肺胞蛋白症(PAP)|症状・検査/診断・治療
目次
10秒サマリー
- 病態: 肺胞腔内にサーファクタント由来物質が貯留する疾患。成人の大半(90〜95%)は、抗GM-CSF自己抗体により肺胞マクロファージの分化成熟が障害される自己免疫性PAPである。
- 診断: 胸部HRCTでcrazy-paving patternを認め、気管支肺胞洗浄(BAL)または肺生検でPAPの所見を確認する。自己免疫性では抗GM-CSF自己抗体が陽性になる。
- 治療: 無症状や軽症は無治療で経過観察。中等度の労作で呼吸困難があれば労作時の在宅酸素療法、安静時にも呼吸困難があれば全肺洗浄を考慮する。ステロイドは無効であり、有害の可能性が高い。
- 帰してはいけない患者: 自覚症状とPaO2が乖離しやすい。呼吸困難が軽くても、SpO2や血液ガスを測らずに帰宅させない。
概要・疫学
肺胞蛋白症は、肺胞および呼吸細気管支内にリン脂質、サーファクタントアポ蛋白、血漿成分などが貯留するまれな疾患である。貯留物の大部分は蛋白ではなくリン脂質であり、肺胞リポ蛋白症ともいう。成人発症の肺胞蛋白症は、サーファクタントの分解異常により発症する。
貯留したサーファクタントによって、毛細血管と末梢気道の間の拡散障害が起こる。さらに、サーファクタントが貯留した部分としていない部分との間の換気血流不均等により、低酸素血症が進行する。
分類
- 自己免疫性PAP: 最も頻度が高い(成人の90%以上、資料により92〜95%)。GM-CSFに対する自己抗体が肺胞マクロファージの分化成熟を障害して発症する。
- 続発性PAP: 血液疾患、呼吸器感染症、粉塵吸入などに続発する(成人の約8%)。血液疾患では、日本人では特に骨髄異形成症候群に続発することが多い。肺胞マクロファージの起源となる細胞に異常があると考えられている。
- 遺伝性PAP: 成人発症の1%未満で、壮年〜高齢者にみられる。GM-CSF受容体遺伝子の異常が原因である。
- 先天性PAP: 小児期に発症する。非常にまれで、サーファクタントプロテインCやABCA3などの遺伝子の異常が報告されている。
- 上記に分類できないものは未分類PAPとする。
疫学
- 自己免疫性PAP: わが国の罹患率は人口百万対1.65、有病率は26.6と推定される。地域差はなく、男女比は2.1対1、診断時年齢の中央値は男女とも51歳である。
- 続発性PAP: 罹患率と有病率は明らかではない。地域差はなく、男女比は1.2対1、診断時年齢の中央値は男女とも49歳で、26%に職業性粉塵曝露歴がある。
- 自己免疫性PAPと先天性・遺伝性PAPは指定難病である。
症状・身体所見
- 無症状: 自己免疫性PAPの約30%(資料により30〜32%)は無症状で、胸部X線の異常陰影で偶然発見される。VATSの普及により、間質性肺炎などを疑われて行った生検で偶然発見される例も増えている。
- 症状: 労作時呼吸困難が最も多く(資料により40〜54%)、咳嗽、喀痰を伴う。呼吸困難と咳嗽の合併は10%である。発熱はまれである。
- 経過: 高度の慢性呼吸不全へ進展するのは16%で、約5%は在宅酸素療法を要する高度な低酸素血症へ進展する。自然寛解する例から呼吸不全に至る例まで、臨床経過はさまざまである。
- 身体所見: ばち指は通常みられない。
- 続発性PAP: 労作時呼吸困難を40%に、発熱を38%に認める。
初期検査・鑑別診断
検査所見
- 血液検査: 血清KL-6、SP-D、SP-A、LDH、CEAが上昇する。病勢を最もよく反映するのはKL-6とCEAで、ついでSP-A、SP-D、LDH、MCP-1、CYFRAである。
- 胸部X線: 両側肺門部から広がる非対称性の斑状〜びまん性陰影(蝶形陰影)を呈する。気管支透亮像(air bronchogram)を伴うこともある。症状が軽いわりに画像所見が重いことが特徴である。呼吸不全が進行しない限り、心拡大は認めない。
- 胸部HRCT: 正常肺との境界が明瞭な、非区域性・地図状のすりガラス影(通常は両側性)を認める。小葉間隔壁や小血管の肥厚、小葉内網状影を伴うとcrazy-paving pattern(メロンの皮様)となる。subpleural sparingやコンソリデーションを認める。牽引性気管支拡張、嚢胞、蜂巣肺を認めることがある。心拡大、胸水、リンパ節腫大は通常認めない。
- 呼吸機能検査・血液ガス: 初期には正常で、進行すると拘束性換気障害、低酸素血症、A-aDO2の開大を認める。比較的早期からDLCOが低下し、換気血流不均等によりPaO2が低下する。肺活量と努力性肺活量は、進行例や肺線維化をきたした例で低下するが、多くの症例では正常である。
- 気管支肺胞洗浄(BAL): 液の外観は米のとぎ汁様(milk-like)に白濁し、放置すると沈殿する。Papanicolaou染色でライトグリーンに染まる顆粒状の無構造物質の沈着と、May-Giemsa染色などで泡沫状マクロファージがみられる。これらはPAS染色が陽性である。
- 経気管支肺生検・外科的肺生検: 末梢気腔内に、0.2μm大の弱好酸性細顆粒状物質が充満する。数十μm大の好酸性顆粒状物質や、数μm大のlipid cleftsが混在する。細顆粒状物質はPAS染色とSP-A免疫染色で陽性である。
鑑別のポイント
- 非特異性特発性間質性肺炎: BALの肉眼所見で白濁などのPAPの所見がない。抗GM-CSF抗体が陰性なら自己免疫性PAPではない。
- 過敏性肺炎: BALの肉眼所見で白濁がなく、抗原曝露歴があり、典型例では組織診で肉芽腫を認める。
- 肺胞出血: BALの肉眼所見で赤色を呈し、出血とヘモジデリン含有マクロファージを認める。
- HRCTでcrazy-pavingを示すその他の疾患: ニューモシスチス肺炎、リポイド肺炎、ARDS、薬剤性肺障害、特発性器質化肺炎、肺水腫、サルコイドーシスなど。
専門医へのコンサル基準
- 全肺洗浄は、全国でも実施可能な医療機関が限られている。進行例や重症例は、速やかに専門医へコンサルトするのが望ましい。
- 肺胞蛋白症であるのに抗GM-CSF抗体が陰性の場合は、専門医へコンサルトする。
診断基準・精査の詳細
診断のポイント
- 肺胞蛋白症の成人の大半は自己免疫性PAPである。
- 自己免疫性PAPの約30%は無症状である。
- HRCTでPAPを支持する所見を認め、BAL液または病理組織でPAPの所見を認める。
- 自己免疫性PAPでは抗GM-CSF自己抗体が陽性になる(特定施設で研究用として測定可能。保険適用外)。
- 続発性PAPの多くは血液疾患に続発する。
PAPの診断と分類
PAPの診断は、原則として次の2項目を満たすこと。
- 胸部CT(原則としてHRCT)で、PAPを支持する所見を認める。
- BAL液あるいは病理組織でPAPの所見を認める。
分類は抗GM-CSF自己抗体の測定により行う。
- 自己免疫性PAP: 生検肺病理像またはBAL液所見に加え、血清抗GM-CSF自己抗体が陽性(1μg/mL以上)で確定する。
- 続発性PAP: 生検肺病理像またはBAL液所見に加え、血清抗GM-CSF自己抗体が陰性(1μg/mL未満)で、基礎疾患が存在することで確定する。
- 遺伝性PAP: 生検肺病理像またはBAL液所見があり、自己免疫性も続発性も否定されたときに疑う。
重症度は、動脈血酸素分圧と症状の有無で分類する。
確定診断がつかないとき
- 外科的肺生検を検討する。
- PAPが確定できない場合は、多分野集学的検討(MDD)により、分類不能型特発性間質性肺炎の病名を一時的に用いることも可能だが、慎重に検査を繰り返して経過観察する。
- PAPの診断後に分類できない場合は、分類不能型PAPと記載し、抗GM-CSF抗体などを繰り返し測定しながら経過観察する。
合併症・続発症の診断
- 感染症(真菌症、抗酸菌症など): 喀痰検査と血清学的検査で診断する。
- 肺線維症あるいは間質性肺炎: HRCT所見と病理所見で診断する。
経過観察のための検査
血清マーカー(KL-6、SP-D、SP-A、CEAなど)、HRCT、肺機能、酸素化能で経過観察する。
- 胸部X線: 急性期(片側全肺洗浄後を含む)は連日〜隔日、回復に従って間隔をあける。安定期は数か月ごと。
- 血液ガス: 急性期は連日〜隔日。安定期は不要。
- 胸部CT: 急性期は早期に撮影し、安定期は年1〜2回。
- 血液検査: 急性期は白血球数、CRP、LDなどを週1〜2回以上。安定期は年1〜2回程度。
治療法・具体的な処方例
治療の方針
自己免疫性PAPでは自然寛解する例があるため、無症状や軽症例では経過観察とする。重症例では全肺洗浄を考慮する。
- 軽症〜中等症: 無症状、あるいは呼吸機能障害が軽微(拡散能または労作時酸素飽和度の軽度低下)な場合は、自覚症状、呼吸機能検査、画像所見を定期的に確認しながら、無治療で経過観察する。中等度の労作で呼吸困難を自覚する、または酸素吸入が必要な場合は、労作時のみの在宅酸素療法を導入する。
- 重症: 軽度の労作や安静時にも呼吸困難があり、酸素吸入が必要な場合は、全肺洗浄を考慮する。
全肺洗浄
全肺洗浄は、現時点でゴールドスタンダードである。方法は次のとおり。
- 全身麻酔下で行う。
- 37℃の生理食塩液を用いる。
- 胸部タッピングを併用する。
- ダブルルーメン挿管チューブを用い、片肺ずつ洗浄を繰り返す。
通常、1回1〜1.5Lの生理食塩液で、洗浄液が透明になるまで20〜30回程度反復洗浄する。低酸素血症が高度な場合は、体外式人工肺を用いながら行うこともある。肺洗浄により、肺胞内の自己抗体が除去され、肺胞マクロファージの成熟が促されることが期待される。
GM-CSF吸入療法
中等〜重症の症例に推奨される。1日250μgを朝夕2回に分けて、15〜20分かけて吸入する。7日間吸入して7日間休薬するサイクルを6クール繰り返し、効果が不十分なら、さらにサイクルを繰り返す。約60%の患者が反応する。
続発性・先天性PAPの治療
- 血液疾患に伴う続発性PAPで、感染症の合併がなければ、骨髄移植を検討する。少数例の成功例が報告されている。
- 先天性PAPに対して、少数例で肺移植が試みられている。
不適切処方
副腎皮質ステロイドは、病型を問わずPAPに対して無効であるばかりか、有害である可能性が高い。ステロイドの使用は感染のリスクを高め、予後を悪化させる。使用する場合は、期間を限定すべきである。
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
- 呼吸困難がないことは安全の根拠にならない: 自覚症状とPaO2の乖離がしばしばみられる。PaO2が60Torr未満でも呼吸困難感を訴えない、あるいは乏しい症例が存在する。SpO2や血液ガスの測定なしで帰宅させてはいけない。
- 画像の割に症状が軽い: 症状が軽いわりに、胸部X線所見が重いことが特徴である。
- 間質性肺炎として扱われている例がある: 間質性肺炎などを疑われて行った生検で、たまたまPAPが発見される例が増えている。HRCTのcrazy-pavingを見たら、BALの外観と抗GM-CSF抗体を確認する。
- ステロイドを安易に使わない: 病型を問わず無効で、有害である可能性が高い。
- 抗GM-CSF抗体が陰性ならPAPの分類を見直す: 抗体陰性のPAPは続発性や遺伝性などを考え、専門医へコンサルトする。
予後・患者説明のポイント
- 自己免疫性PAP: 一般的に予後は良好で、軽症例は治療せずに観察してよい。10年生存率は90%に及び、17%は自然寛解する。
- 続発性PAP: 予後は著しく悪く、2年生存率は44%である。死因は、呼吸不全の進行と感染症の合併である。
- 先天性・遺伝性PAP: 自己免疫性に比べて予後不良である。
- 予後不良因子: 感染症の合併と、肺線維症の合併は、一般に予後不良である。
- 指定難病: 自己免疫性PAPと先天性・遺伝性PAPは指定難病である。
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