急性心不全|症状・検査/診断・治療
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目次
10秒サマリー
- 定義:心不全症状の急激な悪化により、緊急の加療を要する状態。
- 初期評価:クリニカルシナリオ(CS)を用いて「血圧」で即座にトリアージする。
- 病態判断:Nohria-Stevenson分類(Wet/Dry, Warm/Cold)で、うっ血と低灌流の有無を評価する。
- 治療:うっ血には利尿薬、血圧が保たれた高度肺うっ血・高血圧には血管拡張薬、低灌流には強心薬・補助循環を検討。
急性期トリアージ:クリニカルシナリオ(CS)
来院直後の収縮期血圧(SBP)に基づき、即座に病態を推定して治療を開始する。
| 分類 | SBP (mmHg) | 主病態と初期対応 |
|---|---|---|
| CS 1 | >140 | 肺水腫(急性の充満圧上昇・血管性要因):NPPVと血管拡張薬(硝酸薬等)が優先。利尿薬は体液貯留がある場合に併用。 |
| CS 2 | 100〜140 | 体液貯留型(全身浮腫):ループ利尿薬が主体で、血管拡張薬を併用。 |
| CS 3 | <100 | 低灌流型:体液貯留がなければ容量負荷。強心薬を用い、低血圧・低灌流が続けば血管収縮薬。心原性ショックでは薬物治療に加えて補助循環を検討。 |
※CS 4は急性冠症候群(ACS)、CS 5は右心機能不全として個別に介入する。
※CS分類は2017年版ガイドラインで初期対応のための分類として示されたもの。2025年版では、肺うっ血・体うっ血・低心拍出/組織低灌流の評価にもとづいて治療方針を決めることが中心に据えられている。
病態の精査:Nohria-Stevenson分類
身体所見から「うっ血(Wet/Dry)」と「低灌流(Warm/Cold)」の有無を判断し、治療を最適化する。
- Wet(うっ血あり):起座呼吸、頸静脈怒張、下腿浮腫、肺ラ音。
- Cold(低灌流あり):四肢冷感、意識レベル低下(傾眠傾向)、乏尿、脈圧の狭小。
| Dry(うっ血なし) | Wet(うっ血あり) | |
|---|---|---|
| Warm(低灌流なし) | Warm-Dry:代償期(経口心不全薬の調整) | Warm-Wet:血管拡張薬・利尿薬 |
| Cold(低灌流あり) | Cold-Dry:容量負荷・強心薬 | Cold-Wet:強心薬・利尿薬・補助循環 |
初期検査のポイント
- 胸部X線:バタフライシャドウ(肺水腫)、胸水。
- 心エコー(POCUS):IVC怒張の有無(うっ血評価)、LVEF(収縮不全の確認)。
- 血液検査:BNP/NT-proBNP、乳酸値(組織低灌流の指標)、心筋トロポニン。
急性期薬物療法の詳細(投与・調整マニュアル)
急性心不全の薬物療法は、効果発現が速い「静注薬」による細かい調整(titration)が基本となる。血圧、心拍数、尿量、呼吸状態をリアルタイムで監視しながら増減を行う。
1. 血管拡張薬:血圧が保たれた例の肺うっ血症状の改善
心臓への「戻り(前負荷)」と「送り出しの抵抗(後負荷)」を減らし、肺うっ血による呼吸困難・起坐呼吸を改善する。ただし予後を改善するエビデンスはなく、ルーチン使用は推奨されない。2025年版ガイドラインでは、血圧の保たれた例のうっ血症状改善目的で「考慮してもよい」(推奨クラスIIb)とされ、主に高度な肺うっ血(起坐呼吸)、著明な高血圧、中等度以上の僧帽弁逆流を伴う例で考慮する。重篤な低血圧、心原性ショック、脱水症、急性右室梗塞には投与すべきでない(クラスIII)。
ニトログリセリン(ミリスロール®等)
- 特徴:即効性・短時間作用型(半減期は数分)。低用量では主に静脈拡張(前負荷軽減)、高用量では静脈と動脈の拡張(後負荷軽減も)。24時間以上の使用で耐性が生じる。
ニトログリセリン(ミリスロール®等)
0.05〜0.1 μg/kg/minで開始し、血圧などを見ながら5〜15分ごとに0.1〜0.2 μg/kg/minずつ増量し、最適な速度で維持する(例:50mg/100mL製剤〔500μg/mL〕なら、体重50kgで0.3〜0.6 mL/hが開始量に相当)。
添付文書(急性心不全)の用量。塩化ビニル製の輸液セットには吸着されるため、その場合は多量を要することがある。2017年版ガイドラインの表では「0.5〜10 μg/kg/minで開始」とされていたが、添付文書の開始量より多い。
- 注意:急性右室梗塞には投与すべきでない。肥大型心筋症(閉塞性)や重症大動脈弁狭窄症では、前負荷の低下で著明な血圧低下をきたすことがあるため注意する。添付文書上の禁忌は、閉塞隅角緑内障、高度な貧血、PDE5阻害薬(シルデナフィル、タダラフィル等)・リオシグアト投与中など。
カルペリチド(ハンプ®)
- 特徴:ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)製剤。静脈系優位の血管拡張に加え、ナトリウム利尿作用、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系抑制作用を持つ。ただし予後改善効果は確立しておらず、ルーチン使用は推奨されない(国内のLASCAR-AHF試験では、低用量投与で予後・症状・尿量・腎機能のいずれにも有益な効果が得られない可能性が示された)。
カルペリチド(ハンプ®)
0.1 μg/kg/minで持続静注。病態に応じて0.2 μg/kg/minまで増量できる。
添付文書の用量。2017年版ガイドラインの表では「0.0125〜0.05 μg/kg/minで開始」とされていたが、これは添付文書の用量より少ない。
- 注意:重篤な低血圧・心原性ショック、右室梗塞、脱水には禁忌。過度の血圧低下や徐脈が出たら過量投与を疑う。投与開始後60分たっても改善の傾向がなければ、他の治療に切り替える(添付文書)。
2. 利尿薬:うっ血改善の要
体液貯留(Wet)を解除し、心不全症状を取り除く。体液貯留のある患者には、うっ血症状を確認したら速やか(ER到着から1時間以内)にループ利尿薬を静注する(推奨クラスI)。
フロセミド(ラシックス®)
フロセミド(ラシックス®)
まずは20〜40mgを静注。可能なら1〜2時間以内(遅くとも6時間以内)に尿量で反応を評価し、乏しければ倍量投与、または持続静注(1〜5 mg/h、2017年版ガイドラインの表による)へ移行する。
添付文書の用法は1日1回20mgの静注・筋注(年齢・症状により適宜増減)で、持続静注は添付文書に記載のない投与法。大量に静注する場合は毎分4mg以下で投与する(急速大量静注で難聴)。ボーラス投与と持続静注で、呼吸困難の改善や腎機能に有意差はない(DOSE試験)。
- 注意:低カリウム血症、低ナトリウム血症、低血圧、腎機能悪化(体液量不足)。初回量の2〜4倍まで増量しても十分な尿量が得られなければ、原因検索とあわせて利尿薬の併用療法や血液浄化療法を検討する。
トルバプタン(サムスカ®、静注薬サムタス®)
- 特徴:水利尿薬(バソプレシンV2受容体拮抗薬)。ナトリウム排泄を増やさずに水を出す。適応は「ループ利尿薬等の他の利尿薬で効果不十分な心不全における体液貯留」。
トルバプタン(サムスカ®)
15mg 1日1回経口。
血清Na 125mEq/L未満、急激な循環血漿量の減少が好ましくない例、高齢者、血清Naが正常域内で高値の例では、半量(7.5mg)から開始することが望ましい(添付文書)。他の利尿薬(ループ利尿薬など)と併用する。入院下で開始し、開始4〜6時間後と8〜12時間後に血清Naを測定する。
トルバプタンリン酸エステルナトリウム(サムタス®点滴静注用)
16mgを1日1回、1時間かけて点滴静注。
経口摂取困難な患者にも使える。経口で水分をとれない患者では半量(8mg)から開始し、効果不十分なら翌日以降に16mgへ増量できる。血清Na 125mEq/L未満、急激な循環血漿量の減少が好ましくない例、高齢者、血清Naが正常域内で高値の例でも半量(8mg)から開始することが望ましい。投与後24時間以内に血清Naが10mEq/Lを超えて上昇した翌日は増量しない。入院下で開始し、少なくとも開始4〜6時間後と8〜12時間後に血清Naを測定する(添付文書)。
- 注意:自由水のみが出るため、高ナトリウム血症に注意(高ナトリウム血症・無尿の患者には禁忌。経口薬のサムスカ®は口渇を感じない・水分摂取が困難な患者にも禁忌)。口渇があれば水分補給を行うよう指導し、口渇が続く場合は減量を考慮する。口渇を感じにくい高齢者では、より低用量から開始する。
3. 強心薬・昇圧薬:CS3・Cold症例の救急薬
心収縮力を高め、重要臓器への血流(灌流)を維持する。低心拍出、組織低灌流、ショックを伴わない患者には、ルーチンに強心薬を使用すべきでない(推奨クラスIII)。使う場合も必要最少量・最短期間にとどめる。
ドブタミン(ドブトレックス®)
- 特徴:β1刺激薬。心収縮力を高めるが、軽度の血管拡張作用(β2)も併せ持つ。低心拍出・組織低灌流を伴う肺うっ血に考慮する(推奨クラスIIa)。
ドブタミン(ドブトレックス®)
1〜5 μg/kg/minで開始。必要なら最大20 μg/kg/minまで。
添付文書の用量。72時間以上の投与で耐性がみられることがある(添付文書)。急な減量・中止は血行動態の悪化を招くため、段階的に減量する(2025年版ガイドライン)。
- 注意:心拍数増加、心室性不整脈の誘発、心筋虚血。閉塞性肥大型心筋症には禁忌。カルベジロールなどβ遮断薬の内服中は効果が減弱・変化することがある。
ミルリノン(ミルリーラ®)
- 特徴:PDEIII阻害薬。β受容体を介さず、細胞内のcAMPを増やすことで「強心作用」と「血管拡張作用」を両立する(Inodilator)。
- 適応:他の薬剤で効果不十分な急性心不全(添付文書)。低心拍出・組織低灌流を伴う肺うっ血に考慮する(非虚血性:推奨クラスIIa、虚血性:IIb)。β受容体を介さないため、β遮断薬内服中の急性増悪でも心拍出量増加・肺毛細管圧低下の効果を発揮する。
ミルリノン(ミルリーラ®)
50 μg/kgを10分かけて静注し、続いて0.5 μg/kg/minで持続静注。0.25〜0.75 μg/kg/minの範囲で増減する。
状態によっては持続静注から開始してよい(添付文書)。腎排泄のため、腎機能低下例(高齢者を含む)では0.25 μg/kg/minから開始するなど過量投与に注意し、血清Cr 3.0mg/dL超では特に注意する。
- 注意:血圧低下、心房性不整脈(OPTIME-CHF試験でプラセボより多かった)。虚血性心疾患ではイベントが多い傾向の報告がある。閉塞性肥大型心筋症には禁忌。
ノルアドレナリン
- 特徴:強力なα1刺激。速やかな昇圧が必要な患者では第一選択。他の強心薬や循環血液量の補正でも心原性ショックから改善しない場合に使用する(推奨クラスIIa)。強心薬としての単独使用は控え、できるだけ少量・短期間にとどめる。
ノルアドレナリン(ノルアドリナリン®)
0.03〜0.3 μg/kg/minで持続静注を開始。
2025年版ガイドラインの記載。添付文書の用法は「1mgを250mLに溶解し、0.5〜1.0 mL/minで点滴静注、血圧を見ながら調節」。大量に血管外へ漏出すると局所の虚血性壊死をきたすことがあるため、投与経路に注意する。
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
- 「ハンプかニトロか」:SBP > 140で起坐呼吸が強い急性肺水腫(CS1)では、NPPVと硝酸薬で速やかに肺うっ血を解除する(静脈路の確保前でも硝酸薬の舌下・スプレーを使える)。カルペリチドは他の血管拡張薬と同様に予後改善効果が確立しておらず、腎保護効果も示されていないため、ルーチンでは使わない。
- ※ミオコール®スプレーなど舌下硝酸薬の添付文書上の効能は「狭心症発作の寛解」で、急性心不全への使用は適応外。
- β遮断薬を飲んでいる患者の強心薬:メインテートなどを飲んでいる患者にドブタミン(β1刺激)を入れても、受容体がブロックされていて効きが悪い。この場合は受容体を介さない「ミルリノン」を検討する(虚血性心疾患では慎重に)。
- 尿量が出ない時(Diuretic Resistance):フロセミドを増量するのと並行して、腎臓以外の原因(低心拍出・組織低灌流、低血圧、貧血、感染、低アルブミン血症、低ナトリウム血症など)を探す。低心拍出が顕著だと腎血流が落ちて利尿が得られないことがあり、低心拍出・組織低灌流を合併していれば強心薬の併用を検討する。利尿薬抵抗性には、ループ利尿薬の増量、またはトルバプタン・サイアザイド系利尿薬の併用を考慮する(推奨クラスIIa)。
- NPPVの早期導入:酸素投与で改善しない呼吸不全(呼吸数 > 25回/分、SpO2 < 90%)に対し、気管挿管を避けるために速やかにNPPVを導入する(推奨クラスI、エビデンスレベルA)。前負荷の減少による血圧低下に注意する。
- 右室梗塞での禁忌:右室梗塞による急性心不全では、ニトロ等の血管拡張薬は投与すべきでない(静脈還流が減って低心拍出が悪化する)。カルペリチドも右室梗塞には禁忌(添付文書)。
参考文献
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」(JCS/JHFS 2025)2025年3月28日発行(2025年12月19日更新)(PDF)
- 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」2018年3月23日発行(2022年4月1日更新)(CS分類の表48、図12、静注薬の用法・用量の表59)
- ミリスロール注 添付文書(KEGG)
- ハンプ注射用1000 添付文書(KEGG)
- ラシックス注20mg 添付文書(KEGG)
- サムスカOD錠 添付文書(KEGG)
- サムタス点滴静注用 添付文書(KEGG)
- ドブトレックス注射液100mg 添付文書(KEGG)
- ミルリーラ注射液10mg 添付文書(KEGG)
- ノルアドリナリン注1mg 添付文書(KEGG)
- ミオコールスプレー0.3mg 添付文書(KEGG)
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