ニューモシスチス肺炎(PCP)|症状・検査/診断・治療
目次
10秒サマリー
- 病態: Pneumocystis jiroveciiによる日和見感染症。細胞性免疫不全に合併する代表的な疾患で、HIV感染症例と、ステロイドなどを大量・長期に使用されたHIV陰性例の2種類がある。
- 診断の勘所: 乾性咳嗽、進行性の呼吸困難、発熱に、基礎疾患の存在を重ねる。胸部画像に比べて聴診所見が乏しい。β-D-グルカンの上昇があれば積極的に疑う。
- 治療: 第1選択はST合剤。治療期間はHIV-PCPで21日間、非HIV-PCPで14日間。PaO2<70mmHgまたはA-aDO2≧35mmHgの例ではステロイドを併用する。
- 注意点: 経過中に呼吸状態が予期せず悪化したら、気胸の合併を胸部単純X線で確認する。
概要・疫学
ニューモシスチス肺炎(PCP)は、Pneumocystis jiroveciiによる肺炎であり、細胞性免疫不全に合併する代表的な日和見感染症である。Pneumocystis属は原虫類に分類されていたが、リボソームRNAの遺伝子配列や細胞壁の構成成分などから、現在では真菌類に分類されている。
P. jiroveciiはI型肺胞上皮に定着し、免疫不全の進行により発症すると肺胞腔内に泡沫状の滲出物が出現する。進行すると硝子膜の形成、肺胞上皮の腫大、間質の増殖と線維化が進行する。
致死的な重篤肺炎となりうる。HIV感染がある例と、ステロイド薬などを大量・長期に使用されたHIV陰性の例の2種類がある。
症状・身体所見
- 主症状: 発熱、乾性咳嗽、労作時の呼吸困難。これらの症状は非特異的である。
- 経過: 非HIV感染症患者では急速な経過をとりやすく、HIV感染症患者では比較的亜急性に進行する。呼吸困難は亜急性に進行するため、低酸素の割に自覚症状に乏しいことが多い。
- 身体所見: 頻呼吸を認める。胸部画像所見に比べて聴診所見が乏しく、ラ音が聴取されることは少ない。肺野の聴診所見が正常であることも多い。
初期検査・鑑別診断
検査所見
- 血液検査: LDHの上昇とβ-D-グルカンの上昇(20pg/mL以上)を認める。KL-6も高値(500U/mL以上)となる。
- 血液ガス: 呼吸不全を反映し、PaO2の低下とA-aDO2の開大を認める。
- 胸部単純X線: 肺野のすりガラス様陰影が特徴で、進行すると浸潤影を伴う。
- 胸部CT: 両側びまん性、経気道分布のすりガラス陰影を認める。非区域性・地図状の分布で、末梢肺野に正常部分を残すことがあり特徴的である。経過とともに嚢胞性病変を生じることがある。
鑑別のポイント
- 間質性肺炎(膠原病肺など)、薬剤性間質性肺炎: 原疾患に合併する間質性肺炎との鑑別には、胸部CTでの特徴的な画像所見とβ-D-グルカン高値が手がかりとなる。
- 他の感染症(サイトメガロウイルス感染症など): β-D-グルカン高値とサイトメガロウイルス抗原の有無で鑑別する。
診断基準・精査の詳細
診断のポイント
- 基礎疾患の存在(特にHIV感染症)
- 乾性咳嗽
- 進行性の呼吸困難
- 発熱
- 特徴的な胸部画像所見
確定診断の決め手
- P. jiroveciiを気道検体(気管支肺胞洗浄液など)から検出する。
- P. jirovecii遺伝子を気道検体からPCR法で検出する。
- 経気管支肺生検でP. jiroveciiを病理学的に証明する。
- 補助診断として、KL-6高値とβ-D-グルカン高値を用いる。
診断は、気道検体中の菌体をGrocott染色などで証明できれば確定となる。検体は誘発喀痰、または気管支鏡で採取した生検組織ないし気管支肺胞洗浄液である。Diff-Quik染色では栄養体が、Grocott染色では嚢子が確認しやすい。
HIV感染症患者では菌体量が多く、気管支肺胞洗浄液での感度は90%以上である。非HIV感染症患者では菌体量が少ないため、直接検鏡での診断が困難な場合がある。
確定診断がつかないとき
- 気管支鏡を用いた気管支肺胞洗浄、または経気管支肺生検での病理診断を試みる。
- 染色にはGrocott染色やGiemsa染色、Diff-Quik染色が用いられる。
- PCR法によるP. jirovecii検出は高感度で有用だが、臨床情報と合わせて真の陽性かを判断する。
合併症・続発症
- HIV患者: 他の感染症(サイトメガロウイルス感染症、非結核性抗酸菌症など)の合併に留意する。
- 非HIV患者: 基礎疾患(ステロイド、免疫抑制剤、生物製剤、抗腫瘍薬、骨髄または臓器移植、膠原病など)に付随する合併症に留意する。
治療法・具体的な処方例
治療の方針
PCPは致死的な重篤肺炎であるため、画像所見や血中β-D-グルカン高値などから臨床診断が可能な場合は、可及的速やかに治療を開始する。確定診断後の治療が原則だが、急速に進行する呼吸不全のため十分な検査を実施できない場合には、直ちに治療を開始せざるを得ないこともある。
基礎疾患や重症度にかかわらず、第1選択薬はST合剤である。アレルギーなどで使用困難な症例を除き、治療効果と費用対効果の面からST合剤で開始すべきである。
- 第2選択薬(重症例を除く): アトバコン。忍容性は高いが、抗菌活性がST合剤に劣るため、重症例では推奨されない。
- 第2選択薬(重症例): ペンタミジン点滴。副作用の発現率が高く、減量を考慮する。
- 治療期間: HIV-PCPは21日間、非HIV-PCPは14日間が推奨されている。
緊急対応の判断
- 呼吸不全の程度が重要であり、必要に応じて人工呼吸管理を実施する。
- 気胸はPCPの合併症として重要である。経過中に予期せぬ呼吸状態の悪化があれば、胸部単純X線で気胸の併発を確認する。
経口投与が可能な場合
下記のいずれかを用いる。
- スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合錠(バクタ)1回3〜4錠 1日3回(体重・腎機能に応じて調整。体重60kg以上では1回4錠)
- アトバコン内用懸濁液(サムチレール)1回5mL(750mg)1日2回 食後(軽症〜中等症でST合剤の投与が困難な場合)
経口投与が困難な場合
下記のいずれかを用いる。
- スルファメトキサゾール・トリメトプリム注(バクトラミン注 5mL/A)1回3〜4A 1日3回(体重・腎機能に応じて調整)
- ペンタミジン注(ベナンバックス)1回4mg/kg 1日1回 1〜2時間で点滴静注
補助療法(ステロイド)
PaO2<70mmHgまたはA-aDO2≧35mmHgの症例では、上記にステロイドを併用する。
- プレドニゾロン錠(5mg)1回6〜8錠 1日2回を5日間、その後1回3〜4錠 1日2回を5日間、その後1回1.5〜2錠 1日2回を11日間(日量では80mg→40mg→20mg)
- 重症例では、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルナトリウム注(ソル・メドロール)1回0.5〜1g 1日1回 点滴静注 3日間(パルス療法)を考慮する。
予防
発症リスクの強い患者では、ST合剤による予防投与を行う。HIV感染症患者ではCD4陽性T細胞が200/μL未満の場合に、ST合剤などで発症を予防する。下記のいずれかを用いる。
- バクタ配合錠 1回1錠 1日1回 連日、または1日2錠 週3回
- アトバコン内用懸濁液(サムチレール)1回10mL(1,500mg)1日1回 食後
- ペンタミジン注(ベナンバックス)1回300mgを2〜4週に1回、注射用水5mLに懸濁し、超音波ネブライザーで30分以上かけて吸入
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
- 聴診が正常でも否定しない: 胸部画像所見に比べて聴診所見が乏しいことが、PCPの重要な特徴である。低酸素の割に自覚症状も乏しい。
- 経過中の急な悪化は気胸を疑う: 嚢胞状変化を呈する例では気胸を合併しやすい。予期せぬ呼吸状態の悪化では、まず胸部単純X線で確認する。
- ステロイド併用の根拠はHIVとそれ以外で異なる: HIV-PCPでは、治療に伴う宿主の過剰な免疫反応による肺組織障害と低酸素の増悪を防ぐ目的で、重症例(PaO2<70Torr、A-aDO2>35Torr)での有用性が確立している。非HIV-PCPでは、ステロイド使用の是非について十分なコンセンサスが得られていない。
- 第2選択薬の使い分け: アトバコンは忍容性が高く、ST合剤やペンタミジンの継続が困難になった場面で考慮する。ただしST合剤より治療効果が劣る。ペンタミジンは副作用が多く、減量を考慮する。
- PCRの陽性は臨床と合わせて解釈する: 感度が高いため、真の陽性かどうかを臨床情報と合わせて判断する。
予後・患者説明のポイント
重症度の判定と経過観察には、次の指標を用いる。
- 呼吸不全の程度
- 胸部画像所見による陰影の広がり
- KL-6高値
- β-D-グルカン高値
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