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肺高血圧症(PH)|症状・診断・治療

10秒サマリー

**肺高血圧症(PH)**は、安静時の平均肺動脈圧(mPAP)が20mmHgを超える病態と定義される。原因により5つの群に分類されるが、特に第1群(肺動脈性肺高血圧症:PAH)や第4群(慢性血栓塞栓性肺高血圧症:CTEPH)は進行性で予後不良なため、早期診断と専門施設での加療が極めて重要である。診断には右心カテーテル検査が必須であり、肺血管抵抗(PVR)2.0 WU超などの詳細な血行動態評価が行われる。治療は、肺血管拡張薬の多剤併用療法や、CTEPHに対する外科的治療・バルーン肺動脈形成術(BPA)など、病態に合わせた高度な戦略が求められる。

概要・疫学

肺高血圧症は単一の疾患ではなく、さまざまな基礎疾患に伴い肺動脈圧が上昇する臨床症候群である。最新の定義では、右心カテーテル検査による平均肺動脈圧(mPAP) > 20mmHgとされている。臨床分類は以下の5群に大別される。

  • **第1群(PAH):**特発性、遺伝性、膠原病、先天性心疾患、門脈圧亢進症などに関連するもの。
  • **第2群:**左心系心疾患(MRAR心不全など)に伴うもの。
  • **第3群:**肺疾患(COPD、間質性肺炎など)や低酸素血症に伴うもの。
  • **第4群(CTEPH):**慢性血栓塞栓性肺高血圧症、およびその他の肺動脈閉塞性疾患。
  • **第5群:**原因不明、または多因子のメカニズムによるもの。

症状・身体所見

初期は無症状、または非特異的な症状にとどまることが多い。

  • **症状:**労作時息切れ、易疲労感、動悸、胸痛失神(心拍出量低下を示唆する危険なサイン)。進行すると右心不全による浮腫や腹水が出現する。
  • 身体所見:
    • 聴診:肺動脈弁領域でのII音肺動脈成分(IIp)の亢進、III音、IV音、三尖弁閉鎖不全症に伴う収縮期雑音。
    • 視診・触診:頸静脈怒張、下腿浮腫。

初期検査・鑑別診断

PHを疑った場合、まずはスクリーニングを行い、群分類を進める。

  • **心エコー:**スクリーニングの第一選択。三尖弁逆流収縮期圧格差(TRPG)から右室収縮期圧を推定し、PHの可能性(Probability)を評価する。
  • **胸部X線:**肺動脈主幹部の突出、末梢肺野の血管影透過性亢進。
  • **心電図:**右軸偏位、右室肥大(V1のR波増高)、肺性P波。
  • **肺血流シンチグラフィ:**第4群(CTEPH)の除外に必須である。区域性の欠損があればCTEPHを強く疑う。
  • **呼吸機能検査・胸部CT:**第3群(肺疾患)の評価に用いる。

専門医へのコンサル基準

  • 心エコーでPHの可能性が「High」または「Intermediate」と判定された場合。
  • 原因不明の労作時息切れがあり、BNP上昇や心電図で右室負荷所見を認める場合。
  • 肺血流シンチグラフィで欠損像を認め、CTEPHが疑われる場合。
  • 膠原病(全身性強皮症など)を合併しており、定期スクリーニングでPHの疑いが生じた場合。

診断基準・精査の詳細

確定診断には**右心カテーテル検査(RHC)**が不可欠である。

  • **PHの血行動態定義:**mPAP > 20mmHg
  • **PAH(第1群)の定義:**mPAP > 20mmHg かつ 肺動脈楔入圧(PAWP) ≦ 15mmHg かつ 肺血管抵抗(PVR) > 2.0 WU
  • **血管反応性試験:**RHC中に一酸化窒素(NO)等を吸入し、肺動脈圧が著明に低下するかを確認する。陽性例(ごく一部)ではCa拮抗薬が著効する。

治療法・具体的な処方例

1. 第1群(PAH)の治療

リスク層別化(リスクスコア)に基づき、早期から肺血管拡張薬の**多剤併用療法(Upfront Combination Therapy)**を行うことが推奨される。

  • エンドセリン受容体拮抗薬(ERA):
    • オプスミット(10mg)1錠 分1
    • トラクリア(62.5mg)2錠 分2(肝機能に注意)
  • PDE5阻害薬 / 可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬:
    • アドシルカ(20mg)2錠 分1(PDE5阻害薬)
    • アデムパス(0.5mg〜)1日3回から開始し漸増(sGC刺激薬)
  • **プロスタサイクリン誘導体:**経口薬(ウプトラビなど)、吸入薬、持続静注薬(フローラン、トレプロスト)。重症例では持続静注が必須となる。

2. 第4群(CTEPH)の治療

CTEPHは、肺動脈内の器質化血栓により慢性的な閉塞が生じる病態である。治療の第一選択は侵襲的治療による血管腔の再疎通であり、専門施設での評価が不可欠である。

  • **抗凝固療法(必須):**血栓の再発および二次的な血栓形成を防止するため、生涯にわたる継続が原則である。ワルファリンまたはDOACを使用する。
  • **外科的治療(肺動脈血栓内膜摘除術:PEA):**中枢側の病変(主肺動脈〜区域動脈)に対し、器質化血栓を内膜とともに剥離・除去する根治的手術である。
  • **カテーテル治療(バルーン肺動脈形成術:BPA):**手術不能例、または術後残存・再発例が適応となる。細径のバルーンを用いて末梢側の器質化塞栓部位を拡張する。近年、手技の習熟により安全かつ劇的な血行動態の改善が得られるようになり、PEAが困難な末梢型病変に対する標準的治療として確立している。
  • **内科的薬物療法(肺血管拡張薬):**手術不能または術後残存例に対し、肺血管抵抗を下げ症状を改善する目的で使用する。
    • **アデムパス(リオシグアト):**sGC刺激薬であり、CTEPHに対して唯一適応を持つ肺血管拡張薬である。
      • 処方例:アデムパス(0.5mgまたは1.0mg)1日3回から開始。血圧を確認しながら2週間間隔で段階的に増量し、最大2.5mg 1日3回まで。

resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)

  • **第2群・第3群への安易な投与禁止:**左心疾患(第2群)や肺疾患(第3群)に伴うPHに対し、安易にPAH用薬(肺血管拡張薬)を使用すると、肺うっ血の増悪や換気血流不均等の悪化を招く恐れがある。まずは基礎疾患の加療が優先。
  • **妊娠の回避:**PH患者の妊娠・出産は母体死亡率が極めて高いため、原則として避けるよう十分な説明と避妊指導が必要である。
  • **BPAの進歩:**かつては手術不能とされたCTEPHも、BPAにより劇的に改善する例が増えている。血流シンチで欠損があれば、早急に専門施設へ紹介すべきである。

予後・患者説明のポイント

  • **早期治療の重要性:**かつては予後不良であったが、多剤併用療法の普及により生存率は飛躍的に向上している。
  • **日常生活:**重い荷物を持つなどの強い労作は避ける。感染症(感冒など)を契機に右心不全が増悪しやすいため、ワクチン接種や早期受診を勧める。

参考文献

  • 循環器学会 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン2025年改訂版

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