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感染症 消化管

腸管スピロヘータの診断・治療

腸管スピロヘータの概要

腸管スピロヘータ症(human intestinal spirochetosis; HIS)は、グラム陰性のらせん状嫌気性菌であるBrachyspira属の細菌が大腸に感染して発症する疾患である。

この疾患は主にBrachyspira aalborgiおよびBrachyspira pilosicoliが原因とされ、いずれも人や動物に感染し得るため、人畜共通感染症として注目されている。

特にB. pilosicoliはヒト以外にも犬や鳥、マウスなど多様な動物に感染が確認されているが、B. aalborgiはヒトおよび高等霊長類に特有である。

梅毒も、同じスピロヘータ目のTreponema pallidumによる感染症だが菌が違い、関係はない。

腸管スピロヘータ症は、感染動物の糞便に汚染された手指や食品を介して経口感染することが主な経路である。このため、家庭内やペットとの接触による感染の可能性が指摘されている。

一部の感染者では無症状で経過するが、慢性的な下痢、便秘、腹痛、あるいは体重減少などの消化器症状を引き起こすこともある。

また、免疫不全状態や慢性疾患を抱える患者では重症化する場合があり、免疫状態や生活環境が病態に影響を与えると考えられている。腸管スピロヘータ症は内視鏡検査で特徴的な所見を示さないことが多く、組織学的検査による診断が必要である。

腸管スピロヘータの疫学

本邦での報告では、感染率は0.4~3%とされており、欧米(2~7%)や発展途上国に比べて低い。

しかし、近年は診断技術や疾患の認知向上に伴い報告例が増加している。

男女比は男性に多く、特にB. pilosicoliによる感染が多い。

日本ではペット飼育者など家庭内の接触による感染が推測されるが、欧米ではHIV患者における高頻度感染や同性愛者間の感染が報告されており、感染経路のさらなる研究が必要な状態である。

腸管スピロヘータの症状

腸管スピロヘータ症(HIS)の症状は多様であり、無症状のケースも少なくない。

症状が現れる場合、最も一般的なものは慢性的な下痢である。特に水様性の下痢が続くことが多いが、時に軟便や血便がみられることもある。

また、腹痛、腹部不快感、鼓腸感などの消化器症状を認めることもある。

症状は数週間から数か月間続くことが多い。

治療を行わない場合でも自然軽快することがある一方で、慢性化する例も報告されている。

腸管スピロヘータの検査・診断

内視鏡検査

内視鏡検査は診断に重要だが、腸管スピロヘータ症に特有の所見はほとんどない。

一部の症例では、大腸粘膜に軽度の浮腫、発赤、びらんが認められることがあるが、これらは非特異的であり他の疾患と区別が難しい。

症状がある患者では、内視鏡検査では肉眼的に異常が見られなくても、病理検査のための粘膜生検を行うことが重要である。

病理組織学的検査

腸管スピロヘータ症の確定診断には、病理組織学的検査が必要である。生検標本を用いて以下の方法でスピロヘータの存在を確認する。

  • Hematoxylin and Eosin(HE)染色:スピロヘータが大腸粘膜上皮表面に付着している様子を観察する。
  • 特異的染色法:渡銀染色(Warthin-Starry法)やPAS染色などを使用し、菌体をより明確に検出する。

スピロヘータは、粘膜表層に好塩基性の毛羽立った形状で付着することが特徴である。この特徴的な形状が確認されると、腸管スピロヘータ症と診断される。

腸液検査

内視鏡による吸引で腸液を採取し、顕微鏡検査でスピロヘータを直接観察することも診断に有用である。

この方法は簡便であり、病理検査と併用することで診断精度を高めることができる。

スピロヘータを最初から疑い検査することは現実的には困難なので、治療効果判定に用いると有用である。

鑑別診断

腸管スピロヘータ症は、以下の疾患と症状が類似するため、鑑別が必要である。

  • 感染性腸炎(赤痢アメーバやカンピロバクター感染症など)
  • 炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎やクローン病)
  • 過敏性腸症候群(IBS)

特に、非特異的な内視鏡所見の場合はこれらの疾患を除外することが重要である。

腸管スピロヘータの治療

腸管スピロヘータ症の治療は、症状の有無や患者の全身状態に応じて決定する。

無症状の場合は治療の必要性は低いとされるが、症状がある場合や免疫不全患者、重症例、持続例では除菌治療を行うことが推奨される。

抗菌薬治療

腸管スピロヘータ症の治療薬として、メトロニダゾールが第一選択薬となる。

メトロニダゾールは有効性が高く、治療開始後数日で下痢や腹痛が改善することが多い。

ただし、メトロニダゾール服用中に飲酒するとジスルフィラム様反応(顔面紅潮、動悸、吐き気など)が生じることがあるため、治療中の禁酒が必須である。

また、メトロニダゾールは他の薬剤(特にワルファリンなどの抗凝固薬)との相互作用があり、治療を開始する際は患者が服用中の薬を医師に報告することが重要である。

メトロニダゾールが使用できない場合はペニシリン系やクラリスロマイシンが使用されることもあるが、効果は劣る。

メトロニダゾール(例:フラジール®)500mg 3T3× 10〜14日間

治療効果の判定

治療の効果は、症状の改善や再燃の有無で評価する。

内視鏡所見があった症例や症状が持続・再燃する症例は、再度大腸内視鏡検査や腸液検査を行い、スピロヘータの存在を確認する。

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