Brugada症候群は、右側胸部誘導(V1〜V3)における特徴的なST上昇を呈し、心臓に構造的な異常がないにもかかわらず、 心室細動(VF)による突然死を来すリスクのある遺伝性不整脈である。特にアジア人、青壮年男性に多く、就寝時などの安静時に発症しやすいのが特徴である。
10秒サマリー
- 特徴:右側胸部誘導でのST上昇(coved型)と致死性不整脈が結びついた病態。
- 診断の要:「Type 1(coved型)」と呼ばれる特異な波形が1誘導でも確認されること。
- リスク:失神既往やVF蘇生後は極めて高リスクであり、ICD(植込み型除細動器)の適応となる。
- 生活指導:発熱、飲酒、特定の薬剤がVF/の誘因となるため、徹底した回避が必要。
概要・疫学
1992年にBrugada兄弟によって報告された疾患。日本では「ぽっくり病」の主要な原因の一つと考えられており、男性に圧倒的に多い(男女比 約9:1)。
自律神経の影響を強く受け、夜間や食後、飲酒後などの迷走神経優位な状況で不整脈が発生しやすい。また、約10〜30%の症例で心房細動(AF)を合併することが知られており、これが診断のきっかけになることもある。
症状・身体所見
多くは無症状で、健康診断の心電図で発見される(無症候性Brugada症候群)。
初期検査・診断の進め方
診断は「心電図波形の形態」を特定することから始まる。臨床的には以下のステップで診断を確定させる。
1. 心電図波形の分類(Type 1〜3)
右側胸部誘導(V1〜V3)のST変化に注目する。※第2・第3肋間という「高い位置」で測定すると検出率が上がる。
- Type 1(Coved型):STが弓なりに盛り上がり、そのまま陰性T波へ続く。【診断に必須の波形】
- Type 2:STが鞍状(Saddleback型)に陥凹し、J点の上昇が2mm以上。
- Type 3:STが鞍状(Saddleback型)に陥凹し、J点の上昇が1mm未満。
2. 診断の確定(どうなればBrugada症候群か?)
ガイドライン(2022年)では、以下のいずれかの場合に診断が確定する。
- 自発的なType 1波形:心電図検査で自然にType 1が認められる場合。
- 薬物負荷後のType 1波形:普段はType 2やType 3であっても、Naチャネル遮断薬(ピルシカイニド等)を投与した際にType 1へ変化する場合。
※つまり、Type 2や3は「Brugada症候群の疑い」として、専門医で精密検査(薬物負荷試験)を受けるべき対象となる。
専門医へのコンサル基準
以下の場合は、リスク層別化と診断確定のために循環器専門医へ紹介する。
- Type 1波形を認める全例(無症状でも紹介推奨)。
- Type 2・Type 3波形があり、かつ「原因不明の失神」や「家族に若年突然死者がいる」場合。
治療法・具体的な処方例
1. ICD(植込み型除細動器)
唯一の確実な突然死予防策である。
- クラスI(絶対適応):VF蘇生後、または持続性VT既往例(二次予防)。および自発的Type 1波形+不整脈を疑わせる失神既往例。
- S-ICD(完全皮下植込み型除細動器):血管内にリードを入れないため、若年者においてリード関連の合併症を減らす選択肢として推奨される。
2. 薬物療法
ICDの適応がない無症候性の一部、あるいはICD作動を繰り返す(不整脈ストーム)際に行われる。
- キニジン(キニジン硫酸塩):IST上昇を改善させる数少ない経口薬。
- 300〜600mg/日 3分服。
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
- 「発熱」時の緊急対応:Brugada症候群の患者は発熱時にST上昇が増強し、VFを来しやすくなる。37.5度以上の発熱時は、たとえ微熱でも速やかにアセトアミノフェン等で解熱を図るよう指導を徹底する。
- 禁忌薬の周知:Naチャネル遮断薬(抗不整脈薬以外にも精神科薬や麻酔薬の一部を含む)が波形を悪化させる。患者には必ず「避けるべき薬剤リスト」を携帯させるべきである。
予後・患者説明のポイント
- 「心電図に特徴があるからといって、全員がすぐに倒れるわけではありません。まずは正しく怖がることが大切です」と伝え、特定の状況(熱、酒、薬)でのリスクを強調する。
- 失神既往がない無症候性の場合、年間のイベント発生率は0.5%程度と低いが、一生涯では無視できないため、年1〜2回の定期受診を約束する。
参考文献
- 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン(2022年改訂版)
- 2024年JCS/JHRS ガイドラインフォーカスアップデート版不整脈治療
