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拡張型心筋症(DCM)|症状・診断・治療

10秒サマリー

**拡張型心筋症(DCM)**は、左室の拡大と収縮不全(LVEF低下)を特徴とし、その原因が高血圧、弁膜症、冠動脈疾患などで説明できない疾患である。初期は無症状で経過することもあるが、進行すると労作時呼吸困難や浮腫などの心不全症状、不整脈、血栓塞栓症を呈する。治療の基本はガイドラインに準じた心不全標準治療であり、薬物療法に加え、症例に応じて心臓再同期療法(CRT)や植込型除細動器(ICD)を検討する。予後は改善傾向にあるが、一部の症例では難治性の心不全へ進行し、心臓移植や補助人工心臓が必要となる場合がある。

概要・疫学

DCMは、左室収縮不全と左室拡大を主徴とする心筋疾患である。日本における有病率は、指定難病の受給者証所持者数から人口10万人あたり約20〜30人と推定されているが、軽症例を含めるとさらに多い可能性がある。発症年齢は20〜50代に多いが、小児から高齢者まで幅広く認められる。約20〜50%に家族発症が認められ、タイチン(TTN)遺伝子などのサルコメア関連遺伝子変異が関与していることが明らかになってきている。

症状・身体所見

進行度に応じて多彩な症状を呈する。

  • **心不全症状:**労作時息切れ、呼吸困難、起坐呼吸、全身倦怠感、下肢浮腫。
  • **不整脈関連症状:**動悸、失神(心室頻拍や房室ブロックによる)。
  • 身体所見:
    • 聴診:III音、IV音の聴取。僧帽弁輪拡大に伴う僧帽弁閉鎖不全症(MR)の収縮期雑音。
    • うっ血所見:頸静脈怒張、肺湿性ラッセル音、肝腫大、下腿浮腫。

初期検査・鑑別診断

  • **胸部X線:**心拡大(CTR 50%以上)、肺うっ血、胸水。
  • **心電図:**左脚ブロック、非特異的なST-T変化、心房細動、心室性期外収縮。
  • **心エコー:**左室拡大(LVDd拡大)と壁運動の全般的な低下(LVEF低下)。機能性MRの有無を評価。
  • **鑑別診断:**以下の二次性心筋症を完全に除外する必要がある。
    • 虚血性心筋症:冠動脈造影やCTで有意狭窄を除外。
    • 高血圧性心疾患、弁膜症(大動脈弁閉鎖不全症など)。
    • 心筋炎(急性心筋炎の既往)。
    • アルコール性心筋症、周産期心筋症、薬物(抗がん剤)による心筋障害。
    • 特定心筋症:心サルコイドーシス、心アミロイドーシス、ファブリー病。

専門医へのコンサル基準

  • 新規に左室収縮不全(EF 40%以下)や左室拡大を認めた場合。
  • 標準的な薬物療法下でもNYHA III度以上の心不全症状が遷延する場合。
  • 心室頻拍や高度房室ブロックなどの致死的不整脈を認める場合。
  • 左脚ブロック(QRS幅 130ms以上)を伴い、CRTの適応検討が必要な場合。
  • 家族性心筋症が疑われ、遺伝子カウンセリングが必要な場合。

診断基準・精査の詳細

心エコーでのLVEF低下と左室拡大(LVDd > 117% of normal)が基本である。

  • **心臓MRI(CMR):**ガドリニウム遅延造影(LGE)で心筋線維化を評価する。DCMでは心筋中間層にLGEを認めることがあり、予後予測や不整脈リスク評価に有用である。
  • **心筋生検:**心筋炎や特定心筋症の除外のために行われる。心筋細胞の肥大、間質の線維化が特徴だが、DCMに特異的な所見はない。
  • **運動負荷試験(CPX):**最高酸素摂取量(peak VO2)の測定により、心不全の重症度客観的評価と運動処方に用いる。

治療法・具体的な処方例

HFrEF(EFが低下した心不全)としての標準治療を行う。

  • **ACE阻害薬/ARB:**心保護、予後改善のため、禁忌がない限り全例で使用し、最大耐用量まで増量する。
  • **β遮断薬:**心筋保護と予後改善の要である。うっ血がコントロールされた状態から極少量(「半錠の半錠」)で開始し、数週間かけて漸増する。
    • 処方例:アーチスト(1.25mg)1錠 分1(または分2)から開始し、2.5→5→10→20mgと漸増。
  • **ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA):**ACE阻害薬とβ遮断薬に併用して予後を改善する。
    • 処方例:セララ(25〜50mg)1錠 分1、またはミネブロ。
  • **利尿薬:**うっ血症状(浮腫や呼吸困難)がある場合に使用。
    • 処方例:ラシックス(10〜20mg)1錠 分1。
  • **ARNI:**ACE阻害薬/ARBから切り替えて使用する。
    • 処方例:サクビトリルバルサルタン/エンレスト(50mg)2錠 分2 から開始し、忍容性が認められれば2〜4週間間隔で段階的に増量(最大1回200mg)
    • 血管浮腫のリスクを避けるため、ACE阻害薬の中止から36時間以上の休薬期間(ウォッシュアウト)を置いた後にARNIを開始しなければならない。※ARBからの切り替え時は休薬期間不要。

resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)

  • β遮断薬導入のタイミング:「DryかつWarm」な状態で開始するのが原則である。急性増悪期やうっ血が残存している時期に開始・増量すると心不全を悪化させる。
  • **リバース・リモデリング:**適切な治療により左室機能が正常化する「Recovered EF」症例も存在するが、自己判断での薬物中止は再発のリスクが高いため、継続が推奨される。
  • **二次性MRへの対応:**左室拡大による機能性MRは、薬物療法で左室が縮小(逆リモデリング)すれば改善することが多い。安易に手術を検討せず、まずは至適薬物療法(GDMT)を徹底する。

予後・患者説明のポイント

  • **生活指導:**塩分制限(6g/日未満)と水分管理、毎日の体重測定を徹底し、増悪の早期発見に努める。
  • **感染予防:**インフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種を推奨する。
  • **予後:**5年生存率は約70〜80%まで改善しているが、不整脈による突然死のリスクは常に考慮が必要である。

参考文献

  • 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)

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