原発性硬化性胆管炎(PSC)の概要
自己免疫性の機序や腸内細菌の関与が示唆されているが、原因は特定されていない。
肝内外の胆管に炎症が生じ、狭窄や閉塞を引き起こし、胆汁の流れが滞る慢性進行性の胆汁うっ滞疾患。
進行すると肝硬変・肝不全に進展し、胆管癌のリスクも増加する。
高率で炎症性腸疾患(特に潰瘍性大腸炎)を合併することも特徴の一つである。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の疫学と予後
疫学
- 国内患者数: 2018年の全国疫学調査によると、約2,300名。2007年調査の約2倍に増加。
- 有病率: 人口10万人あたり約1.80。
- 男女比: 男性にやや多く、1:0.9。
- 好発年齢: 二峰性を呈し、20~40歳と60~70歳にピークがある。
予後
若年発症や無症状で診断された場合、5年全生存率は91%と高目。
血清ALP値が診断から1~2年後に正常〜1.5倍未満の場合、予後が良いとされる。
厚労省研究班の全国調査では、移植なしの5年生存率は77%、5年全生存率は81%。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の合併症
胆管癌
約7〜10%に合併。
CA19-9の値は参考になるが、胆道狭窄による影響だけでも上昇することがあるために参考にとどめること。
造影CTやMRCPの撮影、CA19-9の定期的な測定を行い、変化がある場合はERCP等で精査する。
炎症性腸疾患(IBD)
約30〜40%に合併し、特に潰瘍性大腸炎が多いが、典型的な潰瘍性大腸炎とは分布が異なる(右側結腸優位、直腸病変なしなど)ことがある。
胆囊ポリープ(隆起性病変)
原発性硬化性胆管炎に合併する胆囊ポリープや隆起性病変は通常よりも悪性の確率が高いため注意を要する。であることが多いため、注意深いスクリーニングが必要。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の症状
初期には無症状のことが多い。
- 黄疸:初発症状として最も多く、全体の19%に認められる。
- 発熱:胆管狭窄から細菌性胆管炎を併発。
- 腹痛:細菌性胆管炎や合併した炎症性腸疾患による。
- 瘙痒感:長期の胆汁うっ滞による。
- 体重減少:PSCに合併する胆管癌、胆囊癌、潰瘍性大腸炎に合併する大腸癌による。
- 全身倦怠感:病状の進行とともに出現する。
- 下痢、血便:炎症性腸疾患の合併による。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の検査
血液検査
- 胆道系酵素の上昇
- ALP(アルカリホスファターゼ):高率に上昇するため診断基準の一つ。重症度判定にも用いられる。
- γ-GTP:胆道系酵素として上昇が見られる。
- ビリルビン:胆汁うっ滞が高度になると上昇する。
- AST・ALT:通常、胆道系酵素よりは軽度の上昇。
- 自己抗体
- 抗ミトコンドリア抗体:90%以上の症例で陰性。
- p-ANCA(核周辺型抗好中球細胞質抗体):陽性率30〜80%。
- 抗核抗体・抗平滑筋抗体:陽性率30%程度。
- IgG4:約10%で高値。IgG4関連硬化性胆管炎(ステロイドが有効)の除外が必要。
- その他の血清マーカー
- 高γグロブリン血症:約30%の症例でみられる。
- IgM:40〜50%の症例で上昇。
画像検査
MRCPやERC(内視鏡的胆管造影)で以下の所見を認める。
- 数珠状所見(beaded appearance):胆管の多発する狭窄と拡張の連続像。
- 剪定状所見(pruned tree appearance):胆管の狭窄が進行し、剪定された木のようになる。
- 帯状狭窄(band-like stricture):広範囲の胆管に帯状の狭窄をきたす。
肝生検・病理組織像
典型的なPSCの画像所見を呈して診断が可能な場合は肝生検は不要だが、診断に悩む場合は生検する。
原発性硬化性胆管炎に特徴的な病理所見として、onion skin lesion(玉ねぎ皮様線維化)があり、比較的大型の胆管周囲に輪状線維化が見られる(陽性率は低い)。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の診断基準(2016年厚労省診断基準)
IgG4 関連硬化性胆管炎、発症の原因が明らかな2次性の硬化性胆管炎、胆管癌などの悪性腫瘍を除外することが必要である。
A.診断項目
I.大項目
A. 胆管像
1) 原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認める。
2) 原発性硬化性胆管炎に特徴的な胆管像の所見を認めない。
B. アルカリフォスファターゼ値の上昇
II.小項目
a. 炎症性腸疾患の合併
b. 肝組織像(線維性胆管炎/onion skin lesion)
B.診断
A.1) +B 確診
A.2) +B+a+b 確診
A.1) +a 確診
A.2) +B+a 準確診
A.1) +b 確診
A.2) +B+b 準確診
A.1) 準確診
A.2) +a+b 準確診
A.2) +a 疑診
A.2) +b 疑診
→上記による確診・準確診のみを原発性硬化性胆管炎として取り扱う。
原発性硬化性胆管炎(PSC)の重症度
PSCは厚生労働省の指定難病となっており,重症度により患者は医療費助成を受けられる。
1)又は2)を対象とする。
1)有症状の患者(黄疸、皮膚掻痒、胆管炎、腹水、消化管出血、肝性脳症、胆管癌など)
2)ALPが施設基準値上限の2倍以上の患者
※治療開始後における重症度分類については、適切な医学的管理の下で治療が行われている状態であって、直近6か月間で最も悪い状態を医師が判断することとする。
※なお、症状の程度が上記の重症度分類等で一定以上に該当しない者であるが、高額な医療を継続することが必要なものについては、医療費助成の対象とする
(https://www.nanbyou.or.jp/entry/3968より一部改変して引用。要確認)
原発性硬化性胆管炎(PSC)の治療
治療の基本方針
確立した治療はなく、症状管理、進行防止目的の治療を行い、合併症の出現に注意することが必要。
治療開始前に、ステロイドが有効なIgG4関連硬化性胆管炎との鑑別を行うことが重要。
薬物療法
ウルソデオキシコール酸(UDCA)
第一選択薬として使用され、胆汁うっ滞の改善、肝細胞保護効果があるが、長期的予後の改善に関しては結論がでていない。
ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)100mg 6T3×
ベザフィブラート
脂質異常症に使われるフィブラート系の薬剤。ウルソデオキシコール酸で効果が不十分な場合に併用されるが、こちらも予後改善の効果について結論が出ていない。
ベザフィブラート(ベザトール®)SR 100mg 2T2×
内視鏡的治療
局所的な胆管狭窄に対して内視鏡的な胆道ドレナージやバルーン拡張、ステント留置を行う。
肝移植
症状が進行して肝不全に至った場合には肝移植が唯一の治療法である。
MELDスコアが15以上、またはChild-Pugh分類がB以上で肝移植を検討する。
MELDスコアが20以上またはChild-Pugh分類Cでは迅速に肝移植を計画すべきである。
生体肝移植が主に行われるが、移植後に再発するリスクが高く、再移植が必要となるケースもある。