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肝・胆・膵

自己免疫性膵炎の診断・治療

自己免疫性膵炎の概要

自己免疫性膵炎(Autoimmune Pancreatitis, AIP)は、自己免疫機序が関与すると考えられる特殊な膵炎である。

1型と2型の2つの亜型に分類されるが、日本においては1型が大部分を占める。

1型自己免疫性膵炎は、IgG4関連疾患(IgG4-related disease)の膵病変とされており、膵臓の腫大や主膵管の不整狭窄像、血中IgG4値の上昇を特徴とする。

本疾患は、しばしば閉塞性黄疸や膵腫瘤形成を伴い、膵癌との鑑別が重要である。

組織学的には、著明なリンパ球および形質細胞の浸潤、IgG4陽性形質細胞の蓄積、花筵状線維化(storiform fibrosis)、および閉塞性静脈炎を特徴とする。

これらの膵内病変に加えて、涙腺・唾液腺の炎症、硬化性胆管炎、後腹膜線維症などの膵外病変を合併することが多い。

ステロイド治療が著効する点も特徴的であり、診断後の適切な治療が疾患制御に重要である。

自己免疫性膵炎の疫学

2011年に実施された全国疫学調査によると、自己免疫性膵炎の有病率は人口10万人あたり4.6人、罹患率は1.4人と報告されている。

近年、本疾患に対する認識が向上しており、診断技術の進歩と相まって診断される患者数はさらに増加する可能性がある。

特に1型自己免疫性膵炎は中高年男性に多く、2型に比べて日本での発症例が顕著である。

一方、欧米では2型の発症例も報告されており、地域や人種による差異が示唆されている。

自己免疫性膵炎の分類(1型・2型)

自己免疫性膵炎は主に1型(Lymphoplasmacytic Sclerosing Pancreatitis, LPSP)と2型(Idiopathic Duct-centric Pancreatitis, IDCP)の2つに分類される。

それぞれ異なる病態や臨床像を持ち、地域による発生頻度の違いが見られ、日本ではほとんどが1型である。

分類1型自己免疫性膵炎(LPSP)2型自己免疫性膵炎(IDCP)
地域的分布日本やアジアで主に発生欧米で主に発生
好発年齢・性別中高年男性に多い比較的若年層、男女差なし
症状軽度~無症状の腹痛、閉塞性黄疸、糖尿病、膵外病変を伴うことが多い腹痛が頻発、しばしば急性膵炎を伴う
関連疾患涙腺・唾液腺炎、硬化性胆管炎、後腹膜線維症などの膵外病変潰瘍性大腸炎を合併することがある
免疫検査所見血清IgG4が高値になることが多いIgG4や自己抗体は正常
画像所見膵腫大、膵管の不整狭細像膵腫大、膵管の狭細像
組織学的特徴リンパ球・形質細胞浸潤、IgG4陽性形質細胞浸潤、花筵状線維化好中球上皮病変(GEL)
治療ステロイド治療が有効ステロイド治療に対するデータは乏しい
発生頻度日本で主流(IgG4関連疾患に含まれる)日本では極めて稀

自己免疫性膵炎の症状

自己免疫性膵炎では、通常の膵炎で見られるような強度の腹痛はほとんどなく、心窩部不快感や軽度の痛み程度にとどまることが多い。

膵頭部腫大に伴い下部胆管が狭窄・閉塞することで、閉塞性黄疸が高頻度に見られる。

また、2型糖尿病の合併が認められる場合があり、軽度の障害例ではステロイド治療による改善が期待できる。

さらに、涙腺や唾液腺の腫大などの膵外病変に関連した症状がみられることもある。

自己免疫性膵炎の検査・診断基準

自己免疫性膵炎(2型)の診断基準

自己免疫性膵炎臨床診断基準 2018から引用

A.診断項目
I.膵腫大a.びまん性腫大(diffuse)
b.限局性腫大(segmental/focal)
II.主膵管の不整狭細像a.ERP
b.MRCP
III.血清学的所見高 IgG4 血症(≧135 mg/dl)
IV.病理所見a.以下の①~④の所見のうち,3つ以上を認める。
b.以下の①~④の所見のうち,2つを認める。
c.⑤を認める。
①高度のリンパ球,形質細胞の浸潤と,線維化
②強拡1視野当たり10個を超えるIgG4陽性形質細胞浸潤
③花筵状線維化(storiform fibrosis)
④閉塞性静脈炎(obliterative phlebitis)
⑤EUS―FNAで腫瘍細胞を認めない。
V.膵外病変a.臨床的病変:膵外胆管の硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎(Mikulicz病),後腹膜線維症あるいは腎病変と診断できる。
b.病理学的病変:硬化性胆管炎,硬化性涙腺炎・唾液腺炎,後腹膜線維症,腎病変の特徴的な病理所見を認める。
VI.ステロイド治療の効果専門施設において、膵癌や胆管癌を除外後に、ステロイドによる治療効果を診断項目に含むことができる。ただし、悪性疾患の鑑別が難しい場合はEUS―FNA細胞診を必須とし(上記IVc)、病理学的な悪性腫瘍の除外診断なくステロイド投与は避けるべきである。
B.診断
I.確診①びまん型:Ia+<III/IVb/V(a/b)>
②限局型:Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>の2つ以上
またはIb+IIa+<III/IVb/V(a/b)>+VI
またはIb+IIb+<III/V(a/b)>+IVb+VI
③病理組織学的確診:Iva
II.準確診限局型:Ib+IIa+<III/IVb/V(a/b)>
またはIb+IIb+<III/V(a/b)>+IVc
またはIb+<III/IVb/V(a/b)>+VI
III.疑診びまん型:Ia+II(a/b)+VI

血液検査

  • 肝胆道系酵素の上昇: 総ビリルビン、ALP、γ-GTPの上昇が多くの症例で認められる。
  • 膵酵素の軽度上昇: アミラーゼ、リパーゼの異常高値は少ない。
  • 血清IgG4上昇: 自己免疫性膵炎の特徴的な所見で、感度80%、特異度98%と診断に非常に有用。血清IgG4値≧135 mg/dLを異常とし、約68~92%の症例で認められる。
  • 免疫異常:抗核抗体(ANA)は約32~64%、リウマトイド因子(RF)は約18~25%で陽性となる。補体C3、C4の低下が認められることもある。

画像検査

腹部超音波検査

  • びまん性膵腫大
     膵全体が腫大し、「ソーセージ様(sausage-like)」と表現される形状を示す。
     エコーパターンでは、低エコー像を示し、内部に散在する高エコースポットを認めることがある。
     主膵管の拡張を伴わないことが多い。
  • 被膜様構造(capsule-like rim)
     膵外縁に低エコーの帯状構造を認める場合がある。

CT検査

  • 膵腫大
     びまん型: 膵全体が腫大し、低吸収域を示す。
     限局型: 腫瘤様病変を形成する場合があり、膵癌との鑑別が必要。
  • 被膜様構造
     膵病変全体を取り囲むような帯状低吸収域を認めることがある。線維化を反映した特徴的な所見。
  • 膵管狭窄
     膵頭部に限局する病変では、膵内胆管狭窄を伴い閉塞性黄疸を呈する。
  • 主膵管貫通像(duct-penetrating sign)
     膵腫大内を膵管が貫通している像が特徴的。膵癌では通常認められない。
  • 漸増性増強パターン
     線維化が進行した部位では、造影CTで遅延性に増強効果を示す。
     典型的な例では、正常膵実質と比較して低吸収を示し、時間経過とともに増強される。

MRI検査

  • T1強調像
    膵腫大は低信号を示す。
  • T2強調像
    膵腫大は高信号を示す場合が多い。
  • 被膜様構造
    CTと同様に、膵辺縁部の低信号帯として認められる。
  • MRCP
    主膵管の狭窄や不整像が確認できる。ただし、ERCPに比べ解像度は低い。
  • 造影MRI
    CTと同様、遅延性増強パターンを認める。

ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)

  • 膵管狭細像
    主膵管にびまん性または限局性の不整な狭窄像を認める。
    膵癌との鑑別では、びまん性狭細像が特徴的。
  • 胆管狭窄
    硬化性胆管炎を伴う場合、膵頭部病変に一致して膵内胆管の狭窄を認める。

超音波内視鏡(EUS)

  • 膵腫大
    膵全体が低エコーで均一なびまん性腫大を示す。
    線維化を反映する線状や網状(亀甲状)の高エコー像が内部にみられる。
  • 組織採取
    EUSガイド下穿刺吸引法(EUS-FNA)による組織採取は悪性腫瘍との鑑別に有用。

FDG-PET検査

  • FDGの集積
    高率にFDGの異常集積を認める。
    膵癌との鑑別: びまん性や多発性の集積、涙腺・唾液腺、肺門リンパ節など膵外病変への集積が鑑別に役立つ。

病理学的診断

  • 1型(LPSP):
    著明なリンパ球と形質細胞の浸潤。
    IgG4陽性形質細胞浸潤が診断の根拠となる。
  • 2型(IDCP):
    好中球の膵管上皮への浸潤(granulocytic epithelial lesion; GEL)が特徴的。

診断的治療目的のステロイド

膵癌や胆管癌を除外後に行う。

ステロイド治療開始後、2週間以内の症状改善を確認することで診断を補助。

鑑別困難な場合に限定して実施するべきであり、安易な適応は避けるべき。

自己免疫性膵炎の合併症

主な膵外病変

硬化性胆管炎

胆管の狭窄による閉塞性黄疸や胆管炎を引き起こす。

下部胆管では膵頭部癌や総胆管癌、肝門部や肝内胆管病変では胆管癌や原発性硬化性胆管炎との鑑別が重要となる。

胆管造影や病理組織像が診断に有用であり、IgG4関連疾患の膵外病変が認められる場合は、IgG4関連硬化性胆管炎の可能性が高い。

涙腺・唾液腺病変

涙腺や唾液腺の対称性腫大を認めるが、乾燥症状(口渇感や眼球乾燥)は軽度。

シェーグレン症候群との鑑別が重要であり、本疾患では抗SS-A抗体や抗SS-B抗体は陰性となる。

病変は無痛性で持続するが、ステロイド治療により改善する。

腎病変

尿細管間質性腎炎が主体であり、腎機能障害や尿所見の異常を伴う。

CTやMRIで腎皮質に造影不良域を認めることが特徴的。

病変が軽度であればステロイド治療により回復する。

後腹膜線維症

後腹膜腔での尿管や大動脈周囲の軟部組織病変を特徴とする。

尿管狭窄による水腎症や大動脈壁の肥厚、動脈瘤を呈することがある。

ステロイド治療による改善が期待されるが、動脈瘤が進行する場合は外科的治療が必要となる。

呼吸器病変

肺門縦隔リンパ節腫大、気管支壁や小葉間隔壁の肥厚、結節影、浸潤影など多彩な病変を示す。

鑑別疾患にはサルコイドーシスや肺腫瘍が含まれる。

潰瘍性大腸炎(2型AIPに多い)

腸炎の症状として血便や腹痛を伴う場合があり、消化器病変として認識される。

膵外および膵内分泌機能障害

約80%の症例で膵外分泌機能低下(消化酵素不足)、約70%で膵内分泌機能障害(糖尿病)を認める。

軽症例ではステロイド治療により機能回復が見込まれる。

長期的なリスク

長期間の経過で膵石を形成する例がある。

悪性腫瘍(膵癌、胆管癌など)の合併が報告されており、これらの疾患との鑑別診断が重要となる。

自己免疫性膵炎の治療

自己免疫性膵炎の治療は主にステロイド療法を中心に行われるが、軽症例の中には自然軽快する例も報告されている。

有症状例や膵外病変を合併する例では、適切な治療介入が必要となる。

ステロイド治療

閉塞性黄疸、持続する腹痛や背部痛、膵外病変を伴う症例が主な適応である。

また、糖尿病や高度黄疸を伴う場合には、それらの管理を行ったうえでステロイド治療を開始する。

初期治療(寛解導入)

薬剤と用量:プレドニゾロン(PSL)0.6 mg/kg/日を経口投与。1日量を朝に分服する。

治療期間:2~4週間継続投与し、その後血液検査や画像所見、症状の改善を確認しながら、1~2週間ごとに5 mgずつ減量する。

投与方法の例:
プレドニゾロン:1日30 mg(体重50 kgの場合)から開始し、朝食後に投与。
制酸剤(PPIなど):ステロイドによる消化性潰瘍を予防。
骨粗鬆症予防薬(ビスフォスフォネートなど):ステロイド長期投与による骨代謝異常を予防。

維持療法

寛解導入後、再燃予防のためプレドニゾロン5~10 mg/日を3年間継続することが推奨される。

減量の注意点:10 mg以下での再燃リスクが高いため、慎重に漸減する。

画像検査や血液検査を定期的に行い、疾患活動性を確認する。

再燃例への対応

再燃時には、プレドニゾロンの再導入または初回投与量への増量を行う。

再燃リスクを考慮し、減量は初回治療よりも緩徐に行う。

再燃を繰り返す症例では、免疫抑制薬(アザチオプリンなど)の併用を検討する。

欧米ではリツキシマブの有効性が報告されているが、日本では保険適用外であり、慎重な判断が必要である。

難治例の治療

ステロイド抵抗性または依存性の症例では、免疫抑制薬(アザチオプリン)やリツキシマブ(抗CD20抗体)の使用が検討される。

ただし、重篤な副作用リスクがあるため、適切な管理下での使用が求められる。

補助療法

膵内外分泌機能障害:膵酵素補充薬(消化酵素剤)やインスリン療法を必要に応じて行う。

閉塞性黄疸合併例:胆管狭窄が高度の場合、治療前に内視鏡的ドレナージを行うことが推奨される。

軽度の黄疸であれば、ステロイド治療単独で対応することも可能。

副作用への対策

ステロイド治療中は、以下の副作用リスクに注意する:

骨粗鬆症:骨密度測定を定期的に行い、ビスフォスフォネートを導入する。

消化性潰瘍:制酸剤を併用する。

高血糖:糖尿病管理を徹底する。

治療後のフォローアップ

ステロイド治療の終了後も、3年以上の長期経過観察が推奨される。

血液検査や画像診断を定期的に行い、再燃や新たな膵外病変の発生を早期に把握することが重要である。

再燃リスクを最小限にするため、治療終了後も患者教育を行い、早期受診を促す。

自己免疫性膵炎の予後

自己免疫性膵炎はステロイド治療により短期的には良好な予後が期待できる。

しかし、高率に再燃が認められるため、長期的な経過観察が重要である。

また、一部の症例では膵石灰化や膵萎縮を生じ、慢性膵炎に移行することがある。

これにより膵外分泌機能不全や糖尿病が進行し、膵の機能的予後に影響を及ぼすことがある。

悪性腫瘍との関連については、自己免疫性膵炎に膵癌を併発した症例の報告があるものの、両者に科学的な因果関係を示す根拠は十分ではない。

ただし、慢性膵炎への移行例を含めて、悪性疾患の発症リスクを考慮した注意深い経過観察が求められる。

IgG4関連疾患としての側面もあり、自己免疫性膵炎(特に1型)は指定難病に分類される。

診断確定後には、重症度判定を行い、必要に応じて医療費補助の申請を検討する。

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