
「休日に子供と遊んでいても、頭の片隅から患者さんのことが離れない…」
「誰にも頼れないプレッシャーの中で、心身がすり減っていくのを感じる…」
「このまま働き続けて、自分の心と体は本当に大丈夫だろうか…?」
はじめまして、「レジドクター」運営者のDr.ゆうです。
かつての私が抱えていた、この息苦しい悩み。もし今、あなたが同じように感じているなら、この記事はきっとあなたの「次の一歩」を照らす光になります。
これは、単にフリーランスという働き方を手放しで勧める記事ではありません。私が常勤医として限界を感じ、すべてを手放してフリーランスに転身したことで見えてきた「働き方のリアルな選択肢」を、成功談も、そして今だから話せる失敗談も、すべてお話しするものです。
この記事を読み終える頃には、「こんな道もあるのか」と視野が広がり、あなた自身のキャリアを主体的に考えるための、具体的なヒントが得られるはずです。
【第1章】なぜ私は常勤医を辞めざるを得なかったのか ―「終わらない緊張感」の日々

プロフィール記事に記載していますが、私は30代半ばで、研修医時代を過ごした病院に消化器内科の科長として戻りました。しかしそのポジションは、頼れる上司も、いざという時に手技を代わってくれるベテラン医師もいない、まさに孤軍奮闘の環境でした。
消化器内科医である以上、手技による合併症のリスクは常に付きまといます。そのリスクを限りなくゼロに近づけるため、必死に勉強し、準備を重ねる毎日。しかし、どれだけ経験を積んでも「万が一」への恐怖が消えることはありませんでした。
何かあれば、全責任を自分が負う。
そのプレッシャーは、まるで常に張り詰めた糸の上を歩いているような感覚でした。休日に子供と公園で遊んでいても、ふとした瞬間に患者さんの顔が浮かび、心ここにあらずの状態になる。オンとオフの境界線が、どんどん曖昧になっていきました。
特に精神的に堪えたのは、困難なESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)に集中している最中、看護師さんから「先生、次のERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)は何時から始めますか?」と尋ねられた時です。もちろん彼女に悪気は一切ありません。しかし、目の前の手技で手一杯の私には、その一言がひどく重くのしかかり、どっと疲れが押し寄せるのを感じました。
「もっと経験を積めば、手技が上手くなれば、この緊張から解放されるはずだ」
そう信じて走り続けてきましたが、プレッシャーは減るどころか、むしろ増していくばかり。そしてついに、体は「中途覚醒・早朝覚醒」という明確なSOSを発し始め、寝ている間も体に力が入っていて目が覚めるとひどい筋肉疲労があるなど、色々な不調をきたしました。このままでは、自分が壊れてしまう。そう直感しました。
【第2章】決意から実行へ。フリーランス移行の現実的な5ヶ月間

実は、「今の働き方を変えたい」という思いは、限界を感じる数年前からくすぶっていました。しかし、「まだやれる」「もっと上手くなれば、この状況を克服できるはず」という思いが、行動にブレーキをかけていたのです。
明確に行動へと舵を切ったのは、睡眠障害が悪化し、「もう限界だ」と心と体が悲鳴をあげてからでした。退職を決意し、その5ヶ月前から本格的な情報収集を開始。具体的には、元々複数の転職サイトに登録していたので、各社から自分に合った職場がないか探しました。
当時の私は、長年のプレッシャーからか、治療手技そのものに一種の心理的な抵抗感すら覚えていました。そのため、他院で再び常勤として働くイメージが湧かず、まずは心身をリセットすることを最優先に考えました。
そこで浮上したのが、健診業務などを中心としたフリーランスという選択肢です。「医師はフリーランスの方が給料がいい」という話に興味があったのも事実ですが、それ以上に「現状を打開したい」という気持ちが強かったのです。
もちろん、長年お世話になった病院を去ることには、心苦しさもありました。特に、私がいなくなるとERCPのような治療内視鏡を行える医師がいなくなる、という状況は避けたい。そこで、病院と相談し、後輩の指導という形で週に数コマだけ勤務を残すことにしました。
正直、初めはそれすらも気が進みませんでした。しかし、この決断が、結果的に私自身を救うことになります。後輩に教えるという立場になったことで、客観的に手技と向き合えるようになったことと、働き方を変えたことで精神的に余裕ができたことで、あれほど感じていたERCPなどの治療内視鏡への抵抗感が、少しずつ和らいでいったのです。こんなワガママを聞いてくれている後輩に、心から感謝しています。
【第3章】フリーランス医師のリアルな実態 ― 光と影

こうして始まったフリーランス生活。そこには、想像していた以上の「光」と、知っておくべき「影」がありました。
【光の部分:手に入れた自由】
1. 時間と家族
フリーランスになるにあたり、私が立てた目標は「週4勤務+スポットで、毎週3連休を実現する」ことでした。扶養家族も多いため、スポットで収入を補う必要はありましたが、働き方の自由度は劇的に向上しました。
特に忘れられないのが、今年の夏休みです。あえてスポットの仕事は一切入れず、毎週必ず3連休を確保。子供たちと毎週のようにキャンプや遠方への旅行に出かけて遊び回った時間は、常勤時代には決して得られなかった、何物にも代えがたい財産です。
そして、心身がある程度回復した現在は、自らの意思で「週5日フルタイムのフリーランス」という働き方に移行しています。このように、自分のライフステージや心身の状態に合わせて、働き方を柔軟にデザインできることこそ、フリーランス最大の魅力だと感じています。
2. 収入
「フリーランスになって、収入は本当に大丈夫なのか?」これは誰もが気になる点でしょう。
結論から言うと、私の場合は常勤時代と遜色ない収入を維持できていますし、週5勤務になることでおそらく以前よりも収入は増えています。
現在の私のポートフォリオは、「内視鏡9単位(健診・外来)+消化器内科外来1単位」の週10単位(週5日勤務)です。常勤時代より労働時間は短いにもかかわらず、同等の収入を得られる。つまり、「時給換算」では明らかに今の方が高いのです。
【影の部分:知っておくべき現実】
1. 仕事内容とやりがい
もちろん、良いことばかりではありません。仕事は健診などが多くなり、内容は単調になりがちです。また、病院内では良くも悪も「外部の人間」。組織の一員として深く関わるやりがいは、常勤時代に比べて確実に減ります。
2. 想定外だった税金の罠:所得税『乙欄』の恐怖と、その乗り越え方
- 確定申告の手続きは事前に調べていたので、大きな問題ではありませんでした。
また、フリーランスになる上で避けては通れない社会保険(健康保険や年金)についても、以下の記事でメリット・デメリットを徹底比較していますが、これも想定の範囲内でした。
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医師の社会保険・税金 完全ガイド:常勤 vs 非常勤(フリーランス)で手取りと将来はどう変わる?徹底解説
2025/9/16
この問いへの答えは、給与明細の数字だけでは見えてきません。 医師のキャリアパスが多様化する現代、常勤として安定した環境で働くか、あるいは非常勤(フリーランス)として高い報酬と自由を追求するかは、多くの ...
しかし、私には全く想定外の落とし穴があったのです。
それは、所得税の源泉徴収で適用される「乙欄(おつらん)」という区分です。
複数の勤務先から給与を得る場合、主たる給与支払者(通常は最も収入の多い勤務先)以外の勤務先では、所得税の源泉徴収に「乙欄」という高い税率が適用されます。
確定申告をすれば最終的に払い過ぎた分は還付されるのですが、問題は月々の手取りキャッシュフローが大きく圧迫されることです。
私も最初の給与明細を見た時は、「え、手取りがこれだけ!?」と愕然としました。この影響で、当初の想定よりもスポットの仕事を入れてキャッシュフローを補う必要に迫られたのです。
この「乙欄ショック」は、フリーランスを目指すなら絶対に知っておくべき重要なポイントです。当時の私にアドバイスできるなら、以下の3つの準備をしておけ、と伝えます。
- 【対策1】事前に手取り額をシミュレーションする
転職エージェントに相談したり、勤務先に確認したりして、「乙欄適用後の手取り額」の概算を必ず把握しておきましょう。「給与額面 × 0.7〜0.8」程度を一つの目安として、最低限のキャッシュフローを見積もっておくと心の準備ができます。 - 【対策2】数ヶ月分の「生活防衛資金」を余分に用意しておく
シミュレーションに基づき、手取りが減っても慌てないよう、最低でも3ヶ月分の生活費をすぐに使える資金として確保しておきましょう。これがあるだけで、「お金が足りないかもしれない」という精神的なプレッシャーから解放されます。 - 【対策3】「確定申告での還付」を前提とした資金計画を立てる
「毎月、税金を前払いしている」と考え方を変えてみましょう。払い過ぎた税金は、翌年の確定申告で数十万円単位の還付金として戻ってくる可能性があります。この還付金を見越して、iDeCoやふるさと納税などの節税策を計画的に活用すれば、単に「損した気分」で終わるのではなく、賢い資産形成に繋げることも可能です。
【第4章】結局、フリーランスはどんな医師に向いているのか?
私の経験を踏まえて、フリーランスという働き方がフィットする可能性が高いのは、次のような方だと感じます。
フリーランスをお勧めできる人
- 私のように、燃え尽き症候群(バーンアウト)気味で、一度心身をリセットしたいと考えている人
- 子育てや介護など、期間限定でもプライベートの時間を最優先にしたい時期がある人
- お金の管理や面倒な事務手続きを、自分自身で責任を持って行える人
フリーランスになるのは慎重になった方がいい人
- 組織に所属し、チーム一丸となって何かを成し遂げることに大きなやりがいを感じる人
- 高度な治療や、入院診療を行いたい人
- 教授や病院長など、アカデミックキャリアや組織内での出世を重視する人
【まとめ】フリーランスは"ゴール"ではない。キャリアの舵を、自分の手に取り戻すための一つの"選択肢"

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
私がこの長い体験談を通じて最もお伝えしたかったのは、「フリーランスが最高だ」ということではありません。実際、私自身、やりがい等を求めて常勤医に戻る可能性はそれなりにあります(検診内視鏡も被験者のニーズがかなりあり、大切な仕事です)。
常勤、管理職、そしてフリーランス。その全てを経験したからこそ断言できるのは、「どの働き方にも一長一短があり、絶対的な正解はない」ということです。
大切なのは、もしあなたが今の場所で悩み、立ちすくんでいるのなら、少しだけ視野を広げてみることです。私にとってフリーランスは、すり減った心と体、そして何より家族との時間を守るための、あの時点での最高の「選択」でした。
あなたのキャリアの舵は、あなた自身が握っています。この記事が、あなたが後悔しないための「次の一歩」を踏み出す、小さなきっかけになれば、これほど嬉しいことはありません。
もしフリーランスや転職について調べたくなったのなら、まずは求人情報があるのか市場調査をしておきましょう。転職サイトは登録から最後の入職まで一切費用負担が医師にはありません。情報収集目的にとりあえず登録しておくことをおすすめしますが、転職サイトは多数あります。自分の診療科や居住地で強い転職サイトに登録するようにしましょう。主要転職サイトを比較していますので、参考にしてみてください。一例として総合内科を掲載しておきます。他科はリンク先に掲載しています。