びまん性汎細気管支炎(DPB)|症状・検査/診断・治療
目次
10秒サマリー
- 病態: 呼吸細気管支を主座とする両側性びまん性の慢性炎症と、慢性下気道の持続性感染症。ほとんどの患者が慢性副鼻腔炎を合併し、副鼻腔気管支症候群の代表的な疾患である。
- 診断の勘所: 慢性の咳嗽・喀痰に、慢性副鼻腔炎の合併ないし既往と、胸部CTの両肺びまん性小葉中心性粒状病変を重ねる。特異性の高い検査はなく、他疾患の鑑別後の臨床診断にとどまることが多い。
- 治療: マクロライド系抗菌薬の少量長期投与(14員環または15員環)が基本。開始前に肺非結核性抗酸菌症を除外する。半年後に効果を判定し、安定していれば2年で終了する。
- 予後: マクロライド少量長期療法の導入前後で5年生存率は63%から91%に向上し、現在は完治可能な疾患である。
概要・疫学
びまん性汎細気管支炎(DPB)の「びまん性(diffuse)」は病変が両肺全体に分布することを、「汎(pan)」は呼吸細気管支の全層に炎症が及ぶことを意味する。
日本で疾患概念が確立された、原因不明の慢性上下気道の炎症性疾患である。呼吸細気管支を中心とした慢性炎症により、気道の狭窄と、線毛運動機能の低下による喀痰の増加を生じる。未治療例では進行性の慢性呼吸困難を呈する。
病態
- 好中球や、何らかの先天的もしくは後天的な免疫異常を素地として、下気道の細気管支周囲に限局した炎症をきたす。
- 病理学的には、呼吸細気管支領域にリンパ球や形質細胞の浸潤と泡沫細胞の集簇を認め、中枢気道には慢性の好中球性炎症を認める。呼吸細気管支の閉塞をきたすことが多く、進行すると気管支拡張を生じる。
- 細菌感染が加わると好中球炎症が惹起され、組織傷害により気管支拡張をきたして病態が進行する。この組織傷害が細菌感染を助長し、さらに炎症が増幅される。
- 発症には、好中球、T-リンパ球(特にCD8細胞)、IL-8、マクロファージ炎症性蛋白質(MIP-1)が重要な役割を示す。
- 慢性副鼻腔炎の合併または既往は必須項目である。
- 慢性気道感染の原因菌は、増悪時に抗菌薬投与を行うことで菌交代を起こす。
疫学
- 日本人をはじめとした東アジア人に多く、欧米ではほとんどみられない。人種特性のある疾患である。
- 日本人患者ではHLA-B54(HLA-B*54:01)の保有率が高い。韓国ではHLA-B54が少なく、HLA-A11の保有率が高いとされ、遺伝的背景に加えて別の要因が存在する可能性も示唆されている。ムチン様遺伝子PBMUCL1が候補遺伝子の1つと報告されている。上下気道に共通の、未知の遺伝素因が想定されている。
- 現在では発症年齢の偏りや男女差はなく、診断時年齢は若年者から高齢者まで幅広い。国内の罹患率は近年減少しており、典型的な所見を有する症例に遭遇する機会は少ない。
症状・身体所見
- 自覚症状: 慢性の咳嗽と多量の膿性喀痰。進行すると労作時呼吸困難を認める。慢性副鼻腔炎の合併ないし既往を認めることが多い。
- 聴診: 気道分泌物の影響によるcoarse crackles、ときに気道狭窄に伴うwheezes、rhonchiを聴取する。
初期検査・鑑別診断
検査所見
- 胸部X線: 両側の中〜下肺野を中心に、びまん性散布性粒状影と過膨張を認める。進行すると両下肺に気管支拡張所見がみられる。
- 胸部CT(HRCT): 両肺にびまん性の小葉中心性粒状病変を認め、しばしば細気管支の拡張と壁肥厚を伴う。進行例ではびまん性の気管支拡張像がみられる。気腫性変化も評価する。
- 呼吸機能検査: 閉塞性換気障害(進行例では混合性)を認める。進行すると肺活量が減少し、残気量が増加する。拡散能は通常、ほぼ正常範囲に保たれる。
- 動脈血ガス: 低酸素血症を認め、進行すると高二酸化炭素血症をきたす。
- 血液検査: 寒冷凝集素価の持続高値(機序不明)と血清IgAの上昇を認める。慢性下気道感染があれば白血球数が増加する。資料によっては、赤沈とCRPの上昇、RA因子陽性も記載されている。
- 喀痰検査: 初期にはインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)と肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)を検出することが多い。進行すると菌交代を起こし、Moraxella catarrhalisと緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)の比率が増加する。
- 副鼻腔X線: 副鼻腔内の陰影増強と副鼻腔発育不全を認める。
- 心エコー: 進行すると肺高血圧と右心負荷所見を認める。
鑑別のポイント
- 鑑別を要する疾患: 慢性気管支炎、気管支拡張症、原発性線毛機能不全症、閉塞性細気管支炎、嚢胞性線維症、関節リウマチに伴う細気管支炎、非結核性抗酸菌症、HTLV-1関連疾患など。
- 副鼻腔気管支症候群に含まれる疾患との鑑別: primary ciliary dyskinesia、Young症候群、Yellow nail症候群、cystic fibrosisなどのびまん性肺疾患を呈する疾患との鑑別を認識する。
- 先天性疾患: 原発性線毛機能不全症と嚢胞性線維症では、責任遺伝子変異の同定が、鑑別上きわめて重要である。
- 長引く咳嗽: 喀痰を伴う長引く「狭義の咳嗽」の重要な鑑別疾患として、DPBを認識しておく。
- 血管炎の合併: DPBの経過中にP-ANCA陽性の全身性血管炎を合併した症例が報告されている。
専門医へのコンサル基準
- 慢性副鼻腔炎があり、病歴と胸部X線、CT所見からDPBの可能性を念頭に、他のびまん性肺疾患との鑑別を進める。
- Young症候群、Yellow nail症候群、cystic fibrosisなどの鑑別が考慮される場合は、遺伝子検査を含めて総合的に精査できる専門病院を紹介する。
- 遺伝子検査を必要とする他のびまん性肺疾患との鑑別が困難な例では、呼吸器専門施設へ躊躇なくセカンドオピニオンを依頼する。
診断基準・精査の詳細
診断は、「厚生省特定疾患びまん性肺疾患調査研究班、平成6年度報告書」(旧厚生省研究班の診断の手引き)に準じる。
診断のポイント
- 慢性・好中球性の上気道炎症(鼻副鼻腔炎)と下気道炎症(細気管支炎)を特徴とする。
- 慢性の咳嗽・喀痰に加え、胸部CTで両肺びまん性の小葉中心性粒状病変を検出する。
- 慢性鼻副鼻腔炎の合併ないし既往に注意する。
- 十分に特異性の高い検査がなく、他疾患を鑑別した後の臨床診断にとどまることが多い。
確定診断がつかないとき
- 通常は生検などの病理学的診断までは行わない。鑑別が困難な例では、胸腔鏡下肺生検(VATS)やクライオ生検を躊躇なく考慮する。
- マクロライド少量長期療法の有効性が、診断を支持することが多い。
経過観察のための検査
- 治療反応: マクロライド投与開始後2〜4週間で、痰量の減少や労作時息切れの改善がみられることが多い。続いて、小葉中心性粒状病変の消失や減少、肺機能の改善、低酸素血症の改善を認める。
- 胸部X線: 安定期でもエリスロマイシン療法中は2〜3か月ごとに撮影して効果を評価する。肺炎や右心不全を合併すれば頻回に撮影する。
- 寒冷凝集素価: 病勢と並行することが多く、年2回程度検査する。
- 動脈血ガス: 安定期でも数か月ごとに検査し、病勢の評価と在宅酸素療法の適応を検討する。急性増悪期は頻回に検査する。
- 喀痰細菌検査: 安定期も、菌交代や薬剤感受性の変化を見逃さないよう数か月おきに行う。急性増悪期は抗菌薬の開始前に行う。
- 心エコー: 安定期は年1回程度。急性増悪期は右心不全の有無と程度の評価のため適宜行う。
- 経過のチェック項目: 高分解能CTで細気管支病変、気管支拡張、気腫性変化を評価する。緑膿菌への菌交代と薬剤耐性の進行、閉塞性換気障害の進行、肺性心の進行に留意する。
治療法・具体的な処方例
慢性期の治療方針
慢性期の治療は、気道炎症の改善を目的としたマクロライド系抗菌薬の少量長期投与(半年〜2年)が基本である。14員環または15員環のマクロライド系抗菌薬を用いる。マクロライド系抗菌薬は、抗菌作用に加えて多彩な抗炎症作用と免疫調整作用を有する。発症早期に開始することが重要である。
- 開始前: 喀痰または気管支鏡検査で、肺非結核性抗酸菌症の合併を除外する。
- 第1選択: クラリスロマイシン(CAM)と交差耐性を示さないエリスロマイシン(EM)で開始し、常用量の1/2あるいは1/3を投与する。
- 無効時: 肺非結核性抗酸菌症の除外を行ったうえで、CAMまたはロキシスロマイシン(RXM)に変更する。さらに無効であれば、アジスロマイシン(AZM)への変更を考慮する。
- 効果判定: 開始後6か月の時点で総合的に判定する。自覚症状と検査値が改善し、重症度分類4または5級程度で安定が続けば、通常2年間の投与で終了する。再発した場合は同じ治療を再開する。
- 投与期間の延長: 広範な気管支拡張や呼吸不全を伴う進行例では、有効性を確認したうえで2年以上継続する。初期例では6か月以上、進行例では2年以上が推奨されている。
処方例(慢性期)
下記1)で開始し、無効であれば2)、3)のいずれかに変更する。さらに無効であれば4)を用いる。
- エリスロマイシン錠(200mg)1回1錠 1日2〜3回 食後
- クラリスロマイシン(クラリス)錠(200mg)1回1錠 1日1回 食後
- ロキシスロマイシン(ルリッド)錠(150mg)1回1錠 1日1回 食後
- アジスロマイシン(ジスロマック)錠(250mg)1回1錠 週3日
急性増悪期の治療
急性増悪時には細菌感染が関与していることが多く、Haemophilus influenzae、Streptococcus pneumoniae、Moraxella catarrhalis、Pseudomonas aeruginosaが関与する。最終的に菌交代症を起こし、Moraxella catarrhalisやPseudomonas aeruginosaに交代する。喀痰培養を必ず行い、的確な抗菌薬治療を開始する。抗菌薬投与時には、escalationとde-escalationを意識する。
抗菌薬、ネブライザー(COVID-19禍では陰圧室での使用に限定)、酸素吸入などで治療介入し、適宜、去痰薬と鎮咳薬を併用する。呼吸循環管理に加えて、各種起炎菌に対する抗菌薬を併用する。
処方例(急性増悪期の抗菌薬)
非進行期には1)〜3)のいずれかを用いる。進行期で菌交代症を起こしている状況では、Moraxella catarrhalisとPseudomonas aeruginosaを考慮して4)〜6)のいずれかを選択する。
- スルタミシリン(ユナシン)錠(375mg)1回1錠 1日2〜3回 食後
- ラスクフロキサシン(ラスビック)錠(75mg)1回1錠 1日1回 食後(腎機能による投与量調節は不要)
- セフトリアキソン(ロセフィン)注 1回1〜2g 1日1回 点滴静注
- シタフロキサシン(グレースビット)錠(50mg)1日2錠を1〜2回に分服 食後
- タゾバクタム・ピペラシリン(ゾシン)注 1回4.5g 1日3〜4回 点滴静注
- メロペネム(メロペン)注 1回1g 1日2〜3回 点滴静注
対症療法(去痰薬・鎮咳薬)
去痰薬として、下記1)〜3)のいずれかを用いる。
- フドステイン(クリアナール)錠(200mg)1回2錠 1日3回 食後
- L-カルボシステイン(ムコダイン)錠(500mg)1回1錠 1日3回 食後
- アンブロキソール(ムコソルバン)L錠(45mg)1回1錠 1日1回 食後
鎮咳薬として、下記4)、5)のいずれかを用いる。
- 鎮咳配合剤(フスコデ)配合錠 1回3錠 1日3回 食後
- ゲーファピキサント(リフヌア)錠(45mg)1回1錠 1日2回 食後
フドステイン錠には、びまん性汎細気管支炎の保険適用名が付記されている。そのほか、気管支拡張薬、理学療法、リハビリテーション、在宅酸素療法などが実施される。
増悪の予防
栄養状態の改善に加え、インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンの接種が重要である。
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
- マクロライドを始める前に抗酸菌を除外する: 開始前に喀痰または気管支鏡検査で、肺非結核性抗酸菌症の合併を除外する。無効時に薬剤を変更する際も、除外を行ってから変更する。
- 少量とは常用量の1/2〜1/3のこと: 抗菌作用ではなく、抗炎症作用と免疫調整作用を狙った投与である。
- 治療開始後の反応を確認する: 2〜4週間で痰量と息切れが改善し、6か月の時点で総合的に効果を判定する。安定していれば2年で終了する。進行例は2年以上続ける。
- 急性増悪では血管炎の合併も考える: 原因として、感染症の合併だけでなく、P-ANCA陽性の全身性血管炎の合併も考慮する。
- 増悪時は必ず喀痰培養: 菌交代でMoraxella catarrhalisや緑膿菌に変わっていくため、培養の結果に応じて抗菌薬を選ぶ。
- ラスクフロキサシンは腎機能による調節が不要: 腎機能低下例でも使いやすい。
- フスコデの禁忌: 閉塞隅角緑内障を合併している例では使用禁忌である。
- ゲーファピキサントは味覚異常が多い: 味覚異常が現れる割合は65.4%(447/683例)で、多くは服用開始後数日以内に現れる。服用を止めることで96.0%(429/447例)が回復したと報告されている。
- 治療が効きにくい例: 高度な気管支拡張例や進行例は難治である。
予後・患者説明のポイント
予後
- マクロライド少量長期療法が行われるようになり、予後は劇的に改善した。1984年に工藤がエリスロマイシン少量長期療法の有効性を報告する以前(1970〜1979年)の5年生存率は63%だったが、1985〜1990年には91%まで向上した。
- 導入前は、DPB自体の進行による閉塞性呼吸機能障害が進行し、II型呼吸不全をきたし、さらに感染増悪で死亡する難病であった。適切に診断・治療されないと、きわめて予後不良な疾患である。
患者説明のポイント
- 適切に診断し、マクロライド薬を内服継続すれば治癒可能な病気であることを、十分に説明して理解してもらう。
- 急性増悪の徴候である発熱、咳嗽、膿性喀痰、息切れの増強、全身倦怠感が出たら、早急に受診するよう伝える。
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