肝硬変の診断
肝硬変は肝臓の線維化が高度に進行し、肝機能が低下した状態で非可逆的なもの。
線維化の程度は肝生検でわかるが、急激な進行などの例以外では行われない。
線維化を血液検査やエラストグラフィーなどの画像検査で間接的に判断し、肝合成能なども鑑み総合的に診断する。
以下に簡便な血小板、FIB-4 indexでの評価について記載する。
血小板での評価
慢性C型肝炎における血小板数と線維化の相関は以下のとおり。
脂肪肝では血小板数15万未満だと8割が肝硬変になっていると国内多施設研究で報告されている(Yoneda M, et al:J Gastroenterol. 2011;46(11): 1300-6.)
血小板数 | 年間肝癌発癌率 | |
F0 線維化なし | 20万以上 | 0% |
F1 軽度線維化 | 15~18万 | 0.5% |
F2 中等度線維化 | 13~15万 | 1.5% |
F3 高度線維化 | 10~13万 | 5% |
F4 肝硬変 | 10万以下 | 8% |
FIB-4 indexでの線維化評価
AST,ALT,血小板数,年齢で計算し肝臓の線維化を予測する指標。
FIB-4 indexの計算はコチラ→肝臓検査.com( https://kanzo-kensa.com/examination/calc/)
1.30以下→線維化ほとんどなし
2.67以上→4~8割肝硬変の可能性あり
線維化マーカー
ヒアルロン酸、Ⅳ型コラーゲン7s、M2BPGi(Mac-2 binding protein糖鎖修飾異性体)など。
ヒアルロン酸は炎症、年齢、食事などで上昇し不安定。
Ⅳ型コラーゲン7s、M2BPGiのどちらかを。1つずしか保険算定できない。
Ⅳ型コラーゲン7s(148点):
F1以下の線維化カットオフ値6ng/mL(脂肪肝、慢性B・C型肝炎共通)。線維化早期に有用。
M2BPGi(194点):
NASH肝硬変のカットオフ値1.460COI、C型肝硬変では3.0COI。線維化進行例で有用。
肝硬変の原因
原因:
アルコール性、慢性B・C型肝炎、脂肪肝、原発性胆汁性胆管炎(PBC)、原発性硬化性胆管炎(PSC)、自己免疫性肝炎(AIH)、Wilson病、成人型Still病などがある。
血液検査:
HBs抗原、HCV抗体、抗ミトコンドリアM2抗体、自己抗体、銅、フェリチンなど
画像検査:
エコーなどの画像検査。また、肝臓癌のサーベイランスを以下を参考に行う。
原疾患があればそれに応じた治療も行うこと。
肝細胞癌のサーベイランス
肝硬変症例は発癌リスクが超高危険群に該当するため以下の頻度でフォローする。
3ヶ月ごと:AFP/PIVKAⅡの測定、エコー
6~12ヶ月ごと:dynamic CT/MRI
肝細胞癌が疑われる場合は速やかに肝臓内科に紹介する。
肝硬変での食事療法
肝性脳症:
肝性脳症が強い時期は低蛋白(1g/kg以下)がいいが、
肝硬変は高頻度でタンパク質・エネルギー低栄養状態のため、普段は高蛋白(1.2~1.5g/kg)、適正エネルギー(35~40kcal/kg)がよい。
腹水:
腹水がある場合は、7g/日以下の減塩を。
LES(Late Evening Snack):
LESは肝硬変早期から必要。就寝中の飢餓状態を防ぐために就寝前に200kcalほど補食すること。
肝硬変の腹水治療
①利尿剤はスピロノラクトンが第一選択。適宜フロセミドやアゾセミドを併用。
例)スピロノラクトン25mg1~2T1×朝食後
例)フロセミド20mg1~2T1×朝食後
②フロセミド40mg以上は腎機能悪化しやすく、早めにトルバプタン(サムスカ)の併用を。
例)トルバプタン(サムスカ®︎)7.5mg1T1×朝食後
※Na<125や、急な循環血漿量減少にリスクがある症例では3.75mgで開始
③腹水穿刺廃液。はじめのうちは2Lくらいまで(速度は1L/時間以下)。
腹水全量廃液+アルブミン静注とCARTの比較では、生存率や大量腹水再発率に差はない。
④腹水穿刺の回数が多い場合はPSE(部分的脾動脈塞栓術)やデンバーシャント(腹腔ー静脈シャント)などを検討。
PSEにより脾静脈→門脈への血流が減少し、門脈圧亢進が改善し腹水が改善する。血小板減少・低アルブミン血症の改善も期待される。
デンバーシャントは高率に敗血症をおこす。
食道静脈瘤
①肝硬変では必ず1年に1回は胃カメラで静脈瘤をチェック。
②食道静脈瘤にはEIS、胃静脈瘤にはBRTOを検討。
③薬物治療は、βブロッカーが門脈圧低下作用、1次・2次出血予防効果あり。
④静脈瘤の上にびらん・潰瘍ができると出血するのでPPIも検討。
④もし出血疑いの患者が来たら、SBチューブを挿入。内視鏡的にはEVL。
詳細は食道静脈瘤を。
肝性脳症
肝障害または門脈-大循環短絡に起因する精神神経障害。
不顕性の肝性脳症もあるし、アンモニアが基準値内のこともある。総合的に診断。
①非吸収性合成二糖類
各ガイドラインで肝性脳症に対する1st line。
肝硬変では、排便2,3回/日を目標に排便コントロールを。
例)ラクツロース(ピアーレ®︎)30~60mL3×毎食後
肝性昏睡で経口摂取不能の時,ラクツロースシロップ50~150mLを,同量~2倍量の微温湯に混ぜて1日1~3回注腸するのも有効(保険適応外使用)。
吸収されずに大腸に届き脂肪酸に分解され腸内pHが下がりアンモニア産生菌を減少させると同時に腸管からの肝性脳症誘発物質の吸収を抑制する。
また、腸管内の浸透圧も変化して腸管輸送を亢進させてアンモニアの生成・吸収を抑制する。
②分枝鎖アミノ酸BCAA
低アルブミンにも有効。
LESとして寝る前に内服がよい(上記食事の部を参照)
例)アミノレバンEN 1P1×眠前
アミノレバン点滴はラクツロースなどより比較的即効性がある。
肝臓で代謝できず増加したアンモニアは、代償的に筋肉や脳でBCAAから生成されるグルタミン酸によりアンモニア代謝を行う。
アンモニア代謝でBCAAが減ると、相対的にAAAが増え、AAAから生成されるフェニルアラニンやトリプトファンの脳内濃度が増加し、精神神経症状を発現する偽性神経伝達物質が増える。
BCAAを投与すると、AAAと競合してAAAの脳血液関門からの脳内への通過を抑制して肝性脳症を改善する。
③難吸収性抗菌薬
腸内細菌による中毒物質の産生を抑制するため。
グラム陽性・陰性、嫌気性菌に対して広域スペクトラム。
例)リファキシミン(200)6T3×毎食後
④亜鉛
例)ノベルジン(25,50)2T2× 最大150mg/日
アンモニアを尿素に変化する尿素回路内のオルニチントランスカルバミラーゼの活性に亜鉛が関与。
アルブミンが減ると亜鉛がアミノ酸と結合して尿中に排泄され血中亜鉛が低下してしまいアンモニアが増加する。
⑤カルニチン
例)エルカルチンFF(250)6T3×(1錠256円)
例)エルカルチンFF内溶液10%10~20mL3×
肝硬変ではカルニチン合成が低下するがカルニチンも尿素回路に関与している。
また、カルニチン製剤によるサルコペニアの改善も報告されている。
こむら返りにも効果あり。
掻痒感
ビリルビンの上昇などにより掻痒感が出現(上昇していなくても)。
まず抗ヒスタミン薬を投与。
例)ロラタジン10mg1T1×夕食後
効果不十分な場合、
例)レミッチOD2.5μg1T1×夕食前または就寝前