原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断と治療
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目次
原発性硬化性胆管炎(PSC)の概要
自己免疫性の機序や腸内細菌の関与が示唆されているが、原因は特定されていない。
肝内外の胆管に炎症が生じ、狭窄や閉塞を引き起こし、胆汁の流れが滞る慢性進行性の胆汁うっ滞疾患。
進行すると肝硬変・肝不全に進展し、胆管癌のリスクも増加する。
高率で炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)を合併することも特徴の一つである。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の疫学と予後
疫学
- 国内患者数: 2016年の受療患者を対象とした全国疫学調査(厚労省研究班)によると、推計約2,300名(2,306名)。有病率は2007年調査(人口10万人あたり0.95)の約2倍に増加。
- 有病率: 人口10万人あたり約1.80。
- 男女比: 男性にやや多く、1:0.9(1:0.88)。
- 好発年齢: 二峰性を呈し、30歳代と60歳代にピークがある。
予後
診断時に無症状の場合の5年生存率は87%、無症状かつ若年(44歳未満)で診断された場合は91%と高め。
経過中の血清ALP値が基準値上限の1.5倍未満であることは、良好な長期予後と関連するとされる。
厚労省研究班の全国調査(435例)では、移植なしの5年生存率は77%、5年全生存率は81%。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の合併症
胆管癌
国内の全国調査では7.1%に合併。年間発生率は1〜2%、生涯発生率は5〜14%と報告され、PSC診断後1〜3年以内に多い。
CA19-9の値は参考になるが、胆管炎や胆道狭窄による胆汁うっ滞だけでも上昇することがあるために参考にとどめること。
腹部超音波・CT・MRI/MRCPとCA19-9を組み合わせて定期的(国内ガイドラインでは6〜12か月ごと、AASLDでは年1回のMRI/MRCP±CA19-9)に評価し、新たな狭窄や進行する狭窄、dominant strictureなど変化がある場合はERCPで胆管擦過細胞診・生検などの精査を行う。
炎症性腸疾患(IBD)
国内では約40%に合併し(若年者では約60%と欧米並み)、特に潰瘍性大腸炎が多いが、典型的な潰瘍性大腸炎とは分布が異なる(右側結腸優位、直腸病変なし、backwash ileitisなど)ことがある。
腸病変は軽症・無症状のことが多いため、消化器症状がなくても大腸内視鏡検査を行う。PSCに合併した潰瘍性大腸炎では大腸腫瘍(dysplasia・癌)のリスクが潰瘍性大腸炎単独より高く、AASLDは1〜2年ごとのサーベイランス大腸内視鏡を推奨している。
胆囊ポリープ(隆起性病変)
原発性硬化性胆管炎に合併する胆囊ポリープや隆起性病変は通常よりも悪性の確率が高いため注意を要する。EASLは8mm以上のポリープや増大するポリープで胆囊摘出術を推奨し、AASLDは8mmを超えるポリープで胆囊摘出術を考慮する(8mm以下は6か月ごとの超音波で経過観察)としている。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の症状
初期には無症状のことが多い(全国調査では無症状のまま診断される例が約半数)。
- 黄疸:初発症状として最も多く、全体の19%に認められる。
- 発熱:胆管狭窄から細菌性胆管炎を併発。
- 腹痛:細菌性胆管炎や合併した炎症性腸疾患による。
- 瘙痒感:長期の胆汁うっ滞による。
- 体重減少:説明のつかない体重減少は胆管癌などの悪性腫瘍の合併を疑う契機となる。
- 全身倦怠感:病状の進行とともに出現する。
- 下痢、血便:炎症性腸疾患の合併による。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の検査
血液検査
- 胆道系酵素の上昇
- ALP(アルカリホスファターゼ):高率に上昇するため診断基準の一つ。重症度判定にも用いられる。ただし国内では診断時に基準値内の例も約17%ある。
- γ-GTP:胆道系酵素として上昇が見られる。小児(16歳未満)ではALPの代わりにγ-GTPで評価する。
- ビリルビン:診断時は約70%で正常。胆汁うっ滞が高度になると上昇する。
- AST・ALT:基準値上限の2〜3倍程度の上昇が多い。
- 自己抗体(PSCに特異的なものはなく、診断や予後予測には用いない)
- 抗ミトコンドリア抗体:原発性胆汁性胆管炎(PBC)との鑑別のために測定する。
- p-ANCA(核周辺型抗好中球細胞質抗体):欧米の報告では陽性率50〜80%だが、国内では2.4%と低い。
- 抗核抗体:欧米の報告で7〜77%、国内では37.3%。抗平滑筋抗体:13〜20%。
- IgG4:約10%で軽度高値。IgG4関連硬化性胆管炎(ステロイドが有効)の除外が必要。
- その他の血清マーカー
- IgG上昇(高γグロブリン血症) :欧米の報告では約60%で基準値上限の1.5倍程度まで上昇。
- IgM :欧米では約50%で上昇。国内では24%が200 mg/dLを超え、若年者で高値の傾向。
画像検査
低侵襲なMRCPを第一に行い、MRCPで評価が不十分な場合にERC(内視鏡的逆行性胆管造影)を行う。以下の所見を認める。
- 帯状狭窄(band-like stricture) :1〜2mm程度の短い輪状の狭窄が多発する。
- 数珠状所見(beaded appearance) :短い輪状狭窄と正常〜軽度拡張した胆管が交互に連なる像。
- 剪定状所見(pruned tree appearance) :肝内胆管が細くなり分枝が減少し、剪定された木のようになる。
- 憩室様突出(diverticulum-like outpouching) :狭窄の間に憩室様の突出を認める。
IgG4関連硬化性胆管炎では比較的長い狭窄(3mm超)や狭窄部上流の胆管拡張、下部胆管・肝門部の狭窄が多く、短い狭窄が多発するPSCとの鑑別点となる。
肝生検・病理組織像
典型的なPSCの画像所見を呈して診断が可能な場合は肝生検は不要だが、診断に悩む場合は生検する。胆管像が正常なsmall duct PSCやAIHとのオーバーラップの診断には肝生検が必要。
原発性硬化性胆管炎に特徴的な病理所見として、onion skin lesion(玉ねぎ皮様線維化) があり、胆管周囲に同心円状の線維化が見られる(PSCに特異的ではなく、陽性率も7〜50%と低い)。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断基準(PSC診断基準2024)
厚労省研究班は2016年の診断基準を改訂し、PSC診断基準2024を作成した。MRCを第一の画像検査とし、small duct PSC、小児例(16歳未満)、肝移植後再発も診断対象に加えている。
IgG4関連硬化性胆管炎、二次性硬化性胆管炎、悪性腫瘍、その他の肝疾患を除外することが必要である。
I. 画像所見
Ia. PSCに特徴的な胆管所見(以下のいずれか)
1) Multifocal band-like strictures
2) Beaded appearance
3) Pruned-tree appearance
4) Diverticulum-like outpouching
Ib. PSCを疑う胆管所見
Ic. 正常な胆管所見
II. 炎症性腸疾患の合併
III. 血液検査:ALP上昇(成人)、γ-GTP上昇(小児:16歳未満)
IV. 組織像:onion-skin lesion(線維性胆管炎)または線維性閉塞性胆管炎
Large duct PSC
確診:Ia+II/III/IV
準確診:Ia、Ib+II、Ib+III+IV
疑診:Ib+III/IV
Small duct PSC
確診:Ic+II+III+IV
準確診:Ic+II+IV
疑診:Ic+II/IV+III
(「+」はand、「/」はorを示す)
→確診・準確診をPSCとして取り扱う。
※指定難病の申請に用いる診断基準は、難病情報センターに掲載されているものを確認すること。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の重症度
PSCは厚生労働省の指定難病(指定難病94)となっており,重症度により患者は医療費助成を受けられる。
1)又は2)を対象とする。
1)有症状の患者(黄疸、皮膚掻痒、胆管炎、腹水、消化管出血、肝性脳症、胆管癌など)
2)ALPが施設基準値上限の2倍以上の患者
※治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
※なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする
(https://www.nanbyou.or.jp/entry/3968より一部改変して引用)
原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療
治療の基本方針
確立した治療はなく、症状管理、進行防止目的の治療を行い、合併症の出現に注意することが必要。
治療開始前に、ステロイドが有効なIgG4関連硬化性胆管炎との鑑別を行うことが重要。
薬物療法
ウルソデオキシコール酸(UDCA)
国内で最も多く使用されている薬剤(全国調査で76%)で、胆道系酵素を改善するが、ランダム化比較試験やメタ解析では死亡・肝移植の回避といった予後の改善は示されていない。国内のレジストリ研究では移植なし生存の改善との関連が報告されているが、長期的予後の改善に関しては結論がでていない。高用量(28〜30mg/kg/日)は推奨されない。
ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)
1回200mg(100mg錠2錠)×1日3回(600mg/日)
PSCは添付文書の効能・効果に病名として記載されておらず、「胆汁うっ滞を伴う肝疾患における利胆」の通常用量は1回50mg×1日3回(適宜増減)で、600mg/日はこれを上回る。EASLは15〜20mg/kg/日、AASLDは13〜23mg/kg/日を目安とする。AASLDは、12か月の投与でALPの低下や症状の改善がなければ継続を再検討するとしている。
ベザフィブラート
脂質異常症に使われるフィブラート系の薬剤。国内ではウルソデオキシコール酸で効果が不十分な場合に適応外で併用されることがあり、胆道系酵素の改善が報告されているが、こちらも予後改善の効果について結論が出ていない。
ベザフィブラート(ベザトール®SR)
1回200mg×1日2回 朝夕食後(400mg/日)
適応外使用(効能・効果は高脂血症のみ)。用量は添付文書の通常量および国内の前向き研究(200mg×1日2回)による。腎排泄のため血清クレアチニン値に応じて減量し(1.5超〜2.0mg/dL未満では200mg/日)、人工透析患者、重篤な腎疾患、血清クレアチニン2.0mg/dL以上、妊婦には禁忌。Child-Pugh Bの症例では効果が乏しかったとの報告がある。
内視鏡的治療
局所的な胆管狭窄(dominant stricture)に対して内視鏡的なバルーン拡張や短期間のステント留置、胆道ドレナージを行う。長期のステント留置は胆管炎などの合併症が多く、バルーン拡張単独に対する優位性は確認されていない。胆管癌との鑑別のため処置時に細胞診などを行い、PSCではERCP後胆管炎のリスクが高いため予防的抗菌薬を投与する。
肝移植
症状が進行して肝不全に至った場合には肝移植が唯一の根治的治療法(救命法)である。
肝予備能が保たれていても、反復する胆管炎やコントロール不能な瘙痒でQOLが著しく低下する場合は肝移植の適応となる。
国内ガイドラインでは、脳死肝移植はChild-Pughスコア10点以上の非代償性肝硬変が適応で(月1回以上の胆管炎反復例はMELD 16点相当として登録)、生体肝移植では食道静脈瘤破裂・難治性腹水などの非代償化の前兆や、反復する胆管炎・コントロール不能な瘙痒がある場合はChild-Pugh B相当でも適応となる。
生体肝移植が主に行われるが、移植後に再発するリスクが高く(生体肝移植では約3例に1例)、再移植が必要となるケースもある。
参考文献
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