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肝・胆・膵

自己免疫性肝炎の診断・治療

自己免疫性肝炎の概要

  • 遺伝的要因:
    日本ではHLA-DR4陽性症例が多い
  • 発症の誘因:
    ウイルス感染、薬剤等
  • 病態:
    自己免疫反応(T細胞)による肝細胞障害
  • 組織学的特徴:
    門脈域の線維性拡大、リンパ球や形質細胞の浸潤を伴う「interface hepatitis」や肝細胞ロゼット形成  
  • 血液検査の特徴:
    トランスアミナーゼの上昇、IgGの高値、抗核抗体(ANA)、抗平滑筋抗体(ASMA)陽性、高γ-グロブリン血症
  • 経過:
    慢性進行性(または急性)
  • 治療:
    中心は副腎皮質ステロイド

自己免疫性肝炎の疫学と予後

日本での男女比は1:4で女性に多い。

発症年齢は50〜70代が多い。

日本における慢性肝炎の約1.8%を占める(女性に限ると4%)。

遺伝的背景としてHLA-DR4陽性の症例が多い。

自己免疫性肝炎の分類は、1型(抗核抗体や抗平滑筋抗体が陽性)と、2型(抗肝腎ミクロソーム(LKM)-1抗体陽性)があり、日本では1型が大半である。

ステロイド治療で肝酵素が正常化すれば予後は良好で生存期間も一般人口と差を認めないが、治療が遅れたり、再燃を繰り返す症例は予後が不良で肝硬変、肝不全と進行する。

肝細胞癌を3〜5%の割合で合併。

自己免疫性肝炎の症状

無症候性のことがおおいが、以下の症状を呈することがある。

  • 倦怠感
  • 黄疸
  • 食思不振
  • 関節痛
  • 発熱
  • ##自己免疫性肝炎の検査

血液検査

肝胆道系酵素(AST・ALT・ALP・γ-GTP)の上昇

抗核抗体(ANA):陽性

抗平滑筋抗体(SMA):陽性率が高いが、保険未収載。

血清IgG:基準上限値を1.1倍以上超える増加

抗LKM-1抗体:ときに陽性。

画像検査

腹部超音波検査・CT:慢性肝疾患の所見(肝辺縁の鈍化や肝表面の凹凸、内部エコー粗雑など)

肝生検

interface hepatitis、門脈域の線維性拡大、リンパ球や形質細胞の浸潤、肝細胞ロゼット形成が特徴的。

ただし、急性発症例では門脈域の炎症細胞浸潤が見られない場合もあり、中心静脈域の壊死・炎症反応が診断に重要。

自己免疫性肝炎の診断基準

厚労省診断基準・改訂版国際診断基準・簡易型国際診断基準の使い分け

基本的には、厚労省の診断基準が難病指定の判定にも使用されるため同診断基準を使用する。

しかし、ステロイドによる診断的治療が項目に入っているため、ステロイド使用前の診断が難しい。

そのため、ステロイド使用前は他の診断基準も考慮することで、ステロイドを投与するかどうかを判断する。

改訂版国際診断基準は診断感受性が97~100%と優れるが検査項目が多く、実林床での使用は難しい。

簡易型国際診断基準は診断特異性に優れるが感受性が劣る。

具体的には、簡易型国際診断基準で疑診以上であればステロイドの投与を検討することを考える。その上で、厚労省の診断基準も使用する。

厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する調査研究」班の診断指針

1.抗核抗体陽性あるいは抗平滑筋抗体陽性
2.IgG高値(>基準上限値1.1倍)
3.組織学的にinterface hepatitis や形質細胞浸潤がみられる
4.副腎皮質ステロイドが著効する
5.他の原因(※)による肝障害が否定される

※ 肝炎ウイルス、アルコール、薬物による肝障害、及び他の自己免疫疾患に基づく肝障害など

<診断のカテゴリー>
典型例:  上記項目で、1~4のうち3項目以上を認め、5を満たすもの。
非典型例:  上記項目で、1~4の所見のうち1項目以上を認め、5を満たすもの。


1.副腎皮質ステロイド著効所見は治療的診断となるので、典型例・非典型例ともに、治療開始前に肝生検を行い、その組織所見を含めて診断することが原則である。ただし、治療前に肝生検が施行できないときは診断後速やかに副腎皮質ステロイド治療を開始する。
2.国際診断スコアが計算できる場合にはその値を参考とし、疑診以上は自己免疫性肝炎と診断する。
3.診断時、既に肝硬変に進展している場合があることに留意する。
4.急性発症例では、上記項目1、2を認めない場合がある。また、組織学的に門脈域の炎症細胞を伴わず、中心静脈域の壊死、炎症反応と形質細胞を含む単核球の浸潤を認める症例が存在する。
5.診断が確定したら、必ず重症度評価を行い、重症の場合には遅滞なく、中等症では病態に応じ専門機関へ紹介する。なお、5のみを満たす症例で、重症度より急性肝不全が疑われる場合も同様の対応をとる。
6.簡易型スコアが疑診以上の場合は副腎皮質ステロイド治療を考慮する。
7.抗ミトコンドリア抗体が陽性であっても、簡易型スコアが疑診以上の場合には副腎皮質ステロイド治療を考慮する.自己免疫性肝炎での抗ミトコンドリア抗体陽性率は約10%である。
8.薬物性肝障害(Drug-induced liver injury:DILI)の鑑別にはDDW-J 2004 薬物性肝障害診断スコア及びマニュアルを参考にする。
9.既知の肝障害を認め、この診断指針に該当しない自己免疫性肝炎も存在する。

簡易型国際診断基準

Simplified Criteria for the Diagnosis of Autoimmune Hepatitis(2008 年)

抗核抗体(ANA) or 平滑筋抗体(SMA)40倍以上1点

80倍以上2点
肝腎マイクロゾーム抗体(LKM)40倍以上2点
SLA抗体(SLA)陽性2点
IgG>基準値上限1点

>基準値×1.1倍2点
肝生検AIHに矛盾しない1点

典型像2点
ウイルス性肝炎の否定可能2点

6点以上:疑診
7点以上:確信

自己免疫性肝炎の重症度判定

自己免疫性肝炎の診断がついた場合は必ず重症度の判定を行うこと。

重症例や、中等症だが黄疸高度や60歳以上の症例はすぐに肝臓専門医のいる医療機関へ紹介する。

自己免疫性肝炎診療ガイドライン(2021年)重症度判定

臨床所見臨床検査所見
① 肝性脳症あり
② 肝萎縮あり
① ASTまたはALT > 200 U/l
② 総ビリルビン> 5mg/dl
③ プロトロンビン時間(PT-INR)≧1.3
重症
次のいずれかが見られる
1.臨床所見:①または②
2.臨床検査所見:③
中等症
臨床所見:①、②、臨床検査所見:③が見られず、臨床検査所見:①または②が見られる
軽症
臨床所見:①、②,臨床検査所見:①、②、③のいずれも見られない



1.重症と判断された場合、遅滞なく肝臓専門医のいる医療機関への紹介を考慮する。
2.重症の場合、劇症肝炎分科会の予後予測モデル、MELDも参考にする。
3.中等症の症例で、黄疸高度、60歳以上の高齢者の場合も専門機関への紹介を考慮する。
4.肝萎縮はCT volumetryが測定可能な場合は、肝容積対標準肝容積比を参考にする。
5.急性肝不全の診断は、厚生労働省「難治性の肝・胆道疾患に関する研究」班の診断基準(2011年版)を用いる。

自己免疫性肝炎の治療

治療目標

トランスアミナーゼとIgGの正常化、組織学的炎症と線維化の改善、持続した寛解状態を得ることを目標とする。

肝線維化や肝発癌スクリーニングのため画像検査を行う。

自己免疫性肝炎に使用する薬剤

プレドニゾロン

プレドニゾロンの投与が治療の中心となる。

初期量は0.6mg/kg/日以上、中等症以上では0.8mg/kg/日以上が推奨。

初期投与量を2週間ほど続け、血清トランスアミナーゼの改善を確認したのち、5mg/1~2週のペースで減量する。

改善が乏しい場合は2~4週ごとにゆっくり漸減する。

プレドニゾロンが0.4mg/kg/日以下では、2~4週ごとに2.5mgを、維持量になるまで漸減する。

ただし、血清トランスアミナーゼが基準値内に改善するまでは0.2mg/kg/日以上の投与を続けること(これ以上早いと再燃しやすい)。

維持量は5~7.5mg/日が多い。

2年間以上血清トランスアミナーゼとIgGが基準値内で推移すれば、プレドニゾロンの中止も検討可能。

プレドニゾロン漸減時や軽度の再燃時には、ウルソデオキシコール酸を併用することで血清トランスアミナーゼの持続正常化を得られる場合がある。

副腎皮質ステロイドの長期使用に伴う糖尿病、高血圧、骨粗鬆症、易感染性に注意すること。

アザチオプリン

ステロイド投与で効果が不十分な場合や、ステロイドの副作用が懸念される場合に使用する。

アザチオプリンの使用は非代償性肝硬変では禁忌である。

投与前にNUDT15遺伝子型検査が推奨される(重度の急性白血球減少や全脱毛)。

血液障害(汎血球減少、貧血、無顆粒球症、血小板減少)、感染症、肝障害などに注意が必要。

ウルソデオキシコール酸

軽症例や副腎皮質ステロイドが使用できない場合に使用されることがある。

副腎皮質ステロイドに比べて効果速度も遅く、単独治療は基本的に推奨されない。

再燃例の治療

ステロイド増量や再開による対応が基本。

アザチオプリンの併用も検討する。

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