概要
脳動脈瘤は、脳動脈の病的な拡張であり、主に動脈分岐部に発生する。未破裂の状態では無症状のことが多いが、破裂するとくも膜下出血(SAH)を引き起こし、高い死亡率や重篤な後遺症を伴う。日本では欧米と比較して約2.8倍破裂しやすいとされる。
疫学
- 年間発生率は人口10万人あたり10~20人。
- 加齢とともに増加し、特に女性に多い。
- くも膜下出血のピーク年齢は、男性で50歳代、女性で70歳代。
- 主な発生部位は前交通動脈瘤(30%)、内頸動脈-後交通動脈分岐部(25%)。
- 多発性脳動脈瘤は約20%に見られる。
身体所見・症状
未破裂脳動脈瘤
- 無症状のことが多い。
- 大型の場合、神経圧迫による症状(例:動眼神経麻痺、視野障害)。
破裂脳動脈瘤(くも膜下出血)
- 突然の激しい頭痛(警告頭痛)。
- 意識障害、嘔吐、けいれん。
- 動眼神経麻痺(内頸動脈瘤)。
検査・診断
画像診断
- MRA(磁気共鳴血管撮影):非侵襲的で診断精度が約90%。
- CTA(CT血管造影):MRAに比べ高解像度。
- DSA(デジタルサブトラクション血管造影):侵襲的だが詳細な評価が可能。
- 造影MRI(Vessel Wall Imaging):炎症細胞浸潤や新生血管増生の評価。
- 血流動態解析(CFD):未破裂動脈瘤のリスク評価。
合併症
- 破裂によるくも膜下出血(死亡率30%)。
- 再破裂(24時間以内が最も多い)。
- 脳血管れん縮、遅発性脳虚血(DCI)。
- 正常圧水頭症(NPH)。
- 神経原性肺水腫、カテコールアミン心筋症、不整脈。
治療法
内科的治療
生活習慣の改善
- 高血圧管理(Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬を使用し130/80mmHg未満を目標)。
- 禁煙指導。
- 不安の強い場合は抗不安薬、睡眠導入薬の投与を考慮。
薬物治療
- 現時点でエビデンスに基づいた有効な薬物治療は確立されていないが、動物実験では抗炎症薬が破裂抑制に寄与する可能性が示唆されている。
外科的治療
開頭クリッピング術
- 直接動脈瘤の頸部(ネック)をクリップで閉鎖する方法。
- 比較的浅い部位の動脈瘤。
- ネックが広いもの、小型動脈瘤、分枝血管が関与するもの。
- 術後の再発が少ないが、開頭手術のリスクを伴う。
血管内コイル塞栓術
- カテーテルを用いて動脈瘤内部にコイルを挿入し、血流を遮断する方法。
- 深部の動脈瘤。
- ネックが狭いものが主な対象。
- 術後の再発率が比較的高いが、低侵襲で回復が早い。
- 最近はステントやフローダイバーターの進歩により適応範囲が広がっている。
フローダイバーター治療
- 動脈瘤への血流を減少させる特殊なステントを動脈内に留置する治療法。
- 大型内頚動脈瘤や治療困難な動脈瘤にも適応可能。
- 施設が限られるが、今後の発展が期待される。
治療適応の決定
- PHASESスコアやUCAS Japanデータに基づいた評価。
- 5年以上の累積破裂率が治療リスクを上回る場合に治療推奨。
- 術後は定期的な画像フォローアップが必要。
予後
- 破裂した場合の死亡率は約30%。
- 退院時に自立した生活が可能なのは約53%。
- 開頭手術後の再発リスク:10年で1.4%、20年で12.4%。
- 血管内治療後の再発率:24.4%、年間破裂率0.2%。
専門医へのコンサルト
- 小型未破裂動脈瘤でも破裂リスクがあり、脳神経外科にコンサルトが必要。
- 5mm以上の動脈瘤、ブレブを有するもの、高血圧・喫煙・家族歴のある患者はリスクが高い。
- 動眼神経麻痺などの症候性未破裂動脈瘤は切迫破裂の可能性があり、緊急コンサルトが必要。
患者説明のポイント
- 年間破裂率は約1%であり、緊急治療が必要な疾患ではない。
- 生活習慣改善の重要性を説明。
- 家族にも破裂時の症状や対応を理解してもらう。
- 治療のリスクと利益を提示し、セカンドオピニオンの選択肢も提供。