感染症

敗血症の診断・初期蘇生・DIC・経験的抗菌薬・栄養療法|ガイドラインに基づいて

この記事は、日本集中治療医学会「日本版敗血症診療ガイドライン2020 (J-SSCG2020)」、米国集中治療医学会・欧州集中治療医学会「敗血症診療国際ガイドライン2021(SSCG2021)」に基づいて記載しています。

敗血症の定義

敗血症は、感染症によって重篤な臓器障害が引き起こされる状態であり、敗血症性ショックはその中で急性循環不全を伴うさらに重篤な状態。

敗血症の診断

診断基準

敗血症は以下2つを満たした場合に診断される。

  • 感染症もしくは感染症の疑いがある
  • SOFAスコアの合計2点以上の急上昇

診断フロー

①qSOFA≧2

感染症(疑い)患者のqSOFAを評価し2点以上もしくは、敗血症疑いは②へ

qSOFAは下記参照。

② SOFA≧2点急上昇

SOFAを評価し2点以上急上昇していれば敗血症と診断(1点以下では評価繰り返す)

SOFAは下記参照。

③ショック

さらに、平均血圧65mmHg以上の維持に血管作動薬が必要、かつ血中乳酸値>2mmol(18mg/dL)であれば敗血症性ショックと診断。

quick SOFAスコア

以下3つの合計点数で評価。

・意識変容

・呼吸数≧22回/分

・収縮期血圧≦100mmHg

SOFAスコア

スコア01234
意識Glasgow Coma Scale1513~1410~126~9<6
呼吸PaO2/FiO2(mmHg)≧400<400<300<200および呼吸補助<100および呼吸補助
循環平均血圧≧70mmHg平均血圧<70mmHgドパミン<5μg/kg/分あるいはドブタミンの併用ドパミン5〜15μg/kg/分あるいはノルアドレナリン≦0.1μg/kg/分あるいはアドレナリン≦0.1μg/kg/分ドパミン>15μg/kg/分あるいはノルアドレナリン>0.1μg/kg/分あるいはアドレナリン>0.1μg/kg/分
TーBil(mg/dL)<1.21.2~1.92.0~5.96.0~11.9>12.0
血漿Cre(mg/dL)<1.21.2~1.92.0~3.43.5~4.9>5.0
尿量(mL/日)<500<200
凝固血小板数(×103/μL)≧150<150<100<50<20

※PaO2/FiO2:PaO2 100Torr、FiO2 20%のとき、100÷0.2=500。PaO2 90 Torr、FiO2 45%なら90÷0.45=200。

GCS(Glasgow Coma Scale)

E:開眼 (eyeopening)
 4.自発的に開眼
 3.言葉により開眼
 2.痛み刺激により開眼
 1.開眼しない

V:言語音声機能(verbalresponse)
 5.見当識あり
 4.混乱した会話
 3.不適当な単語
 2.無意味な発声
 1.発声が見られない

M:運動反応 (motorresponse)
 6.指示に従う
 5.痛み刺激部位に手足を持ってくる
 4.痛みに手足を引っ込める(逃避屈曲)
 3.上肢を異常屈曲させる(除皮質肢位)異常な四肢屈曲反応
 2.四肢を異常進展させる(除脳肢位)
 1.まったく動かさない

表記例:E3 V3 M4=10

初期蘇生・輸液

輸液

血管内volumeの減少した敗血症に対して、初期輸液としてリンゲル液などの晶質液30mL/kg以上を3時間以内に投与することが一つの目安(BW50kgなら1,500mL/3h)。

ただし、過剰輸液の有害性も報告されており、心不全患者などでは減量したり、過剰輸液に注意が必要。

昇圧薬

過剰輸液を減らすためにも循環動態維持の難しい患者では、3時間以内の早期から昇圧薬の使用を検討する。

第一選択薬)ノルアドレナリン1mg/1mL/1A

中心静脈路投与の場合、ノルアドレナリン3mL+生食47mLで希釈(60μg/mL)
0.05~0.3μg/kg/分で投与開始(最大0.5~1.5μg/kg/分)。
体重50kgで0.05μg/kg/分では2.5mL/時間で投与。

第二選択)バソプレシン(ピトレシン®︎)

ノルアドレナリン0.3~0.5μg/kg/hでも平均血圧<65mmHgや、ノルアドレナリンを減量したい時は、バソプレシンを併用。
20単位/1mL/1A。0.03単位/分(1.8単位/時)で投与。
5%ブドウ糖液など100~200mlに混和して持続静注(11時間で落とすとおよそ1.8単位/時)。

心機能低下例に併用)ドブタミン600mg/200mL(3mg/1ml)

心機能低下例ではドブタミンを併用検討。
1~5μg/kg/分で開始。最大20μg/kg/分まで。
体重50kgで1μg/kg/分では、1mL/時間で投与。

ステロイド

初期輸液や昇圧剤に反応しない場合はコルチコステロイドを使用する。

例)ヒドロコルチゾン(ソルコーテフ®︎、サクシゾン®︎)50mg+生食50mL 1日4回

輸血療法

基準の値に達していなくても、達しそうな場合は投与を検討する。

赤血球輸血:Hb<7g/dL

酸素療法

目標SpO2

急性期患者の目標SpO2は94~98%

CO2ナルコーシスのリスクのある患者では88~92%を目標とする。

投与方法

通常の酸素投与で酸素化が保てない呼吸不全では、高流量経鼻酸素療法(NHFT)や、非侵襲的換気(NIV)で保てる場合は気管挿管などの侵襲的換気よりも予後改善がよい。

ただし、気管挿管が必要な症例では挿管をためらうべきではない。

換気設定

敗血症に対するARDSでは肺胞保護戦略として、以下の設定を守る。

  • 低1回換気量: 6mL/kg(標準体重)
  • 重症ARDSのプラトー圧上限:30cmH2O
  • 中等度~重度ARDSで循環動態が安定している場合:高PEEP(≧12cmH2O)
     (循環動態不安定な初期などは循環抑制になりやすい)

DIC

DICの診断基準

敗血症はDICを合併することも多く、注意を要する。

«急性期DIC診断基準»

合計スコア4点以上でDICと診断。

スコアSIRS血小板数PTFDP(mg/L)
00~2≧12万/μL<1.2<10
1≧38万~12万 または 24時間以内に30%以上低下≧1.2≧25
2



3
8万未満 または 24時間以内に50%以上低下
≧25

※FDPのかわりにD-ダイマーを用いても良いが、施設で使用している測定キットごとの換算表を用いて判断すること。

リコンビナント・トロンボモジュリン(リコモジュリン®︎)

敗血症性DICに対してリコンビナント・トロンボモジュリンを用いると死亡率が優位に低下するため投与を検討する。

ただし、出血性合併症があるため、出血患者には禁忌。

例)リコンビナント・トロンボモジュリン(リコモジュリン®︎)12800単位/1バイアル

1日1回 380単位/kg を30分以上かけて投与
※重篤な腎障害では130単位/kg
※1バイアルあたり2mLの生食か5%ブドウ糖で溶解し、溶解液と同一の液体100mLに希釈して点滴。
※投与期間は6日以内。

経験的抗菌薬治療

敗血症診断時には原因菌が判明していないため、経験的に投与をできるだけ速やかに開始する

<<略語一覧>>
ABPC:アンピシリン、TAZ/PIPC:タゾバクタム/ピペラシリン、CAZ:セフタジジム、CTRX:セフトリアキソン、CMZ:セフメタゾール、CFPM:セフェピム、MEPM:メロペネム、AZM:アジスロマイシン、MNZ:メトロニダゾール、MCFG:ミカファンギン、VCM:バンコマイシン

※VCMはTDMに応じる。

肺炎

市中肺炎:
CTRX2g24時間ごと±AZM500mg24時間ごと

医療関連:
「CFPM2g8時間ごと or TAZ/PIPC4.5g8時間ごと」±VCM

尿路感染症

ESBL産生菌リスクなし:
CTRX2g24時間ごと

ESBL産生菌リスクあり:
CMZ1~2g8時間ごと or TAZ/PIPC4.5g8時間ごと or MEPM1g8時間ごと

胆道・腹腔内感染症

ESBL産生菌リスクなし:
CTRX2g24時間ごと+MNZ500mg8時間ごと

ESBL産生菌リスクあり:
CMZ1~2g8時間ごと or TAZ/PIPC4.5g8時間ごと or MEPM1g8時間ごと

軟部組織感染症

「CTRX2g24時間ごと or TAZ/PIPC4.5g8時間ごと」± VCM

カテーテル関連感染症

VCM+CFPM2g8~12時間ごと±MCFG100mg24時間ごと

髄膜炎

市中(50歳未満):
CTRX2g12時間ごと+VCM

市中(50歳以上):
ABPC2g4時間ごと+CTRX2g12時間ごと+VCM

シャントあり・脳外科術後:
「CAZ2g8時間ごと or CFPM2g8時間ごと or MEPM2g8時間ごと」+VCM

感染巣不明

市中発症:
CTRX2g24時間ごと

医療関連:
「CFPM2g8時間ごと or TAZ/PIPC 4.5g8時間ごと or MEPM 2g8時間ごと」+VCM

深部静脈血栓症予防

特に禁忌がない場合は、薬物的予防を行うことで肺血栓塞栓症のような致死的な合併症を防ぐことができる。データ上は有意な出血増加も少なく、投与を検討する。

薬物は低分子ヘパリンを使用。

敗血症性DICに対してのヘパリン投与は推奨されておらず、あくまでも血栓症予防目的である。

例)エノキサパリンナトリウム(クレキサン®︎)2000単位 1日2回皮下注

APTTなどでモニタリングできず臨床徴候で評価。

腎機能低下例では投与間隔をあけるなどすること。

栄養・消化管潰瘍

栄養投与経路・開始時期

循環動態が安定した敗血症患者への栄養投与は経腸投与がよいが、できるだけ早期に開始した方が予後が良い。

JーSSCG2020では24~48時間、SSCG2021では72時間以内を目標としている。

栄養投与量

経腸栄養開始初期は3日目以降に消費エネルギーの70~100%に到達するように目標とする。

タンパク質は1g/kg/日未満。

1週間程度経過したのちに、25~30kcal/kg/日を目標とする。タンパク質は1g/kg/日以上。経腸栄養のみで賄えない場合は経静脈栄養を併用する。

血糖管理

目標血糖値:144~180mg/dL

180mg/dLを超える場合はインスリン投与を行う。

重症患者(特に鎮静下)では低血糖症状がわからず、低血糖リスクが大きいため、マイルドにコントロールする。

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