蛋白漏出性胃腸症とは
蛋白漏出性胃腸症は、消化管の粘膜から蛋白(特にアルブミン)が過剰に漏出することによって低蛋白血症をきたす症候。
蛋白が漏出する原因は様々あり、主に3種類の機序にわけられる(疾患によっては複数の機序が関わっている)。
【粘膜上皮の異常】
- 炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎など)
- 悪性腫瘍
- Cronkhite-Canada症候群
- Ménétrier病など
【血管透過性亢進】
- アミロイドーシス
- 自己免疫性疾患(SLE,関節リウマチ、Sjögren症候群など)
- 好酸球性胃腸症など
【消化管リンパ系の異常】
- 腸リンパ管拡張症
- 悪性リンパ腫
- うっ血性心不全,収縮性心外膜炎
- 肝硬変など
蛋白漏出性胃腸症の症状
- 浮腫(低蛋白血症により対称性圧痕性浮腫がメインだが、リンパ系異常だと非対称性非圧痕性リンパ浮腫も伴う)
- 消化器症状(下痢、腹部膨満感、悪心)
- 体重減少
- 成長障害
- 倦怠感
- 脂肪便
- 胸腹水(乳びだとリンパ系疑い)
- 易感染性(低γグロブリン血症やリンパ球げんしょうによる)
- テタニー(腸リンパ管拡張症の場合、脂溶性ビタミンやカルシウムの吸収障害が起きるため)
蛋白漏出性胃腸症の検査・診断
血液検査
- 低蛋白血症
- 特にアルブミンが低下するが、γグロブリンも低下する。
- 末梢リンパ球数減少
- 低ビタミンD血症
- 低カルシウム血症
蛋白漏出シンチグラフィ(99mTcヒト血清アルブミンシンチグラフィ)
蛋白漏出の有無と、漏出部位の推定を行うことができる。
99mTcヒト血清アルブミンを静脈注射後、経時的に24時間後まで撮影し、アイソトープが消化管に集積・蠕動で遠位に移動するかを観察する。
多くは120分以内に分布がみられ、大腸への移動がみられる。6時間以降の撮影で初めて腸管に軽度の集積を認める場合は生理的分布の可能性がある。
便中α1 アンチトリプシンクリアランス試験
蛋白漏出シンチグラフィより感度が高いが、蓄便が必要と検査方法が煩雑で、漏出部位の特定はできない。
3日間蓄便し、その都度冷凍保存する。総重量と糞便中のα1アンチトリプシン濃度を測定し、以下の計算式でクリアランス量を計算する。
糞便中α1アンチトリプシンクリアランス
=糞便量(mL/日)×糞便中α1アンチトリプシン濃度(mg/dL)/血清α1アンチトリプシン濃度(mg/dL)
※血清中α1アンチトリプシン濃度は蓄便3日目に測定
※13mL/日以上で蛋白漏出ありと判断
他検査
上下部内視鏡検査、消化管造影検査・カプセル内視鏡やCTなどで、局所的な変化がないか、原因となる疾患がないか確認する。
ネフローゼ症候群や肝硬変などの低アルブミン血症をきたす疾患の除外も行うこと。
蛋白漏出性胃腸症の治療
原因疾患の治療
原因疾患の治療が効果、再発抑制に最も効果的であり、可能な限り原因疾患の特定を行うことが重要。
栄養療法
低脂肪,高蛋白食(2~3g/kg/日)を基本とする。
重症例では成分栄養や半消化態栄養剤、もしくは中心静脈栄養を投与して改善をめざす。
薬物療法
高度浮腫や胸腹水の改善目的に、利尿薬投与の投与を検討する。
例)スピロノラクトン(アルダクトン®︎)25mg1T1×朝食後
重症例・難治例ではアルブミン製剤の点滴静注も検討するが、繰り返す必要があり、適応はしっかり検討すること。
腹水ろ過濃縮再静注法(cell-free and concentrated ascites reinfusion therapy:CART)
腹水が多量で腹水穿刺廃液やアルブミン製剤の投与を繰り返す症例では、CARTも検討する。
腹水を専用バッグに採取し、透析機で濃縮し、点滴で再静注行う方法で肝硬変の難治性腹水で行うことの多い処置。
外科的治療
蛋白漏出部位は特定できたが、上記治療で改善しない症例では、漏出部分の外科的切除を検討することもある。