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呼吸器

肺非結核性抗酸菌症の診断・治療

肺非結核性抗酸菌症の概要

肺非結核性抗酸菌症は、結核菌を除く抗酸菌(非結核性抗酸菌:non-tuberculous mycobacteria, NTM)が原因となる慢性の肺感染症である。

これらの菌は土壌や水など自然環境に広く存在し、主に吸入によって感染する。

感染はしてもすべての人が発症するわけではなく、体力や免疫状態、基礎疾患の有無によって発病のリスクが異なる。

非結核性抗酸菌は約190種類が知られており、その中で最も多いのがMycobacterium avium complex(MAC)である。

本疾患は進行が緩徐で、症状が軽微または無症状のまま経過することが多い。

しかし、重症化すると呼吸機能が著しく低下し、治療が難しい場合もある。

肺非結核性抗酸菌症の疫学

  • 性別・体型:中高年女性に多く、特にやせ型で非喫煙の女性が発症しやすい。
  • 傾向:結核の罹患率は減少している一方で、本症の罹患率は増加傾向にある。
  • 罹患率:最新の全国疫学調査では、人口10万人あたり14.7人と報告されている。
  • 原因菌の割合
     Mycobacterium avium complex(MAC):全体の90%を占める。
     Mycobacterium kansasii:約5%。
     Mycobacterium abscessus complex:約5%。
  • 地域差
     西日本ではMycobacterium intracellulareが多い。
     東日本ではMycobacterium aviumが多い。

肺非結核性抗酸菌症の症状

肺非結核性抗酸菌症の症状は多岐にわたるが、多くは以下の特徴を示す。

  • 咳嗽と喀痰:慢性的な咳と膿性の喀痰が主症状である。進行は緩やかで、数か月から年単位で増悪と寛解を繰り返す。
  • 血痰・喀血:病勢とは関係なく、軽微な血痰が繰り返しみられることがある。まれに喀血が重篤化する場合もある。
  • 体重減少や倦怠感:病状が進行すると、炎症による全身症状として体重減少や倦怠感が現れる。
  • 息切れや呼吸困難:通常は終末期に見られるが、進行した場合には顕著になる。

MAC症では女性に多く、小結節や気管支拡張が主体である結節・気管支拡張型が多い。

一方、M. kansasiiでは薄壁空洞が特徴的であり、肺結核と類似した症状を呈する。

肺非結核性抗酸菌症の検査・診断

各種検査

肺非結核性抗酸菌症(NTM症)の診断には、以下の検査が必要となる。

胸部画像検査

胸部X線やCT検査を用いて、結節性陰影、気管支拡張、小結節の散布、空洞性陰影などの特徴的な所見を確認する。

中葉や舌区を中心とした病変がよく見られる。

喀痰検査

喀痰の抗酸菌培養を2回以上実施し、異なる検体で培養陽性が確認されることが診断に必要である。

結核菌と異なり、胃液の検査は有用性が低い。

また、核酸増幅検査は補助的な診断法として用いられるが、培養陽性の代用にはならない。

マイコバクテリウム抗体検査

血清診断法としてキャピリア®MAC抗体ELISAが用いられる。

感度は約60%、特異度は90%以上とされ、補助診断に活用できる。

抗体価は病勢の指標としても利用可能である。

気管支鏡検査

喀痰が採取できない場合や、喀痰培養で菌が確認できない場合には、気管支鏡検査による気管支洗浄液の培養を行う。

この場合、1回の陽性で確定診断に至ることもある。

診断基準

診断には以下の3条件をすべて満たす必要がある。

  • 胸部画像検査で特徴的な異常陰影が確認されること。
  • 喀痰や気管支洗浄液で抗酸菌が複数回検出されること。
  • 他の疾患(結核、肺癌など)が除外されていること。

肺非結核性抗酸菌症の合併症

肺NTM症は進行に伴い、以下のような合併症を引き起こす場合がある。

  • 喀血
    血痰や喀血が頻繁にみられるが、通常は軽微で止血剤で対応可能。
    ただし、大量の喀血を起こす場合には気管支動脈塞栓術が必要となることもある。
  • 気管支拡張症
    長期間にわたり炎症が続くことで、気管支拡張症が進行することがある。
  • 全身症状の悪化
    発熱や体重減少、全身倦怠感などが進行した炎症によって引き起こされ、予後の悪化因子となる。
  • 感染の慢性化
    菌が完全に消失しない場合が多く、治療後も再発や再感染が発生しやすい。

肺非結核性抗酸菌症の治療

治療の基本方針

肺非結核性抗酸菌症(NTM症)の治療は、症例ごとに進行度や症状を考慮して個別に決定される。

喀痰塗抹陽性、または空洞性病変がある場合は治療を早期に開始する。

喀痰塗抹陰性かつ軽症例(結節・気管支拡張型)や無症状の場合は経過観察も選択肢となる。

症状や画像所見が悪化している場合には治療を開始する。

実際の治療は菌種によって異なるためメジャーな3つの菌種について記載する。

肺Mycobacterium avium complex(MAC)症

主な特徴

MAC症は最も頻度が高く、結節・気管支拡張型(緩徐に進行)と線維空洞型(急速に進行)に分類される。

緩徐進行型では無症状の場合、治療開始を見送ることもある。

治療法

基本の多剤併用療法は以下を投与する。

  • クラリスロマイシン(CAM)またはアジスロマイシン(AZM)
  • リファンピシン(RFP)
  • エタンブトール(EB)

重症例や耐性例では、アミノグリコシド(アミカシン吸入液やストレプトマイシン)の併用を検討する。

    治療期間

    喀痰培養陰性化後少なくとも1年間。

    再燃を防ぐため、治療期間の延長を検討する。

    注意点

    クラリスロマイシンの単剤治療は耐性菌を引き起こすため禁忌。

    肺Mycobacterium kansasii症

    主な特徴

    喫煙歴のある中高年男性に多い。

    空洞を伴う病変を呈し、結核に似た画像所見を示す。

    治療反応が良好なことが多い。

    治療法

    基本の多剤併用療法を行う。

    • リファンピシン(RFP)
    • イソニアジド(INH)
    • エタンブトール(EB)

    ※RFP耐性の場合、キノロン系薬剤(レボフロキサシンなど)を追加検討。

    治療期間

    喀痰培養陰性化後1年間。

    肺Mycobacterium abscessus complex症

    主な特徴

    MAC症に似た臨床経過や画像所見を示しますが、治療が非常に難しいのが特徴。

    菌の薬剤耐性が強く、治療選択肢が限られる。

    治療法

    多剤併用療法を行う。

    • クラリスロマイシン(CAM)
    • アミカシン(注射薬または吸入液)
    • カルバペネム系抗菌薬(イミペネム、メロペネムなど)

    治療期間

    長期にわたる点滴治療を行うことが多い。

    治療終了後の再燃率も高く、外科的切除が選択されることも多い。

    薬物療法開始後の検査

    肝機能検査:治療開始後2か月間は2週ごと、その後は月1回。

    視力・色覚検査(エタンブトール投与中):月1回。

    聴力検査(アミノグリコシド系投与中):月1回、または必要時。

    血液検査(白血球、血小板):月1回。

    治療成績と課題

    治療による一時的な菌陰性化や症状改善は期待できるが、再燃や再感染が30〜40%に認められる。

    再発防止のため、治療終了後も定期的なフォローアップが不可欠である。

    肺非結核性抗酸菌症の予後


    結節・気管支拡張型の場合、治療によって一時的な症状改善や菌陰性化が期待できるが、再発率が高い。

    再燃や新たな感染が頻繁に起こる。

    線維空洞型は進行が速く、治療が遅れると10年以内に30〜50%の症例で死亡が報告されている。

    一方、結節・気管支拡張型は進行が緩徐であるが、長期にわたり治療が必要な場合が多い。

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