈閉塞症は予後不良であり、IVRや緊急手術など早急の対応が必要。
診断がついたら、輸液による循環の改善、電解質補正、経鼻胃管による減圧を行い、広域抗菌薬をただちに投与する。禁忌がなければ、血行再建に先立って未分画ヘパリンによる十分量の抗凝固を開始する。
発症早期で明らかな壊死所見が無い場合はカテーテル下に血栓吸引・除去や血栓溶解療法、バルーン拡張やステント留置術などの血管内治療(IVR)を検討できる。日本の末梢動脈疾患ガイドラインでは、血栓症ではIVRを血行再建の第一選択として考慮し(推奨クラスIIa)、塞栓症ではIVRと開腹手術(血栓除去術)のどちらも治療手段として考慮する(推奨クラスIIa)とされている。
なお、従来わが国で血栓溶解療法に用いられてきたウロキナーゼ製剤は供給不足のためほぼ使用できなくなり、血栓溶解療法の施行は著しく制限されている。一方、2023年には機械的血栓吸引システム(INDIGOシステム)が使用可能となった。
腸管壊死が疑われる場合は、開腹して腸管を観察し壊死腸管を切除する必要がある。開腹下での血栓除去術や、開腹下にSMAを露出して逆行性にステントを留置するハイブリッド治療(ROMS)も選択肢となる。開腹血行再建後は、腸管虚血の有無を確認するため、初回手術の24〜48時間後のsecond look operationを考慮する。
具体的なIVRの適応時間は、閉塞部位によって異なるとされているが、定まった基準はなく、以下の報告を参考にする。
ただし、時間に関わらず、すでに腸管壊死が疑われる場合などは迷わず緊急手術を行うこと。
【閉塞部位と時間の目安】
| 報告 | 閉塞部位と時間 |
|---|---|
| 茂木克彦ら:急性上腸間膜動脈閉塞症―閉塞部位と臨床経過について―.日腹部救急医会誌 1996;16:427-432 | 主幹部近位の閉塞では、側副血行が不十分なため発症後5時間以内に不可逆性の腸管壊死に至りうる IVRの適応時間の目安として、主幹部〜中結腸動脈分岐:5時間以内、中結腸動脈分岐〜回結腸動脈分岐:24〜48時間以内、回結腸動脈分岐より末梢:数日以内(高橋ら 2014 による引用) |
| 宗岡克樹ら:急性上腸間膜動脈閉塞症に対するウロキナーゼ動注療法:2症例の報告.日消外会誌 2001;34:495-499 | ウロキナーゼ動注による血栓溶解療法のゴールデンタイムとして、主幹部(右結腸動脈分岐部より近位):5時間以内、右結腸動脈分岐部より末梢:12時間以内 |
いずれも本邦の少数の症例報告に基づく目安である。ウロキナーゼの上腸間膜動脈内投与は添付文書の用法(静脈内投与)外であり、前述のとおり現在は供給不足でほぼ使用できない。
参考文献
- 日本循環器学会/日本血管外科学会.2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン.第8章 腹部内臓動脈 1. 急性腸間膜動脈閉塞.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdf
- 日本循環器学会/日本血管外科学会.2025年JCS/JSVSガイドラインフォーカスアップデート版 末梢動脈疾患.6.1 急性腸間膜動脈閉塞の治療.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Shigematsu.pdf
- Bala M, et al. Acute mesenteric ischemia: updated guidelines of the World Society of Emergency Surgery. World J Emerg Surg 2022;17:54. https://doi.org/10.1186/s13017-022-00443-x
- 宗岡克樹,他.急性上腸間膜動脈閉塞症に対するウロキナーゼ動注療法:2症例の報告.日本消化器外科学会雑誌 2001;34(5):495-499. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjgs1969/34/5/34_5_495/_article/-char/ja/
- ヘパリンNa注5千単位/5mL「モチダ」 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00063581
- ウロナーゼ静注用6万単位 添付文書(KEGG MEDICUS)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00054201
- 高橋哲也,竹本正明.上腸間膜動脈閉塞症の治療方針の検討.日本腹部救急医学会雑誌 2014;34(3):587-591. https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaem/34/3/34_587/_article/-char/ja/
この記事の内容に誤りや古い情報を見つけた場合は、お問い合わせフォームからお知らせください。
↓ 他の診療科も見てみる ↓
あなたに一番合う転職サイトはどれ?
診療科ー都道府県別に転職サイトの求人数を比較
