はじめまして。消化器内科医のDr.ゆう(@residoctor)です。
日々の臨床、誠にお疲れ様です。消化器病専門医試験の準備を進めようとしている先生方の中には、

そもそも、自分は今年の受験資格があるのだろうか?
J-OSLER-Gでの症例登録が始まったらしいが、自分の場合はどうなる?


学会の公式サイトを見ても、情報が色々なページに飛んでいて、結局何から手をつければいいか分からない…
といった、勉強内容以前の「手続き」に関する不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
特にJ-OSLER-G(新制度)の導入により、受験資格や症例要件は医師免許の取得年や基本領域によって複雑に分岐しています。
この記事は、消化器内科医である私(Dr.ゆう)が、後輩医師の皆さんのために、日本消化器病学会(JSGE)の膨大で断片的な公式情報をすべて集約・整理し、「この記事1本で、申請から合格まで迷わなくなること」をゴールに作成した完全ガイドです。
さらに、私自身の4度の転職経験(プロフィール)に基づき、難関である専門医資格を取得した後のキャリア戦略まで、具体的に解説します。
【2026年】消化器病専門医試験 概要と重要日程
まずは、2026年(第36回)試験の基本情報と、受験者がカレンダーに今すぐ入れるべき「落とし穴」のある日程から確認しましょう。
試験概要
| 項目 | 詳細 |
| 試験日 | 2026年10月4日(日) |
| 試験時間 | 13:00 – 15:30 (受付 12:30-12:45) |
| 試験会場 | 全国のCBTテストセンター |
| 試験形式 | CBT方式 |
| 出題数 | 100題 |
| 出題形式 | Aタイプ(単純択一)、X2・X3タイプ(多真偽) |
| 出題分野 | 食道、胃、腸、肝、胆、膵、その他 |
| 審査料 | 15,000円(税込) |
| 認定料 | 30,000円(税込) |
| 認定日 | 認定日:2027年1月1日 認定期間:2027年1月1日〜2031年12月31日(5年間) |
※出典:JSGE 実施要項
合格率の推移:「落とす試験」ではないが油断は禁物
試験の概要を確認したところで、次に気になるのは「難易度」でしょう。
「消化器病専門医試験は難しいのか?」
その答えを知るために、過去の受験者数と合格率の推移を見てみましょう。直近のデータをまとめました。
| 年(回数) | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|
| 2025年(第35回) | 857 | 775 | 90.4% |
| 2024年(第34回) | 891 | 813 | 91.2% |
| 2023年(第33回) | 837 | 612 | 73.1% |
| 2022年(第32回) | 859 | 747 | 87.0% |
| 2021年(第31回) | 1,678 | 1,462 | 87.1% |
| 2020年(第30回) | 中止 | 中止 | ※コロナ禍 |
| 2019年(第29回) | 1,084 | 947 | 87.4% |
ご覧の通り、例年の合格率は概ね87%~91%と非常に高い水準で推移しています。2023年(第33回)に一度70%台まで落ち込みましたが、直近2年は再び90%台に戻っており、安定しています。
このデータから言えることは、本試験は「基本的な知識を身につけていれば、過度に恐れる必要はない試験である」ということです。
しかし、高い合格率を見て油断してはいけません。特にCBT方式では、消化器全領域から満遍なく知識が問われます。「みんな受かるから大丈夫だろう」と高を括らず、学会指定のテキストや問題集で着実に対策を行うことが重要です。
では、その「着実な準備」の第一歩となる、最も複雑な「受験資格」の確認から始めていきましょう。
⚠️要注意!申請タイムラインと「落とし穴」
申請プロセスで最も注意すべきは、「申請したら終わり」ではない点です。特に見落としがちな2つの「落とし穴」を強調します。
- 申請期間: 2026年2月1日~3月31日
- この期間内に、申請書類の作成、審査料の納入、指導医による承認のすべてを完了させる必要があります。
- 申請受付後5月中旬まで審査され、審査内容に不備・確認事項があった場合は差し戻しになります。
- 【落とし穴①】学会年会費の納入期限: 2025年5月31日
- 最重要です。これは申請者用の特別期限であり、通常の年会費請求書とは別です。3月に申請が完了していても、この年会費納入を忘れると受験資格が失効します。
- 受験資格判定(通知): 2026年6月中
- 会員マイページ(お知らせ)に通知されます。
- 【落とし穴②】受験会場予約: 2026年7月下旬(予定)〜
- 受験予定者は試験専用サイトで受験会場予約申込が必要です。
- 会場予約は先着順です。この予約開始日時を忘れていると、都市部の希望会場が埋まり、遠方の会場での受験を余儀なくされるリスクがあります。
- 試験日: 2026年10月4日
- 結果発表: 2026年11月中旬~下旬
- 認定書発行:2026年12月中旬
【最重要】あなたは受験できる? 複雑な受験資格の完全ガイド
受験資格は「①学会会員歴」と「②臨床研修歴」の2つの要件で構成されています。
要件①:学会会員歴(全トラック共通)
- 「継続4年以上本学会の会員であること」が必須です。
- 具体例: 2026年の試験を受験するためには、2023年12月31日までに入会した継続会員が該当します。
要件②:臨床研修歴(基本領域別)
基本領域の資格によって、必要な消化器臨床研修の年数と、最短で受験可能となる医籍登録年が異なります。
- 内科系(認定内科医・内科専門医など):
- 内科研修(3年)修了後、満3年以上の消化器臨床研修が必要。
- 最短で医籍登録7年目から受験可能。
- 外科系(外科専門医):
- 外科臨床研修(4年)修了後、満2年以上の消化器臨床研修が必要。
- 最短で医籍登録7年目から受験可能。
- 放射線科系(放射線診断専門医・治療専門医):
- 放射線科研修修了後、満2年以上の消化器臨床研修が必要。
- 最短で医籍登録8年目から受験可能。
- 小児科系(小児科専門医):
- 小児科研修(5年)修了後、満2年以上の消化器臨床研修が必要。
- 最短で医籍登録8年目から受験可能。
最大の壁「症例レポート」完全攻略:J-OSLER-G vs 旧制度
受験資格における最大の障壁であり、最も情報が錯綜しているのが「症例要件」です。
「自分はJ-OSLER-Gを使うのか? それとも従来の紙の評価表(カリキュラム評価表)なのか?」
この「新旧分岐」こそが、本記事が最も価値を提供すべきポイントです。まずは、以下の早わかり表で、ご自身がどちらに該当するかを確認してください。
【早わかり表】症例要件はどっち? あなたが使うべきシステム
出典:JSGE公式サイト「専門医新規申請 2025年~2027年」の情報を基に作成
| 基礎領域 | 医師免許取得:2018年以前 | 医師免許取得:2019年以降 |
|---|---|---|
| 内科系 | B: 研修カリキュラム評価表 | A: J-OSLER-G |
| 外科系 | B: 研修カリキュラム評価表 | B: 研修カリキュラム評価表 |
| 放射線科系 | B: 研修カリキュラム評価表 | B: 研修カリキュラム評価表 |
| 小児科系 | B: 研修カリキュラム評価表 | B: 研修カリキュラム評価表 |
ご覧の通り、2019年以降に医師免許を取得した内科系の先生のみが新制度「A: J-OSLER-G」の対象となります。それ以外の方は、従来の「B: 研修カリキュラム評価表」を使用します。
A: J-OSLER-G(新制度)完全ガイド
- 対象者: 医師免許取得が2019年以降、かつ基本領域が内科の医師。
- 症例要件:
- 量: 最低 120症例 の登録
- 幅: 58疾患以上(全107疾患リスト中)の経験
- バランス: 消化管、肝、胆膵、腹腔・腹壁の各分野で偏りなく経験
- 制限: 外来症例は全症例数の20%まで
- 提出方法: J-OSLER-Gシステムから「研修実績 進捗状況」表をダウンロードし、提出します。
J-OSLER(内科専門医)と同様、J-OSLER-Gの運用も非常に手間がかかります。特に58疾患という「幅」の要件は、基幹病院にいても意識しないと埋まりません。
症例登録は決して溜めず、経験後すぐに登録・評価依頼を行うこと。
経験しにくい疾患は、指導医や上級医に「経験したい」と早期からアピールし、ローテートや担当症例を調整してもらうことが重要です。指導医への評価依頼も、こまめなリマインドが(心苦しいですが)必須です。
B: 研修カリキュラム評価表(旧制度)ガイド
- 対象者: 上記A以外。
- 外科系・放射線科系・小児科系の全医師
- 医師免許取得が2018年以前の内科系医師
- 提出物: 「消化器病専門医研修カリキュラム評価表(冊子)」
- 重要要件: 複数の施設で研修した場合、各施設の認定指導医による署名・捺印が必須です。
医局派遣などで関連病院を転々としている先生は、この「指導医のサイン」が最大のネックになります。
異動する前に、必ず指導医からサインをもらっておくこと。
「次の赴任先でまとめてやろう」は危険です。後から遡ってサインを依頼するのは非常に大変であり、最悪の場合、研修歴が認められないリスクがあります。異動の挨拶の際に、必ず評価表(冊子)を持参しましょう。
消化器病学会専門医試験 合格への「最短の勉強法」と必須問題集
複雑な申請プロセスをクリアしたら、いよいよ試験勉強です。勉強法はシンプル・イズ・ベストです。
「学会公式の問題集を、徹底的に繰り返す」
これに尽きます。CBT試験では過去問と類似の問題も多く出題されるため、公式問題集の網羅が合格への最短ルートです。
必須の対策問題集:日本消化器病学会専門医資格認定試験問題・解答と解説
まずは最新版(2022年出版)の「第9集」から始めましょう。
第9集には、日本消化器病学会の専門医試験問題と解説が74問分掲載されています。
さすがにこれだけでは少ないので、第8集(2018年出版、58問)も勉強したほうがよいです。余裕があれば、第7集(2016年出版、90問)も勉強しましょう。
消化器領域のテキスト
問題集だけでは、系統だった学習が難しいため、テキストによる学習も必要です。全てのページを読破するのは現実的ではないですが、自分の苦手分野だけでも通読しておくと特典率が大きく変わります。
ここでは2冊紹介します。
消化器診療 最新ガイドライン 第5版
ガイドラインベースで勉強したい、新しいテキストの方がいい(2025年出版)、という先生には「消化器診療 最新ガイドライン 第5版 」がおすすめです。
現在ガイドラインは大量に存在するため、全てのガイドラインに目を通すのは中々に大変です。
この本は消化器疾患のエキスパートが、国内外ガイドラインの最新知見をコンパクトにまとまっています。
最新ガイドラインの要点・改定点をわかりやすく解説してあるため、試験のup to data対策としても有用です。
専門医の「診療の実際」「処方例」も掲載してあり、試験と関係なく実臨床でも使えるため買っておいて損はないでしょう。
専門医のための消化器病学 第3版 (2021年出版)
「病態の理解を軸に消化器疾患を総合的に捉える」というコンセプトで作成された1冊。
ガイドラインを解説した1冊目よりもしっかり理解して勉強することが可能です。
消化器内科は、上部・下部消化管、肝、胆、膵と大きく分けられますが、自分の専門以外の領域は病態理解が問題集やガイドラインだけでは難しいかもしれません。
この本はこれまで紹介した本よりも疾患を理解することができるため、参考書として用意しておいたほうが理解と記憶が進むでしょう。
専門医資格を活かすキャリア戦略
ここからは、無事に専門医試験に合格した後のキャリアのお話です。
「消化器病専門医」の資格は、あなたの医師としてのキャリア(年収、QOL、働き方)を劇的に改善する、最強の武器になります。
この資格は、内視鏡スキルと全身管理能力の証明であり、一般病院からクリニックまで、転職市場での価値が非常に高い専門資格です。
専門医取得という「キャリアの節目」にいる今だからこそ、ご自身の市場価値を客観的に見つめ直し、将来のキャリアプランを考える絶好の機会です。
4度の転職と管理職経験から見えた「転職のリアル」
私はこれまで、市中病院の勤務医から管理職(副所長や消化器内科科長)、そして現在のフリーランスと、4度のキャリアチェンジを経験してきました。(Dr.ゆうのキャリア遍歴)
その経験から断言できるのは、「自分の専門性を活かせる職場で、納得のいく条件(年収・QOL)で働くことは可能」だということです。
しかし、そのためには「受け身」ではいけません。
私自身が後悔しない転職のために実践した「転職サイト活用3原則」は、以下の通りです。
- 受け身はNG: コンサルタントを「交渉の武器」として使い倒す。
- 登録は1社に絞らない: 必ず「複数登録」で客観性を担保する。
- データで比較する: 自分の診療科(消化器内科)と地域で、本当に求人数が多いサイトを選ぶ。
特に重要なのが「3」です。サイトによって得意な診療科や地域は全く異なります。「消化器内科医」の価値を最大化するには、「消化器内科」の求人を最も多く持っているサイトを主戦場にすべきです。
【データ公開】消化器内科医のための 転職サイト求人数 比較
賢い転職サイトの使い方
私の推奨は、上記のような客観的データに基づき、「ご自身の勤務希望地で、求人数の多い上位3社」に登録することです。
1社だけの情報では、それが本当にベストな条件か比較できません。3社に登録し、情報を客観的に比較することで、初めて「本当に自分に合った職場」と「自分の適正な市場価値」が見えてきます。
専門医資格を武器に、ご自身のキャリアを最大化するための一歩として、まずは情報収集から始めてみてください。
- 消化器内科の求人を上記比較表からチェックする
- 他の全診療科の求人数データベース(比較表)を見てみる
- Dr.ゆうの4度の転職体験談とキャリア論を読む
まとめ
本記事では、消化器病専門医試験の複雑な受験資格から、最短の勉強法、そして合格後のキャリア戦略までを網羅的に解説しました。
- 試験日程: 「年会費(5/31)」と「会場予約(8/7)」の落とし穴に注意。
- 受験資格: 「内科系」かつ「2019年以降の医師免許取得者」のみJ-OSLER-Gが対象。
- 症例要件: 該当する制度(J-OSLER-G or 旧評価表)を確認し、早めに準備する。
- 勉強法: 公式問題集を徹底的に繰り返す。
- キャリア: 専門医資格は最強の武器。客観的データ(求人数)に基づき、賢くキャリアアップを目指す。
先生方の合格と、その後の自分に合ったキャリアを心より応援しています。
