Buerger病(TAO)
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目次
10秒サマリー
- 特徴: 若年(50歳未満)、喫煙者、男性に好発する末梢動脈の閉塞性疾患。
- 症状: 足趾・手指の冷感、しびれから始まり、間欠性跛行や難治性潰瘍・壊死へ進行する。
- 診断の鍵: 遊走性静脈炎の既往、上肢病変の合併、血管造影でのコルク抜き状側副血行路(corkscrew collateral)。
- 治療の根幹: 「完全禁煙」が絶対条件。禁煙なしに血行再建や薬物療法の成功は望めない。
- 予後: 生命予後は比較的良好だが、禁煙不可能な場合は肢切断に至るリスクが高い。
概要・疫学
Buerger病(バージャー病)は、上肢・下肢遠位部の動脈と静脈に分節的に炎症性の血栓閉塞を来す非動脈硬化性の慢性疾患であり、閉塞性血栓血管炎(TAO: Thromboangiitis obliterans)とも呼ばれる。
従来は日本・韓国・台湾・タイ・イスラエルなどに多いとされたが、これらの国々でも患者の減少が報告されている(インドなどではなお多い)。わが国での発症率は1970年代後半から急速に減少し、2010年代前半には人口10万人あたり0.1人程度と推定されている。
喫煙との関連が極めて強く、患者の大多数に受動喫煙を含めた喫煙歴が認められる。典型的には50歳未満(30〜40歳代前後)の男性に好発するが、女性の喫煙者増加に伴い女性の割合も増加傾向にある。動脈だけでなく、随伴する静脈も炎症に巻き込まれる点が、閉塞性動脈硬化症(ASO)との大きな違いである。
症状・身体所見
初期症状は足趾・手指の冷感、しびれ、色調変化(チアノーゼや発赤など)である。間欠性跛行は、膝窩動脈以下の病変では土踏まず付近に痛みを感じる足底筋跛行から始まり、浅大腿動脈まで進展するとふくらはぎの痛み(腓腹筋跛行)、さらに腸骨動脈が侵されると大腿・臀筋跛行へと変化する。
- 遊走性静脈炎: 皮膚表面に近い静脈が赤く腫れ、場所を替えて繰り返す炎症所見(疼痛と硬結を伴う線状発赤で、色素沈着として残ることもある)。国内の指定難病データ(3,220人)の解析では初診時に17%に認められた。頻度は高くないが、あれば診断の有力な助けになる。
- Allenテスト異常(末梢動脈疾患ガイドライン2022の表記では「アレンテスト陰性」): 手首の橈骨・尺骨動脈を圧迫解除した際の血流再開遅延。上肢末梢動脈の閉塞を示唆する。
- 栄養障害性変化: 足趾・手指の潰瘍、壊死(外傷を契機に増悪することが多い)。激しい安静時痛を伴うことが多い。
初期検査・鑑別診断
初期検査:
- ABI/TBI: 下肢病変の評価に用いるが、本症は血管病変が四肢末端から発症する傾向があるため、ABIでは異常所見が得られない場合がある。TBI(足趾上腕血圧比)や皮膚灌流圧(SPP)、指尖容積脈波などを併用し、疼痛や潰瘍で測定が難しければ経皮酸素分圧(tcPO2)を用いる。
- 血液検査: 本症に特有な項目はなく、通常CRPや赤沈は正常範囲である。自己抗体や補体は他の血管炎・膠原病との鑑別に、脂質・血糖は動脈硬化性疾患との鑑別に用いる。
鑑別診断:
- 閉塞性動脈硬化症(ASO):高齢、糖尿病、脂質異常症などのリスクファクターを有し、大血管に動脈硬化病変を認める。
- 全身性エリテマトーデス(SLE)や強皮症:血管画像だけでは鑑別が難しいことが多く、特異的な自己抗体や全身症状などから鑑別する。
- 塞栓症・胸郭出口症候群など:上肢の罹患は動脈硬化性病変との鑑別に役立つ一方で、他の血管炎、血栓塞栓症(心原性、近位の動脈瘤・粥腫由来)、胸郭出口症候群との鑑別が必要である。反復外傷や振動病、薬物(大麻など)の影響も除外する。
専門医へのコンサル基準
- 50歳未満の喫煙者で、下肢または上肢の末梢に虚血症状(潰瘍・安静時痛)を認める場合。
- 遊走性静脈炎の既往があり、肢末梢の冷感や痛みを訴える場合。
- ABIは正常範囲だが、足趾の潰瘍が治癒せず、Buerger病が疑われる場合。
- 禁煙指導を行っても症状が進行し、専門的な血管拡張療法や血行再建の検討が必要な場合。
診断基準
本症発症時、A.のうち1項目以上及びBのうち①を含む2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したものが確定診断となる。(2024年改訂の指定難病診断基準。難病情報センターより引用)
A.症状
診断に必要な症状
① 四肢の冷感、しびれ感、色調変化、チアノーゼ、レイノー現象
② 間欠性跛行
③ 指趾の安静時疼痛
④ 指趾の潰瘍、壊死
B.検査所見
血管画像診断所見a :四肢末梢の動脈b を含む四肢動脈に検出される閉塞性病変。以下の所見がみられる。
① 四肢末梢動脈病変に、動脈硬化性の壁不整がない(虫食い像、石灰化沈着など)
② 多発的分節的閉塞
③ 二次血栓の延長による慢性閉塞の像
④ 閉塞が途絶状・先細り状
⑤ コイル状、樹根状、ブリッジ状の側副血行路
a:デジタルサブトラクション(DSA)血管造影法、CT angiography、MR angiographyなど
b:下肢では膝関節より末梢、上肢では肘関節より末梢の動脈
C.鑑別診断
1.閉塞性動脈硬化症
2.外傷性動脈血栓症
3.膝窩動脈捕捉症候群
4.膝窩動脈外膜嚢腫
5.膠原病および類縁疾患
6.血管ベーチェット病
7.胸郭出口症候群
8.塞栓症(心原性など)
注釈:女性、喫煙歴が明らかでない患者、50歳以上の発症者、動脈硬化の危険因子(糖尿病、高血圧、脂質異常症など)を有する患者では、他疾患との鑑別をより厳密に行う。
治療法・具体的な処方例
1. 絶対禁煙(最重要)
受動喫煙も含めた完全禁煙が治療の前提である(末梢動脈疾患ガイドライン2022で推奨クラスI)。節煙では不十分で、完全な禁煙を目指す。禁煙により下肢切断率の低下が期待され、バイパス術やEVTの成績向上にもつながる。逆に喫煙を継続した場合のバイパス術の成績は不良である。禁煙補助薬はバレニクリンを優先的に使用するのが望ましく、ニコチン置換療法は疾患活動性を助長する可能性が指摘されている。患肢の保温・清潔保持、靴ずれや爪処置による創形成の予防(フットケア)も併せて指導する。
2. 薬物療法
血小板凝集抑制と血管拡張を目的とする。内服薬では抗血小板薬(シロスタゾール、クロピドグレル、サルポグレラート)が使用され、PGE1誘導体(リマプロスト)やPGI2誘導体(ベラプロスト)も考慮される。注射薬ではPGE1製剤(アルプロスタジル)が用いられるが、有効性は少数の患者に限られる。末梢動脈疾患ガイドライン2022では、抗血小板薬、PGE1製剤(アルプロスタジル)、PGE1誘導体(リマプロスト)、PGI2誘導体(同ガイドラインの表記はイロプロスト)による薬物療法が「考慮してもよい」(推奨クラスIIb)とされている。
リマプロスト アルファデクス(オパルモン®)
1日30μg 分3
経口PGE1誘導体。閉塞性血栓血管炎の用量(15μg/日は腰部脊柱管狭窄症の用量)。妊婦には禁忌
シロスタゾール(プレタール®)
100mg 2錠 分2 朝夕食後
抗血小板薬(PDE3阻害薬)。添付文書の効能は「慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍、疼痛及び冷感等の虚血性諸症状の改善」。うっ血性心不全には禁忌
サルポグレラート(アンプラーグ®)
100mg 3錠 分3 食後
セロトニン(5-HT2)受容体拮抗薬。添付文書の効能は「慢性動脈閉塞症に伴う潰瘍、疼痛および冷感等の虚血性諸症状の改善」
3. 外科的治療・先進治療
Buerger病は末梢側の血管(流出路)が乏しく、静脈病変のため良質な静脈グラフトが得られないことも多いため、ASOと比べて血行再建が困難な例が多い。ただし禁煙と薬物療法で厳格に管理すれば比較的良好な開存率が得られ、2000年以降のバイパス術では3年一次開存率60〜80%、救肢率90%と報告されている。
- 血管内治療(EVT): 重度の虚血肢でバイパス術が困難な場合に考慮してもよい(末梢動脈疾患ガイドライン2022で推奨クラスIIb)。反復治療を要することが多い。
- 交感神経遮断手術(腰部交感神経節切除・ブロックなど): 血行再建の適応がない、あるいは血行再建後も改善が不十分な重度の虚血肢で考慮してもよい(同IIb)。冷感・安静時疼痛・潰瘍の改善率は約52〜64%と報告されている。ただし足関節血圧60mmHg未満やABI 0.3未満では効果を期待しづらく(末梢動脈疾患ガイドライン2022)、筋血流量は増加しないため間欠性跛行には適応がない。
- 血管新生療法: 保険適用はないが(2026年ガイドライン:2025年12月現在)、肢切断以外の治療選択肢が残されていない患者に対し、骨髄単核球細胞や脂肪由来間葉系幹細胞などの自己細胞を虚血組織へ移植する血管新生療法が行われている。
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
「加熱式タバコならOK?」という誤解: 患者は「加熱式なら大丈夫だと思った」と弁明することが多いが、加熱式タバコは吸引後の血中ニコチン動態が紙巻きタバコに近く、ガイドラインでも新型タバコは従来のタバコと同様に禁煙指導の対象とされている。本症ではニコチンの代謝物であるコチニンが炎症を惹起し発症要因となりうることも実験的に示されている。Buerger病においては「加熱式も同様に禁忌」であることを強調して伝える必要がある。
「ASOとのオーバーラップ」: わが国の患者は高齢化しており(2013年には66.9%が60歳以上)、急性期に切断を回避できた患者が遠隔期に下肢閉塞性動脈硬化症を発症し、包括的高度慢性下肢虚血(CLTI)を来す例も報告されている。若年発症の既往があるか、上肢病変があるかといった丁寧な問診が、単なるASOと片付けないための鍵となる。
予後・患者説明のポイント
「この病気は薬だけで治すものではなく、あなたの禁煙が治療の9割を占めます。タバコを1本吸うごとに、指先の血管が死んでいくと考えてください」と、厳しい現実を共有する必要がある。経過中に大切断または指趾の小切断を要する患者は20〜30%程度とされるが、60歳を超えれば再燃による肢切断はまれである。一方で、通常は生命予後への直接的な影響はなく、一般人と明らかな差はないとされることを伝え、モチベーションを維持させる(ただし長期的には喫煙に関連する動脈硬化性疾患、悪性腫瘍、COPDなどの合併に注意する)。足の保護(フットケア)や防寒についても徹底指導を行う。
参考文献
- 日本循環器学会ほか. 2026年改訂版 大型血管炎診療ガイドライン(第5章 バージャー病 p.70-77). https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2026/03/JCS2026_Nakaoka.pdf
- 日本循環器学会/日本血管外科学会. 2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(第12章 バージャー病 p.102-105). https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Azuma.pdf
- 日本循環器学会ほか. 2023年改訂版 冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン(新型タバコ)
- 難病情報センター:バージャー病(指定難病47). https://www.nanbyou.or.jp/entry/315
- オパルモン錠5μg 添付文書(小野薬品工業). https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00050691
- プレタールOD錠 添付文書(大塚製薬). https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00058469
- アンプラーグ錠 添付文書(田辺ファーマ). https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00045622
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