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肝・胆・膵

原発性胆汁性胆管炎(PBC)診断と治療

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の概要

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis:PBC)は、慢性に進行する胆汁うっ滞性肝疾患である。

自己免疫反応が関与しており、肝内の小型胆管に炎症が生じることで胆汁の流れが滞り、進行すると肝線維化や肝硬変に至ることがある。

従来「原発性胆汁性肝硬変」と呼ばれていたが、肝硬変に至らない段階で診断される例が増加したため、2016年に「原発性胆汁性胆管炎」へと名称が変更された。

主に中年以降の女性に多く見られるが、近年では男性患者も増加している。

PBCは、症候性と無症候性に分類され、症候性では皮膚瘙痒感や黄疸が初期症状として見られることが多い。

進行例では食道静脈瘤や肝性脳症などの症状が現れる。

病態の特徴として、抗ミトコンドリア抗体(AMA)が90%以上の症例で検出されることが挙げられる。

胆汁うっ滞による胆管や肝細胞の障害が進行し、適切な治療が行われない場合には肝硬変や肝不全に至る可能性があり、早期診断と治療が重要である。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の疫学

患者数

  • 国内の患者総数は約37,000人。
  • 無症候性PBCを含めると日本全体で5〜6万人と推定される。

発症年齢・性差

  • 主に中高年女性に好発する。
  • 診断時年齢のピークは50〜60歳代。
  • 女性が多く、男女比は1:4〜1:7。しかし近年、男性患者の増加が報告されている。

遺伝的背景

  • HLA-DR8などの遺伝要因が発症リスクに関与しており、家族内発症も認められる。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の身体所見・症状

多くは症状のない無症候性PBCだが、下記のような症状を有する症候性のPBCに進行することがある。

  • 皮膚瘙痒感:
    初発症状として最も多く見られる。患者は自覚することが多く、進行例では搔き疵が観察される場合がある。
  • 疲労感・全身倦怠感:
    患者からの訴えは比較的少ないが、症状が強い場合もある。
  • 黄疸:
    肝不全の徴候であり、出現すると多くの場合進行性である。
  • 皮膚黄色腫・骨粗鬆症:
    胆汁うっ滞の進行により、脂質異常症やビタミンDの吸収低下が原因で出現することがある。
  • 門脈圧亢進症状:
    食道や胃の静脈瘤、脾腫が高頻度で出現する。肝硬変に進展していない段階でもこれらの症状が認められることがある。
  • 乾燥症状・関節痛:
    他の自己免疫性疾患に伴う症状として見られることが多い。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の検査・診断

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の診断は、臨床像、血液検査、画像検査、病理所見を総合的に評価して行う。以下に詳細を記載する。

血液検査

胆道系酵素

  • ALP(アルカリホスファターゼ)およびγ-GTP(γ-グルタミルトランスフェラーゼ)が初期から著しく上昇する。これらは胆汁うっ滞を反映した指標であり、PBCに特徴的である。
  • トランスアミナーゼ(ALT、AST)は軽度から中等度の上昇にとどまることが多い。

免疫学的検査

  • 抗ミトコンドリア抗体(AMA)は90%以上の患者で陽性を示し、特異性が非常に高い。特にM2抗体が診断において重要である。
  • 抗核抗体(ANA)も30〜50%で陽性を示す場合があり、特にDiscrete-Speckled型(抗セントロメア抗体)や核膜型(抗gp-210抗体)が高頻度で検出される。

免疫グロブリン

  • 血清IgMが上昇することが多く、PBCの特徴的な所見である。
  • その他の血液検査:
  • ビリルビン値は進行例で上昇するが、初期では基準範囲内であることが多い。
  • 血清コレステロール値が上昇する場合もある。

画像検査

  • 腹部超音波検査、CT、MRIでは、著明な胆道系酵素の上昇に反して肝臓はほぼ正常に見えることが多い。
  • 胆管拡張など閉塞性黄疸を示唆する所見がないことがPBCの特徴である。

病理所見

肝生検

  • 肝組織では、慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)が特徴的である。この所見は小葉間胆管または隔壁胆管における炎症を伴う破壊や消失を示す。
  • 障害された胆管周囲には、リンパ球や形質細胞を主体とする炎症細胞の浸潤がみられる。

病期分類

  • Nakanuma分類に基づき、活動度(炎症の程度)と病期(線維化の進行度)を評価する。
  • 初期では胆管障害が中心であるが、進行例では肝線維化、肝硬変の所見が現れる。

診断基準

以下の3項目のうち2項目以上が揃えば、PBCと診断される。

  1. 胆道系酵素(ALP、γ-GTP)が慢性的に上昇していること。
  2. 抗ミトコンドリア抗体(AMA)が陽性であること。
  3. CNSDCを含む特徴的な肝組織像を認めること。

PBCの診断には肝生検が必須ではないが、病期評価や他疾患との鑑別には有用である。早期診断により、適切な治療と経過管理が重要である。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の合併症

原発性胆汁性胆管炎(PBC)では、胆汁うっ滞や免疫異常に起因する様々な合併症が認められる。以下に主なものを挙げる。

1. 骨粗鬆症

脂溶性ビタミンDの吸収障害が原因で発症する。

続発性骨粗鬆症が多くみられるため、骨密度測定が診断に重要である。

骨軟化症が生じることもある。

2. 脂質異常症

胆汁うっ滞により高コレステロール血症を呈しやすい。

脂質異常症は進行した症例で高頻度に認められる。

3. 自己免疫性疾患の合併

PBCは他の自己免疫性疾患をしばしば合併する。特に以下が多く見られる。

  • シェーグレン症候群(SS-A抗体、SS-B抗体の陽性率が高く、唾液分泌低下や涙量低下が特徴)
  • 慢性甲状腺炎(橋本病)
  • 関節リウマチ

4. 肝硬変に伴う合併症

肝硬変へ進展すると以下の合併症が生じることがある。

  • 門脈圧亢進症(腹水、浮腫、静脈瘤など)
  • 肝性脳症
  • 肝細胞癌

5. AIH-PBCオーバーラップ症候群

自己免疫性肝炎(AIH)とPBCの両者を合併する稀な病態である。

ASTやALTの著明な上昇が見られる場合にはAIHの合併を考慮する。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療法

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療は、病期や病態に応じた対症療法が中心となる。

根治的な治療法はないが、進行を抑制し症状を改善するための薬物治療や、重症例では肝移植が考慮される。

薬物療法

ウルソデオキシコール酸(UDCA)

第一選択薬であり、PBCと診断され胆道系酵素(ALP、γ-GTP)が上昇しているすべての症例が適応となる。

UDCAは胆汁の流れを改善し、胆道系酵素の低下、肝組織の改善、死亡や肝移植までの期間を延長する効果がある。

通常は1日600mgから開始し、効果不十分な場合は900mgまで増量する。

例)ウルソデオキシコール酸(ウルソ®)100mg 6T3×毎食後

ベザフィブラート(BZF)

UDCAで十分な治療効果が得られない症例には、脂質異常症治療薬であるベザフィブラートの併用が推奨される。

日本ではPBCに対する保険適用はないが、ALPの低下や生命予後の改善が報告されている。

ベザフィブラートSR(ベザトール®) 200mg 2T2×朝夕食後
 ※血清Cre2.0mg/mL以上の患者は禁忌。それ以下でも腎障害のある患者には減量すること。
 ※妊婦または妊娠している可能性のある女性への投与も禁忌。

掻痒感の治療

コレスチラミン、ナルフラフィンなどが用いられる。

掻痒感はPBC特有の症状であり、QOLを大きく損なうため早期の対応が重要である。

コレスチラミン(クエストラン®)1回4gを水約100mLに懸濁し、1日2〜3回服用
 ※適応:高コレステロール血症

ナルフラフィン(レミッチ®) 2.5μg 1Cp1×夕食後または就寝前(最大1日1回5μg)
 ※適応:慢性肝疾患患者、透析患者

自己免疫性肝炎(AIH)とのオーバーラップ症候群

肝炎所見が優位な場合、短期間の副腎皮質ステロイド(プレドニゾロン)が使用される。

肝炎が安定したらステロイドを中止し、UDCA単独治療に移行する。

合併症への対応

骨粗鬆症

脂溶性ビタミンDの吸収障害が原因となるため、骨密度測定を行い適切な治療を実施する。

脂質異常症

胆汁うっ滞による高コレステロール血症は動脈硬化のリスクとなるため、必要に応じて治療を行う。

門脈圧亢進症

食道・胃静脈瘤のスクリーニングを上部消化管内視鏡で行い、必要に応じて治療する。腹水や肝性脳症が認められた場合も対症療法を行う。

肝移植

肝硬変や肝不全に進行した場合、肝移植が唯一の治療選択肢となる。

総ビリルビン値が6mg/dL以上で予後不良とされるため、5mg/dL以上が持続する症例では移植準備を進める。

移植後の5年生存率は約80%と良好な成績が報告されている。

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の予後

原発性胆汁性胆管炎(PBC)の予後は、病態や治療反応に大きく依存する。

無症候性PBCでは、症状がない限り予後は一般集団とほぼ変わらず、日常生活に制限はない。

症候性に移行する場合や治療反応が不十分な場合には進行が見られる。

UDCA治療に反応しない例や診断時にすでに黄疸や非代償性肝硬変症状(腹水、静脈瘤、肝性脳症など)がある場合、予後は悪化する。このような症例では肝移植が唯一の治療手段となる。

肝移植を受けた場合、5年生存率は約80%とされており、移植後の経過は比較的良好である。

血清総ビリルビン値による予後の指標

血清総ビリルビン(T-Bil)の値が上昇すると予後は悪化し、以下のような目安が報告されている。

  • T-Bil 2.0mg/dL: 約10年の余命。
  • T-Bil 3.0mg/dL: 約5年の余命。
  • T-Bil 6.0mg/dL以上: 約2年以下の余命。肝移植の検討が必要。

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