10秒サマリー
- 病態:先天的な副伝導路(ケント束)を介して心室が早期興奮する状態。心電図上のデルタ波が特徴。
- リスク:発作性上室性頻拍(PSVT)や、偽性心室頻拍(プレエキサイテッドAF)による致死的不整脈のリスクがある。
- 診断:心電図での「PQ短縮」と「デルタ波」の確認。
- 治療:根治にはカテーテルアブレーションが第一選択(成功率95%以上)。急性期頻拍には抗不整脈薬を使用する。
病態・疫学
正常な房室伝導路(房室結節〜ヒス束)以外に、心房と心室を電気的に短絡させる副伝導路(ケント束)が存在することで生じる。若年者の動悸の原因として頻度が高く、多くは器質的心疾患を伴わない。
ケント束を介して電気信号が心室へ早く伝わるため、心電図では心室の早期興奮を示す「デルタ波」が出現する。この副伝導路を電気信号が回り続けることで、激しい動悸を来す頻拍発作(房室回帰性頻拍:AVRT)を引き起こす。
症状・身体所見
- 動悸:突然始まり突然止まる(ポーズを伴うこともある)規則的な頻拍が典型的。
- 失神・眼前暗黒感:極めて速い頻拍や、心房細動を合併した場合の血圧低下による。
- 無症状:健診でデルタ波のみ指摘され、発作を自覚しないケース(WPW心電図パターン)も多い。
初期検査・鑑別診断
診断の基本は12誘導心電図である。頻拍発作時には、特にワイドQRS頻拍との鑑別が重要となる。
- 12誘導心電図の基準:
- PQ間隔の短縮(0.12秒未満)
- QRS幅の延長(0.10秒以上)
- デルタ波(QRS立ち上がり部分の緩徐な傾斜)の存在
- 運動負荷試験:運動中にデルタ波が突然消失するかを確認する。消失する場合は副伝導路の伝導性が弱い(低リスク)と判断される。
- 偽性心室頻拍(プレエキサイテッドAF):WPW症候群に心房細動(AF)を合併すると、副伝導路を介して非常に速い電気信号が心室に伝わり、ワイドQRSの不規則な頻拍を呈する。一見心室頻拍(VT)に見えるため注意が必要である。
専門医へのコンサル基準
- 動悸発作の既往がある、または発作を確認した場合。
- 無症状であっても、デルタ波があり、かつパイロットや運転従事者など職業的なリスク評価が必要な場合。
- 失神を伴う、または高度な頻拍(偽性VTなど)を認める場合(至急)。
治療法・具体的な処方例
1. 急性期(頻拍停止)
- 迷走神経刺激:バルサルバ法や頸動脈洞マッサージ(禁忌がない場合)を試みる。
- 房室回帰性頻拍(AVRT):
- アデノシン三リン酸(アデホス):10mg〜20mgを急速静注。房室結節を遮断して停止させる。
- ベラパミル(ワソラン):5mgをゆっくり静注。
- 偽性心室頻拍(プレエキサイテッドAF):
- 禁忌:ベラパミル、ジギタリス、β遮断薬。房室結節のみをブロックすると副伝導路への伝導が加速し、心室細動(VF)へ移行する危険がある。
- 第一選択:プロカインアミド(アミサリン)静注、または電気的除細動。
2. 根治治療
- カテーテルアブレーション(クラスI推奨):副伝導路(ケント束)を高周波通電で焼灼する。成功率は高く、根治が期待できるため、有症状例では薬物療法よりも優先される。
resi Dr. of the Eye(Pitfalls・匙加減)
- 「ワイドQRS+不規則」を見たらワソランは待て:WPWに伴うAF(偽性VT)に対して不用意にワソランを静注すると、心停止を招く恐れがある。診断に自信がないワイドQRS頻拍は、プロカインアミド(アミサリン)か除細動を選択するのが安全である。
- 無症候性WPWの扱い:全く症状がない場合、原則として経過観察で良いが、若年アスリートや特定の職業(航空機操縦士等)では、突然死リスク回避のためにアブレーションを検討する方針(2024年フォーカスアップデート参照)が示されている。
予後・患者説明のポイント
- 「心臓の筋肉の病気ではなく、電気の通り道が1本多いだけです」と伝え、アブレーションによる根治の可能性を説明する。
- 突然の動悸が起きた際の対処法(バルサルバ法など)や、救急受診の目安を指導する。
参考文献
- 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン(2022年改訂版)
- 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)
- 2024年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療
