10秒サマリー
- 特徴:若年(50歳未満)、喫煙者、男性に好発する末梢動脈の閉塞性疾患。
- 症状:足趾・手指の冷感、しびれから始まり、間欠性跛行や難治性潰瘍・壊死へ進行する。
- 診断の鍵:遊走性静脈炎の既往、上肢病変の合併、血管造影でのコルク抜き状側副血行路(corkscrew collateral)。
- 治療の根幹:「完全禁煙」が絶対条件。禁煙なしに血行再建や薬物療法の成功は望めない。
- 予後:生命予後は比較的良好だが、禁煙不可能な場合は肢切断に至るリスクが高い。
概要・疫学
Burger病(バージャー病)は、四肢の細動脈・中等大動脈を侵す非動脈硬化性の炎症性疾患で、末梢動脈に分節性の血栓性閉塞を来す血管炎であり、閉塞性血栓性血管炎(TAO: Thromboangiitis obliterans)とも呼ばれる。
かつては日本を含む東アジアに多いとされたが、近年は減少傾向にある。
喫煙との関連が極めて強く、発症年齢は50歳未満(多くは20〜40代)で、圧倒的に男性に多いが、女性の喫煙者増加に伴い女性例も報告されている。動脈だけでなく、随伴する静脈や神経も炎症に巻き込まれる点が、閉塞性動脈硬化症(ASO)との大きな違いである。
症状・身体所見
初期症状は足趾・手指の冷感、しびれ、蒼白化である。進行すると、土踏まず付近に痛みを感じる足底部跛行や、ふくらはぎの痛み(間欠性跛行)が出現する。
- 遊走性静脈炎:皮膚表面に近い静脈が赤く腫れ、場所を替えて繰り返す炎症所見。本症の約40%以上に認められる重要な徴候である。
- Allenテスト陽性:手首の橈骨・尺骨動脈を圧迫解除した際の血流再開遅延。上肢末梢動脈の閉塞を示唆する。
- 栄養障害性変化:足趾・手指の潰瘍、壊死。激しい安静時痛を伴うことが多い。
初期検査・鑑別診断
初期検査:
- ABI/TBI:下肢病変の評価に用いるが、本症は足首より末梢の動脈が主座であるため、ABIが正常でもTBI(足趾血圧)が低下している場合がある。
- 血液検査:炎症反応(CRP)は軽度上昇に留まることが多い。自己抗体(ANA、RF等)は通常陰性であり、他の血管炎や膠原病との鑑別に用いる。
鑑別診断:
- 閉塞性動脈硬化症(ASO):高齢、糖尿病、脂質異常症などのリスクファクターを有し、大血管に動脈硬化病変を認める。
- 全身性エリテマトーデス(SLE)や強皮症:特異的な自己抗体や全身症状、Raynaud現象の性状から鑑別する。
専門医へのコンサル基準
- 50歳未満の喫煙者で、下肢または上肢の末梢に虚血症状(潰瘍・安静時痛)を認める場合。
- 遊走性静脈炎の既往があり、肢末梢の冷感や痛みを訴える場合。
- ABIは正常範囲だが、足趾の潰瘍が治癒せず、Burger病が疑われる場合。
- 禁煙指導を行っても症状が進行し、専門的な血管拡張療法や血行再建の検討が必要な場合。
診断基準
本症発症時、A.のうち1項目以上及びBのうち①を含む2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したものが確定診断となる。(難病情報センターより引用)
A.症状
診断に必要な症状
① 四肢の冷感、しびれ感、色調変化、チアノーゼ、レイノー現象
② 間欠性跛行
③ 指趾の安静時疼痛
④ 指趾の潰瘍、壊死
B.検査所見
血管画像診断所見a :四肢末梢の動脈b を含む四肢動脈に検出される閉塞性病変。以下の所見がみられる。
① 四肢末梢動脈病変に、動脈硬化性の壁不整がない(虫食い像、石灰化沈着など)
② 多発的分節的閉塞
③ 二次血栓の延長による慢性閉塞の像
④ 閉塞が途絶状・先細り状
⑤ コイル状、樹根状、ブリッジ状の側副血行路
a:デジタルサブトラクション(DSA)血管造影法、CT angiography、MR angiographyなど
b:下肢では膝関節より末梢、上肢では肘関節より末梢の動脈
C.鑑別診断
1.閉塞性動脈硬化症
2.外傷性動脈血栓症
3.膝窩動脈捕捉症候群
4.膝窩動脈外膜嚢腫
5.膠原病および類縁疾患
6.血管ベーチェット病
7.胸郭出口症候群
8.塞栓症(心原性など)
治療法・具体的な処方例
1. 絶対禁煙(最重要)
受動喫煙も含めた完全禁煙が治療の前提である。禁煙が守られない場合、いかなる加療も効果が限定的であり、切断転帰を免れない。
2. 薬物療法
血小板凝集抑制と血管拡張を目的とする。
- プロスタグランジンE1(PGE1)製剤:安静時痛や潰瘍がある急性期に使用。リマプロスト アルファデクス(オパルモン®)15μg〜30μg 分3 食後
- 抗血小板薬:シロスタゾール(プレタール®)100mg 2錠 分2 朝夕食後
(※血管拡張作用も併せ持つため第一選択になりやすい)
- サルポグレラート(アンプラーグ®):セロトニン受容体拮抗薬。100mg 3錠 分3 食後
3. 外科的治療・先進治療
Burger病は末梢側の血管(流出路)が乏しいため、通常のバイパス術の適応となる例は少ない。
- 血管内治療(EVT):近年、下腿以下の細い血管に対しても試みられるようになっている。
- 腰部交感神経節ブロック・切除:血管拡張を図り、安静時痛の緩和や潰瘍治癒を促進させる。
- 血管再生療法:自己骨髄単核球細胞移植などが、既存の治療に抵抗性の重症例に対して検討されることがある。
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
「加熱式タバコならOK?」という誤解:患者は「加熱式なら大丈夫だと思った」と弁明することが多いが、ニコチンが含まれる限り血管収縮と炎症は持続する。Burger病においては「加熱式も同様に禁忌」であることを強調して伝える必要がある。
「ASOとのオーバーラップ」:近年、高齢のBurger病患者が生活習慣病を合併し、ASOの病態を呈するケースが増えている。若年発症の既往があるか、上肢病変があるかといった丁寧な問診が、単なるASOと片付けないための鍵となる。
予後・患者説明のポイント
「この病気は薬だけで治すものではなく、あなたの禁煙が治療の9割を占めます。タバコを1本吸うごとに、指先の血管が死んでいくと考えてください」と、厳しい現実を共有する必要がある。一方で、禁煙さえ達成できれば、冠動脈疾患などの合併症がASOより少ないため、生命予後は良好であることを伝え、モチベーションを維持させる。足の保護(フットケア)や防寒についても徹底指導を行う。
参考文献
- 血管炎症候群の診療ガイドライン(2017年改訂版)
- 末梢動脈疾患ガイドライン(2022年改訂版)
- 難病情報センター:バージャー病(指定難病47)
