10秒サマリー
- 三尖弁閉鎖不全症(TR)とは:右室収縮期に三尖弁が十分に閉まらず、血液が右房へ逆流する疾患。多くは左心系疾患や肺高血圧に伴う二次性TRである。
- 診断の鍵:頸静脈怒張や、吸気時に増強する収縮期雑音(Rivero-Carvallo徴候)が特徴。第一選択の検査は経胸壁心エコー図検査。
- 治療の要点:基本は利尿薬による体液管理。重症例や、僧帽弁閉鎖不全症(MR)などの手術を行う際は、同時に弁輪縫縮術を検討する。
概要・疫学
三尖弁閉鎖不全症(TR)は、右室から右房への血液逆流が生じる病態。成因により以下の2つに大別される。
- 一次性(器質性)TR:三尖弁自体の異常。エプスタイン奇形、感染性心内膜炎、外傷、ペースメーカーリードの干渉などが原因。
- 二次性(機能性)TR:弁自体に異常はなく、左心系疾患(MRやMS)、肺高血圧、心房細動等による右室・三尖弁輪の拡大が原因。臨床で遭遇するTRの大部分を占める。
かつては「左心系を治療すれば自然に改善する」と考えられていたが、近年は重症TRの遷延が右心不全から肝・腎不全を招き、予後を著しく悪化させることが判明している。
症状・身体所見
軽症では無症状。進行すると右不全症状が顕著となる。
- 症状:易疲労感、労作時息切れ、下肢浮腫、腹部膨満感(腹水)。
- 身体所見:
- 頸静脈:怒張。重症では収縮期の陽性波(v波の増高)を観察。
- 心音:胸骨左縁下部の全収縮期雑音。吸気時に雑音が増強するRivero-Carvallo(リベロ・カルバロ)徴候は診断に有用。
- その他:肝腫大、肝拍動、黄疸など。
初期検査・鑑別診断
診断・重症度評価には経胸壁心エコー図検査(TTE)が必須。
- 心エコー(TTE):逆流の程度、弁の形態、三尖弁輪径(40mm以上は拡大)、右室サイズ・収縮能、推定肺動脈圧を評価。
- 胸部X線:右第4弓の突出(右房拡大)、上大静脈の拡張。
- 心電図:右軸偏位、右室肥大、不完全右脚ブロック、心房細動の有無。
鑑別疾患:僧帽弁閉鎖不全症(MR)や心室中隔欠損症。吸気による雑音の変化(Rivero-Carvallo徴候)の有無が鑑別点となる。
専門医へのコンサル基準
診断基準・精査の詳細
心エコーによる重症度評価。以下の指標が重症TRを示唆する。
- 縮流部幅(Vena contracta):0.7cm超。
- 肝静脈血流:収縮期逆流波(Systolic reversal)の出現。
- 有効逆流口面積(EROA):0.40cm²以上。
精査として、TTEで評価困難な場合は経食道心エコー(TEE)、右室容積の定量には心臓MRIが検討される。
治療法・具体的な処方例
内科的治療
利尿薬による体液管理と原因疾患の最適化が基本。
- ループ利尿薬:
- フロセミド(ラシックス®) 10〜40mg 1日1回 朝
- アゾセミド(ダイアート®) 30〜60mg 1日1回 朝
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA):
- スピロノラクトン(アルダクトンA®) 25mg 1日1回
- 心房細動合併時:レートコントロールおよび抗凝固療法。
外科的治療
- 手術適応:
- 左心系手術時の重症TR、または中等症以下でも弁輪径40mm以上。
- 症状を伴う単独の重症TR(右室機能が低下する前)。
- 術式:三尖弁輪縫縮術(TAP)が第一選択。人工リングを用いた弁輪縮小を行う。
resi Dr.の眼(Pitfalls・匙加減)
- 雑音の消失は改善ではない:右室と右房の圧力が等しくなるほどの重症例では、雑音が減衰・消失する(Silent TR)。雑音の大きさで重症度を過小評価してはならない。
- 肝・腎機能への影響を注視:TRによる右心不全は、うっ血性肝障害(胆道系酵素やビルビンの上昇)を招く。これらは心不全管理の指標となる。
- 心房細動管理の重要性:心房の拡大が三尖弁輪を牽引するAtrial functional TRが増加傾向にある。早期のAf介入がTR改善に繋がる可能性がある。
予後・患者説明のポイント
- 予後:重症TRの放置は右心不全を悪化させ、悪液質(カヘキシア)に至る。長期予後は不良。
- 説明:「右側の弁の緩みが原因で、全身に水分が溜まりやすくなっている。薬で水分を調整するが、必要に応じて手術で弁の形を整える検討が必要」と説明。
参考文献
- 2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン
- 心不全診療ガイドライン 2025年改訂版
