急性心不全の対応
急性心不全は治療を急ぐ疾患であり、トリアージを行い速やかに対応する。
急性心不全には様々な病態があるが、治療法の選択にはCS分類がわかりやすく使いやすい。
まず来院後すぐにCS分類で対応しながら、NohriaーStevenson分類、心電図・胸写・エコー・血液検査等行いさらに状態を評価し対応していく。
CS分類(クリニカルシナリオ)による対応
血圧で評価して初期対応するための分類。
CS 1 | CS 2 | CS 3 | |
主病態 | 肺水腫 | 全身性浮腫 | 低潅流 |
収縮期血圧 (mmHg) | >140 | 100~140 | < 100 |
病態生理 | ・充満圧上昇による急性発症 ・血管性要因が関与 ・全身性浮腫は軽度 ・体液量が正常/低下場合もある | ・慢性の充満圧/静脈圧/肺動脈圧上昇による緩徐な発症 ・臓器障害/腎・肝障害/貧血/低アルブミン血症 ・肺水腫は軽度 | ・急性あるいは緩徐な発症 ・全身性浮腫/肺水腫は軽度 ・低血圧/ショックの有無により2つの病型あり |
治療方針 | ①酸素投与 ②ミオコールスプレー1噴霧 ③必要時NPPV ④ミオコール0.05~0.1μg/kg/分で開始。血圧に応じて調節。 ⑤体液貯留あれば利尿薬 | ①フロセミド10~40mg静注 ②フロセミド1~2mg/時 ③血圧高めのときやフロセミドの反応が悪い時はハンプ®︎併用0.0125~0.025μg/kg/分で開始し適宜0.1μg/kg/分に増量(血圧低下に注意) ④低Na血症を伴う場合はサムスカ7.5mg1T1×併用。 | ①体液貯留がない場合は容量負荷 ②ドブタミン0.5~5μg/kg/分で開始。 ③ ②で不十分であればミルリーラ®︎0.05~0.25μ/kg/分で併用開始。 ④心原性ショックならノルアドレナリン0.03~0.3μg/kg/分も併用開始。 ⑤上記で改善しないばあいはIABPなど補助循環管理を検討 |
CS 4 | CS 5 | |
主病態 | 急性冠症候群 | 右心機能不全 |
収縮期血圧 (mmHg) | - | - |
病態生理 | ・急性心不全の徴候 | ・急性あるいは緩徐な発症 ・肺水腫なし ・全身的静脈うっ血 |
治療方針 | CAG/PCIなど、心筋梗塞に準じて対応を行う。 | 酸素投与、利尿剤投与をしつつ、肺疾患の対応を行う。 |
Nohria-Stevenson分類
①急性冠症候群・右心不全を除外
②うっ血の有無(wet/dry)と低潅流の有無(cold/warm)を判断
wet:肺うっ血、起座呼吸、末梢浮腫、頸静脈怒張など
cold:四肢冷感、乏尿、意識低下、脈拍微弱など
dry | wet | |
warm | うっ血なし 血圧・末梢循環維持 | うっ血あり 血圧上昇型 うっ血あり 血圧維持型 |
cold | 体液量減少(脱水) 血圧低下・末梢循環不全 | うっ血あり 末梢循環不全 うっ血あり 血圧低下・末梢循環不全 |
急性心不全に使用する薬剤
利尿薬
・ループ利尿薬(フロセミド、アゾセミドなど):
即効性があり、利尿薬の中で頻用される。腎機能低下例では反応が悪い。
来院時以降はボーラス投与と持続投与に効果は差はなく、症例に応じて使用で構わない。
血圧低下・低K血症に注意。
例)フロセミド(ラシックス®︎)20mg静注
・抗アルドステロン薬(スピロノラクトンなど):
Kを保持するのでループ利尿薬と併用することが多い。また、慢性心不全治療薬としても使用する。
例)カンレノ酸カリウム(ソルダクトン®︎)200mg+5%ブドウ糖液20mL 静注
・バソプレシンV2受容体拮抗薬(トルバプタン(サムスカ®︎)):
水の再吸収をおさえて強力に利尿するため血清Na濃度が上昇する。低Na血症に有効。高Na血症に注意。
例)トルバプタン(サムスカ®︎)7.5mg1T1×
血管拡張薬
・硝酸薬(ニトログリセリン(ミオコール®︎)、硝酸イソソルビド(ミリスロール®︎)):
冠動脈拡張作用に加え、低用量で使用すると静脈拡張(前負荷軽減)、高容量では動脈拡張(後負荷軽減)を示す。
持続投与で早期から耐性が出現するため注意。
例)ニトログリセリン(ミオコール®︎,ミリスロール®︎)50mg/100mL 1〜10mL/hで投与
・hANP(カルペリチド(ハンプ®︎)):
血管拡張作用(後負荷軽減)、ナトリウム利尿(前負荷軽減)などを示し、心筋症・高血圧性心疾患、弁膜症などによる非代償性心不全に有効性が高い。血圧低下に注意。
例)カルペリチド(ハンプ®︎)0.025〜0.05μg/kg/分で開始。最大0.2μg/kg/分。
カテコラミン
・ドブタミン:
β1、β2、α1受容体刺激。主にはβ1刺激により強心作用を示す。10μg/kg/分以下では心拍数の上昇は少なく、他のカテコラミン薬より心筋酸素消費量は少ない。また、肺動脈拡張期圧の低下もあり肺うっ血にも効果がある。β遮断薬内服中の患者では効果が出にくい。
例)ドブタミン600mg/200mL(3mg/1ml)
1~5μg/kg/分で開始。最大20μg/kg/分まで。
・ノルアドレナリン:
β1刺激による強心作用とα受容体刺激による末梢血管収縮作用をもち、ショックの状態に使用する。
例)ノルアドレナリン1mg/1mL/1A
中心静脈路投与の場合、ノルアドレナリン3mL+生食47mLで希釈(60μg/mL)
0.05~0.3μg/kg/分で投与開始(最大0.5~1.5μg/kg/分)。
PDEⅢ阻害薬(ミルリノン(ミルリーラ®︎))など:
強心作用と血管拡張作用をもち、カテコラミン抵抗状態でも有効である。
例)ミルリノン(ミルリーラ®︎)10mg/10mL/A
2A+生食20mLで希釈。0.25〜0.75μg/kg/分で投与。