当院のESDやERCPの鎮静
ESDやERCPのとき、みなさんの病院ではどんな鎮静をしていますか?
検査とちがってそれなりに時間がかかるので、ESDや ERCPは多かれ少なかれ鎮静してると思いますが、施設によってやり方はさまざまだと思います。
どれが正解、というのもないとは思いますが、鎮静の大目標は以下の通りだと思います。
- 手技が安定して行える
- 安全に行える
この二つを同時に満たすには、ちょうどいい鎮静にする必要があり、意外と難しかったりします。
特に高齢者だと許容範囲が狭いので、少しでも薬が多いと一気に過鎮静になります。
今回は当院でいま行っている鎮静について説明したいと思います。
これが正解、というわけではないですが、参考にしていただければと思います。
なお、当院では麻酔科の医師がプロトコールを作ってくれているので、それに準じて鎮静しています。
鎮痛が重要ーペンタゾシン
鎮静について、さっそくですが鎮痛について語りたいと思います。
それは、鎮静以上に鎮痛が手技施行のうえでは重要になってくるからです。
鎮静の深さは、鎮痛×鎮静です。
鎮痛なしでは鎮静剤の必要量が多くなり、呼吸抑制や血圧低下といった副作用が出やすくなります。
上部消化管のESDやERCPでは咽頭刺激も強いし、 ESDのときは筋層近くを切ると痛みがでることもあるし、ERCPでは ESTやバルーン拡張・採石などで痛みが生じやすいです。
鎮痛をかけておくことで、これらの刺激への反応が弱まり、安定して手技を行うことができます。
一般的に鎮痛剤は鎮静剤よりも副作用が出にくいので、まずは鎮痛剤を投与し、状態に応じて鎮静剤を調整する、というのが安全だと思います。
当院では使い慣れたペンタゾシンを使用しています。
効果が出るのに10分ほどかかるので、先に7.5~15mg静脈注射することが多いです。
鎮静ーミダゾラム・プロポフォール・ヒドロキシジン
そして肝心の鎮静剤は、内視鏡検査のときに鎮静希望の場合はミダゾラムを使用しています。
大体2~2.5mg程度静注して、1~2分ほどして効果が乏しければ0.5~1mg追加を繰り返します(最大5mg)。
ESDやERCPの時は、確実な鎮静と、すぐに効果がきれるプロポフォール(ディプリバン®︎)を使用しています。
プロポフォールの設定は、TCIポンプを使用し、目標血中濃度を1.5~2.0mg/mLに設定します。
体動がある場合などは濃度設定を0.5upします。
逆に、効き過ぎているとおもった場合は速やかに目標濃度を下げたり、投与中止にします。
プロポフォールは効果がいいですが、その分呼吸抑制や血圧低下が出やすいので注意が必要です。
当院では施行医以外にもう1人医師がつくようにしています。
実際に呼吸抑制や血圧が低下した場合の対応はのちほど解説します。
状態が悪い時の鎮静
高齢者や、特に閉塞性可能性胆管炎などで状態が悪い場合などではミダゾラムやプロポフォールを入れると、交感神経の緊張がとれて一気に血圧が下がることがあるので注意が必要です。
こう言った場合は,ソセゴン7.5mg静注+7.5mg筋注してみて、ぼーっとするようならこれで開始します。
意識が全然落ちない場合はヒドロキシジン(アタラックスP)25mgを0.5~1A静脈注射します。
これくらいで鎮静できるのか?と思われるかもしれませんが、超急性期の場合は逆にこれでいけます。
痛みが強い場合は鎮静剤を増やすよりも、ソセゴンではなくフェンタニルなどを使用した方がいいこともあります。
それでも手技が安全に行えないほど鎮静不十分な場合はミダゾラムを1~2mgほど様子を見ながら静注します。
※この場合、プロポフォールでは血圧低下のリスクがあるのでミダゾラムの方がいいです。
過鎮静になる可能性もあるので、ベンゾジアゼピン系であるミダゾラムの拮抗薬のフルマゼニルをいつでも使えるように準備しておきましょう。
フルマゼニルは速効性がありますが、半減期も非常に短く、すぐまた過鎮静に戻ります。当院では0.5.A静注して改善があれば、点滴に混注して持続投与しています。
それでも過鎮静に戻る可能性があるのでバッグバルブマスクなどがいつでも使えるようにして注意深く観察します。
事前の問診
事前の問診についていくつかのポイントだけあげておきます。
まず、薬剤や食(特に大豆:プロポフォール)べ物のアレルギーがないかは最低限必要です。
心不全やCOPDなどの基礎疾患があるとバイタルが崩れやすいので基礎疾患の確認も重要です。
肥満、いびきをかきやすい、あごが小さいなどがある場合は気道閉塞になりやすいため、経鼻エアウェイを用意しておきます。患者さんにも鼻に入れるかも、と事前に伝えています。
また、今は当然になっていると思いますが、手技の同意書だけではなく、麻酔(鎮静)の同意書も取るようにしておきましょう。
施行中の患者観察ー各種バイタル、ETCO2モニターなど
上記のように準備をしっかりして開始しても、状態が悪化する可能性があります。
過鎮静などによる状態悪化は、薬剤の減量や早めのエアウェイ挿入など、早期に対応できれば合併症のリスクを大きく減らせます。
早期発見のためには、血圧、脈拍、SpO2などのバイタルサインを細かく計測することが重要です。
いびきなど、気道閉塞の兆候はないか、も気をつけます。
当院では長時間の内視鏡処置ではETCO2モニター(呼気終末CO2モニター)も装着し、波形が変化しないか常にチェックして気道閉塞や呼吸抑制がきていないかを客観的にも評価しています。
また、処置室は結構寒いので、体温が低下していないか体温の測定も定期的におこないます。
医師だけでは変化の兆候に気づかない可能性もあるので、スタッフ教育も重要になってきます。
過鎮静など、事故が起きた時のためにも経過をしっかりと記載・記録するようにしましょう。
呼吸悪化(気道閉塞)時は経鼻エアウェイをためらわずに入れる
体位の調整や鎮静剤の減量・中止はもちろんおこないましょう。
そして、これまでにも記載してきましたが、気道閉塞が起きた時には経鼻エアウェイを挿入しましょう。
経口エアウェイでは効果が弱いので、経鼻を躊躇わずにいれます。
気道閉塞が続くと、窒息です。早めに閉塞は解除する必要があります。
具体的にはETCO2モニターの波形や数値が変化したり、いびきをかきはじめたときはすでに要注意です。
体位や鎮静剤の調整ですぐに改善できない場合はすぐにエアウェイを入れましょう。
これで大体はいけますが、もし改善しなかったときのためにバッグバルブマスクは常に用意しておきましょう。。
処置の中止もためらってはいけません。
血圧低下時は昇圧剤(エチレフリン・フェニレフリン)を適宜使用
鎮静剤、とくにプロポフォールを使用すると血圧が低下しやすいので、注意を要します。
血圧がさがりやすいひとはミダゾラムやほかの鎮静剤を検討します。
鎮静剤の影響だけではなく、内視鏡を挿入すると内臓反射で血圧が下がる場合があるので、これにも注意が必要です。
実際に血圧低下が起きた際には昇圧剤を使用します。
過鎮静であれば鎮静剤の減量や中止も行います。
血管内volumeが不足している可能性もあるので細胞外液の投与速度を速めます。
中心静脈ルートがないことがほとんどと思いますが、エチレフリン(エホチール®︎)とフェニレフリン(ネオシネジン®︎)は末梢点滴から投与できます。
当科では、生食18mL+エホチール1mL+ネオシネジン1mLで合計20mLにして、収縮期血圧が100mmHgを切ったら1mL静注、80mmHgを切ったら2mL静注、といった感じで使用しています。
静注の効果は10~15分程度なので、必要に応じて追加します。
過鎮静になるくらいなら鎮静弱めー安全第一
いかがだったでしょうか?
意外と処置の際の鎮静も奥が深いですよね。
鎮静が深いほうが施行医は楽ですが、リスクが高いです。
まとめると、しっかり準備して、モニターしてちょうどいいところに調整し、必要に応じて鎮静合併症に対応する、ということになります。
また、過鎮静になるくらいであれば安全に施行できるように鎮静は弱めのほうがいいです。
難しい場合は麻酔科の先生にお願いするなども有効です。
みなさんも安全な鎮静で手技を行いましょう♪
ご意見やご指摘があったらいつでもコメントください(^^)